VRMMO ママとの買出し
ログインして、ベッドで仰向けの状態から上半身を起こしながら今日することを考える。
(昨日行った洞窟が気になるから行ってみようかな?確か下層では光源が必要で、魔法を使うモンスターがいるんだったよな。初めてのダンジョンだし、行ける所まで行くって事にしておこう。)
今日の計画を立てながら1階に下りると客は誰もいなくて、厨房には相変わらずママがログインしていた。
「ママ、こんばんは。」
「あらダチ君こんばんは。今日は午前中から武蔵君がログインしているわよ。」
「え?午前中からですか?」
「そうなのよ。私より早くてびっくりしたわ。何でも今日は久々の休日だそうよ。今は外で1人で冒険していて、『まいちゃんかダチ君が来たら、一緒に外で戦いたいから連絡してほしい』って言われているんだけど、ダチ君は今日予定入ってる?」
「(うーん。まあ、ダンジョンは今日行かないといけないわけではないし、明日にしようかな。折角武蔵が来ているんだし。)いいえ、大丈夫ですよ。」
「分かったわ。じゃあ武蔵君にメールするからちょっと待っててね。」
ママはそう言うと目の前で指を動かして、半透明のステータス画面を開いてメールを作って武蔵に送った。それからすぐに返信が来たらしく、ママは再びメールを送ってからステータス画面を閉じた。
「今、魔方陣から離れた所にいるみたいで、戻って来るのにちょっと時間が掛かるみたいよ。・・・もし武蔵君が帰って来るまでする事が無いなら、今から私と食材の買い物に付き合ってもらいたいんだけどどうかしら?」
「(短時間ではダンジョンに行っても意味が無いし、ママが昨日荷物を重たそうに持っていたよな。目立ってしまうだろうけど、いつも料理を作ってもらっているからなあ。)いいですよ。」
「じゃあ決まりね。武蔵君が帰ってくるといけないから今から行くわよ。」
と言いながら、ママはおれの腕を引っ張りながら出て行こうとする。
「・・・あの、腕や手は繋がなくていいですよ?」
「そう?別にいいじゃないの。」
「とても、ものすごく、非常に恥ずかしいので、止めてください。」
「・・・しょうがないわね。」
ママと謎のやり取りをしながら店『Bar Minority』を出る。
「まずは南大通りに行くわよ。」
ママはそう言いながら歩き始めたのでその後を追う様について行った。おれが目立ちたくないのを常に言っていたからか、南大通りに出るまでは裏路地を通ってくれている様だった。
歩き始めてから少し経った頃、ママが唐突に「そういえばダチ君はどんなタイプの男性が好きなの?」と此方を振り返りながら聞いてきた。
「(いきなりだなあ。っていうか前にまいちゃんにも聞かれたよな。みんなこういう話しに興味があるのだろうか?)えーと、おれと同じ巨漢でガッチリしてて多少太っているのが好みです。」
「ふーん。ダチ君と同じ様なガチデブ・巨漢系って事ね。・・・私なんかどうかしら?」
「(え?今の聞こえてたよね?)・・・えと、申し訳ないですが・・・」
「ちょっと聞いてみただけよ。気にしないでね。」
その後、裏路地を出るまでママは後ろを振り返ること無く無言で歩き続けた。
裏路地から南大通りに出ると大勢の人が行き交い、武具や露天を出したり食べ歩きをしているプレーヤーの姿もあった。目立つ体型・職業のせいでチラッと此方を見られるが、大勢いるからか珍しく無くなったからなのかは分からないが、見続けられたり向かって来る人はいなかった。
「さて、この南大通りにはノンプレイヤーキャラクターが出してる八百屋や魚屋があるわ。まずはそこに行くわよ。」
と、ママはいつもの表情で振り返りながら歩き出す。路地裏での微妙な空気が無くなった感じがして正直嬉しかった。
(それにしても本当に色んなプレーヤーがいるよなあ。リアルの世界と同じ様なラフな感じの人や、鎧やローブを着ている人、職人のような作業着を着ている人、様々だ。大通りの真ん中の方は表示されている職業が重なって見えない位だ。ただ、体型は痩せ~普通の人ばかりだ(泣)。・・・ん?なんかいい匂いがする・・・あ、焼き鳥焼いてる!)
「・・・あら?ダチ君、立ち止まって涎垂らしてどこ見てるのよ。」
「あ、すみません。いい匂いがしたんで。」
「食い意地張ってるわね。・・・いいわ、荷物持ち手伝ってもらうし、いつも戦利品も貰っているから買ってあげるわ。」
ママはそう言って、おれが見つめていた焼き鳥屋に行き、2本買って来てくれた。
「私はいらないから2本ともいいわよ。」
「いいんですか?」
「どうせ1本じゃ食べ足りないでしょ?」
「・・・(確かにそうです。)」
そして再び歩き出したママの後を、焼き鳥2本(HP10%回復・30分物理攻撃力5%上昇 満腹度 小)を食べながら歩き始めて数分、1軒の八百屋の前に着いた。色々な野菜が籠や箱に入っており、店の前に置かれている籠に購入者が自分で野菜を入れて店長(中年男性・背普通・やや恰幅・エプロン付き)に渡す仕組みらしい。
「まずいるのは・・・」
ママはそう言いながら色々な野菜を籠に入れていく。籠に入りきらないに位になったので、おれがその籠を持ち、ママは2籠目を使い始めた。
「やっぱりダチ君に来てもらって良かったわ。私じゃ1籠分しか買えなかったから。」
そういいながら2籠目を埋めていくママを見ていると、同じ野菜でも手前からじゃなくバラバラに取っているように見えた。
「ママ、手前から取らないんですか?」
「え?ああ、同じように見えるけど何となく1個ずつ違うような気がするの。例えば、この手前にあるのとその奥にある野菜、同じ野菜で大きさや傷の有無も同じよ。でもなんとなく『調理で使うならこっち』って直感で思う事があるの。で、実際に調理してみるとそれが凄く良かった事が多いのよ。『直感スキル』の御蔭かしらね。」
「(そんな所にもスキルが影響してくるのか・・・)」
その後、結局3籠分を選んだママは店長に話しかけに言った。
「店長、こんにちは。」
「らっしゃい。お、ママさん、今日も買い出しかい?ご苦労さんだねぇ。」
「ふふ、ありがとう。今日は荷物持ちがいるから多く買わせて貰ったわ。」
「有難いねえ。その荷物持ちってのは、後ろにいる大男かい?確かに荷物持ちとしては十分なガタイだな。お前さん、名前は何て言うんだい?」
「えと、ダチと言います。」
「ダチ、か。いい名前だな。今日はママさんの荷物持ちとして頑張れな。」
「(あれ?ママさんって八百屋さんからの好感度高め?毎日会っているだろうから?じゃあ自分も毎日鍛冶場長に会いに行くと好感度上がったりする?)」
そんな事を考えながら、買い物が終了した野菜を両手に持ち八百屋を後にする。その後、近くにある魚屋(店長は中年男性・背やや高・筋肉質・耐水のエプロン付き)に行き、2籠分を買った(ここでもママの好感度は高かった)。
「さて、後は個人で家庭菜園しているプレーヤーの所に行くわよ。」
と言いながら路地裏に入って行くのでそのまま付いて行く。どこをどう通ったのかは分からないが、暫くすると小さな畑と家が見えてきた。畑には若そうな女性が作業をしており、いくつかの野菜も実がなっていた。
「こんにちは。作業お疲れ様です。」
「あら、ママさんこんにちは。この前頂いた野菜カレー、とっても美味しかったわ。どうもありがとう。」
「いえいえ、此方で頂いた野菜が良かったからですよ。今日は以前頂いた野菜の一部で炒め物を作ってみたんですが、宜しかったらまた野菜を売って頂けませんか?」
「此方こそお願いします。いつも美味しく調理して頂いて、私も嬉しいです。・・・あら、後ろの方は?」
「私のチームメンバーよ。今日は荷物持ちとして同行してもらっているの。彼のおかげでいつもの3倍位を一気に買えたわ。」
そんな会話の後、ママは幾つかの野菜をサクル(八百屋の時よりやや安めの値段)と炒め物で交換をして、軽く会話した後『Bar Minority』に帰る事になった。
「自分で土地を買って畑を作っているプレーヤーもいるんですね。」
「珍しいプレーヤーよね。以前偶々ここを通った時に知ったのよ。彼女が作る野菜は八百屋に売って無かったり味が優れている事があるのよ。彼女も何かスキルを持っているのかも知れないわ。彼女が言うには、作った野菜をノンプレイヤーキャラクターに売っても安価でしか買い取って貰えなくて、私に売った方が価格が良くて料理まで付いてくるから助かっているそうよ。お互いにプラスになるからこの関係は続けていきたいわ。」
その後、『Bar Minority』に帰って来ると武蔵が先に帰って来ており、カウンターに座っていた。
「ママ、ダチお帰り。って凄い量の荷物だな。手伝うよ。」
武蔵はそう言ってママとおれの荷物の一部を持ってくれて、そのまま3人で厨房に食材を片付けた。
「ダチ君、今日はどうもありがとう。御蔭で数日は食材を買いに行かなくても良くなったわ。武蔵君も持ってくれて助かったわ。今日は2人でこれから外に行くのよね?好きなものを作るからメニューを見て言ってね。」
「(どういう戦い方をするかによって、食べ物を考えないといけないよな。)武蔵、今日はどういう戦いになる?」
「そうだなあ。ダチには最初は敵の攻撃を防いでもらってその間に俺が敵の数を減らすから、敵の数が減ってきたら攻撃に参加して貰いたいな。後、結構歩く事になると思う。」
「(成程、じゃあ・・・)ママ、おにぎり(特大)(HP25%回復・30分物理防御力20%上昇 満腹度 特大)お願いします。」
「ダチお前特大かよ。ママ、カツ丼(並)(HP15%回復・30分物理攻撃力10%上昇 満腹度 中)をお願い。」
「分かったわ。ちょっと待っててちょうだい。」
ママはそう言うと厨房に帰って行った。
「そうだ、ダチ。職業ランク2になったんだな。ママも2になってたし、俺も今日でなりてーなあ。あ、今日の事だけど、西門から行ける迷いの森って行った事あるか?」
「いや、西門からは山の方にしか行った事が無いなあ。」
「了解。じゃあまずは西門まで魔方陣で、そこからは歩きで森に行くか。」
今日の計画を纏めたところでママが厨房から戻って来た。
「お待ちどうさま。じゃあ気を付けて行ってらっしゃい。」
「「はい、行ってきます。」」
そう言って魔方陣から西門に向かった。
※今回は職業ランク・スキルレベル・装備に変更が無いので、省略させて頂きます。