VRMMO 砂浜に再挑戦(戦闘)
魔方陣で南門入り口に移動すると、昨日程ではないが多くのプレイヤーがいた。掲示板の件もあるので直ぐに門へ向かい外に出る。そしてそのまま昨日の海岸に向かう為に道を逸れようとした時、
「おーい、そこの重戦士くーん。」
と後ろの方から声が掛かる。これが女性の声だったら急いで逃げただろうが、やや低い男性の声だったので足を止めて振り向いてしまった。すると、自分より背の低い戦士姿のおじさんと軽鎧や魔法使い用の装備をした女性が4人此方に向かって来ていた。
(あ、しまった。つい男性の声に反応して。もう距離が無いから逃げれないな。今更他のチームに入る気は無いし、男女比が1対4ならなおさらだ。取り敢えず話だけ聞いて勧誘なら断ろう。ただ、どこかで見たような・・・?)
5人組は目の前まで来た後、代表してかおじさんが話し掛けて来た。
「呼び止めてしまってすまなかったな。一昨日は4人いたけど今日は君1人だったから思わず声を掛けてしまったんだ。もしチームから抜けたのなら勧誘しようとしたんだけど、職業の下にチーム名が出ているから抜けたわけじゃ無かったんだな。ただ、今日は1人なのかい?もし良かったら今日だけでも組まないか?」
「(一昨日?・・・あ、4人で海岸行った時に門前で勧誘してきた人達だ。諦めてなかったのか。と言うか女性4人も連れている・・・一般的なハーレム状態?そんな中に入りたくない。)すみません。今日は1人でレベル上げをしたいので。」
「いやいや、多人数で効率的にそこそこのモンスターを倒したり、強いモンスターと戦った方がレベルも上がるぞ?」
(うーん。今の自分としては、『初対面でいきなりハーレム状態だけど大きくレベルが上がる<1人でこつこつレベルを上げる』なんだけどなあ。同じチームでもないし。)
どう言ったら説得できるかを考えていると、1番後ろにいた女性が自分を見ながら「え!?」と声と共に驚きの表情をした。それを聞いておじさん達は「何だ、どうした?」と言いながら後ろを振り返った。
(これはチャンス!説得する方法が見つからないし、このまま逃げちゃおう。ママの時みたいに腕を掴まれていないのが良かった!)
おじさん達に声も掛けずに静かに且つ全力疾走でその場から逃げる。後ろからは「身体能力10に大盾スキルだと!?、ってあ、どこに行くんだ!」と言う声が聞こえたが聞かなかった事にして、道から外れて草原を走り続ける。すると手前の方から草人形と大蛾2匹が向かって来た。後ろを振り向くと、おじさん達とは距離はかなりあったけどまだ追って来ていた。
(ここで戦闘すると追いつかれるかも。しょうがない、強引に突破するか。)
走るスピードは落とさずにモンスターの群れに向かって行く。そしてぶつかる直前でシールドプッシュを使い、モンスター達を前方扇状に弾き飛ばした。モンスター達は体力が2割程削られ尻餅をついた様な状態になったので、勿体無いがそのままにして走り去る。
その後、3回モンスターが向かって来たが、全て弾き飛ばして走り続けた。しかし、疲労が溜まって来たので振り向くと、さすがに諦めたのか誰もいなかったので歩きに変更する。
(ふう、もういいかな。後ろにいた女性は『観察』系のスキルを持っていたのかな?それにしても、疲労が溜まるのが早すぎる気がする。リアルならもっと走らないと今ぐらいの疲労状態にはならないんだけど・・・)
と考えていると効果音が鳴り、『大盾スキルが40になり、スキル『リモートシールド』を覚えました』『身体能力スキルが40になり、満腹度減少速度が10%上昇するようになりました』とアナウンスが流れた。
(『満腹度減少速度が10%上昇』ってのは、消化が良くなって、飲食アイテムの再使用がしやすくなったって事かな?そして『リモートシールド』は、『盾を身体から離して、視界内で自由に操作できる。相手の攻撃を受け止めたり押し返す事もできるが、自身から離れるにつれて性能が落ち、疲労も溜まりやすくなる。発動中、常に疲労蓄積(大)』。うーん、すごい便利そうだけど、疲労蓄積(大)がどの位なんだろう?というか、今疲労が溜まっているのは『シールドプッシュ』を4回使ったからかな?)
と思い、まずステータス画面で疲労度を見ると70となっていた。次に『ヘルプ』を見ると『スキルと疲労・精神疲労・魔力』の項目があり、『アップデート以降、魔法以外のスキルは魔力を必要としない変わりに疲労が溜まります。溜まる量はスキルの種類・疲労軽減等の補助の有無・元々の身体能力等で個人差が出ます。大まかな目安としてスキルには小・中・大等の表記があります。魔法スキルでは魔力を消費する事以外に、疲労の変わりに精神疲労が溜まります。溜まる量については疲労と同じとなっております。』と書いていた。因みにシールドプッシュと回転切りを見てみると、説明の後に『1回毎に疲労蓄積(小)』と書いていた。
(今の自分の疲労度は70。シールドプッシュ1回で10位溜まったのかな?って事は大は40以上溜まるかもしれないな。試すのはまずは安全な所でする事にしよう。)
疲労が70だが無理をしなければ極端に上昇する事は無いようなので、海岸までに現れたモンスター達とは、盾で防いだ後剣で倒す事にした。複数で来た場合には反撃をくらったが微々たるダメージなので無視する。そして何回か戦闘した後で効果音が鳴り、『大剣スキルが30になり、スキル『貫通突き』を覚えました』とアナウンスが流れた。説明を見ると、『剣を後ろに引いた後、勢いを付けて相手に向かって突き刺す事により、相手の身体を貫通させる。勢いが強いと威力が増し、相手を少し吹っ飛ばす。また、真後ろの相手にも刺さる。助走をつけると勢いが強くなりやすい。1回毎に疲労蓄積(中)』と書いていた。
(回転切りよりは使えそうだな。砂人形にも刺さるのだろうか?時間があれば試してみるか。)
その後何回か戦闘した後、海岸への小道にたどり着いた。
(ここにはモンスターが現れないから『リモートシールド』を使ってみるか。ただ、疲労が70になっているから『オレンジ味のポーション』を飲んで回復するか。)
オレンジ味のポーションは、味はやや薄めの味で飲み易かった。飲んだ後、疲労は40・満腹度は15・HPは9.5割だったのが全快(11割)になっていた。
(満腹度小で15か。これが小食であろうまいちゃんやママだと25位になるのかな?さて、使ってみるか。)
海岸入り口手前の所に立って、盾を身体の前に構える。そして『リモートシールド』と声を出した。発動した後、盾が宙に浮いたように軽くなった。そのまま手を離しても盾はその場に浮いたままになっていた。試しに頭の中で『ゆっくり前に行け』と指示すると、思ったとおりに盾がゆっくりと前に動いた。
(なにこれ凄すぎる。ゲームとはいえこんな序盤で常識を覆す事が起きていいの?・・・ってあれ、何か身体が凄く疲れてきた・・・。疲労度はどうなっているだろう。)
頭の中で『手前に戻って来い』と指示した後、動いてもいないのに部活で走りこみをして座り込みたくなる位の疲れが溜まってきている身体を動かして、ステータス画面から疲労度を見てみる。すると毎秒約5ずつ上昇していっており、現在90に達する所だったので直ぐに『リモートシールド』を解除して、背中を壁につけその場に座り込んだ。盾はそのまま足元に落ちた。
(酷すぎる。約10秒しか使えなかった。緊急時以外使わないって事にしておこう。)
座り込んだまま盾を装備し直しながら次の事を考える。
(まず目的の『大盾スキル50』にする為に、砂人形の攻撃を盾で防ぎ続ける事をしよう。草人形では40になった後、急に伸びが悪くなったからなあ。その後は大剣スキルを上げてもいいけど・・・、やっぱり海岸の左側が気になるなあ。観察スキルを持っているからなのかは分からないけど、『絶対に砂浜を通って崖の向こう側に行ける』って思えるし、逆に右側は海の深い所まで崖が出ているし。大盾スキル50にした後、行ってみるか。ではまず、腹ごしらえだな。HP自然回復効果を使えば時間短縮出来るだろうし。)
道具袋から、『親子丼(大盛り)』と『オレンジ味のポーション』を取り出して、無人の海岸を目の前に食事とした。
(正に、まいちゃんが言っていた『プライベートビーチ』だな。50万人もいる筈なのに自分1人で海岸を独占しているし。そして相変わらずママの料理は美味しい。味が深いって感じなんだよな。出来立ての新鮮さも感じるし。)
食べ終わった後ステータスを見ると、疲労40・満腹度65・30分間HP自然回復25%上昇・10分間HP自然回復5%上昇となっていた。そしてステータス画面を閉じてから立ち上がり、盾を構えながらゆっくりと砂浜に足を踏み入れる。少し砂浜に入った後しばらく待っていたが、砂人形は現れなかったので、少しずつ波打ち際に近づいて行く事にした。そして波打ち際まで半分位の所まで来た時、斜め右前の砂が盛り上がり、砂人形が姿を現して向かって来た。昨日の記憶が脳裏に出て来るが、冷静に盾を構えながら砂人形を『観察』する事にした。
砂人形は相変わらずかなりのスピードで向かって来て、直ぐに腕を振り上げて切りかかって来た。盾で攻撃を受けたら、『ギィン!』と本当に刃物で切られた様な音をたてた。しかも攻撃は完全に防いだのにHPが1割程減った。
(これは、砂人形の攻撃が強過ぎて盾でダメージを抑え切れなかったって事かな?何時までも初心者用じゃ駄目かもな。取り敢えず今は、少しずつ後退するか。)
と考えていると、『砂人形 砂が集まって出来た人形 砂地のみ移動可能。移動速度は速い。手にあたる部分を刃物状にして攻撃してくる。レベル22 HP120 属性?? 弱点??』と表記が出た。
(レベル22でHP120!確かウルフや草人形はレベル1桁だったよな。HPも50無かった筈。これは1対1でも勝てないかも。やっぱり大剣スキル上げは諦めるか。)
そう考えていると、『観察スキルが20になり、ダンジョン内の罠を目視で発見する事が出来るようになりました。』とアナウンスが流れた。
(ダンジョンか。まあ、行く事になったら便利かな。どんな罠があるんだろう?)
と思いながら、盾で砂人形からの攻撃を受けながら少しずつ後退する。そしてHPが半分切ったら小道に戻って小休憩をして、HPが回復したら再び砂浜に行くのを何回か繰り返した。オレンジ味のポーションはまだ持っていたが、一応温存しておく事にした。そして、砂人形の攻撃を盾で受けている時に、効果音が鳴り、『大盾スキルが50になり、スキル『ビッグシールド』を覚えました』『身体能力スキルが50になり、状態異常耐性が10%上昇するようになりました』とアナウンスが流れ、その後ファンファーレのような音楽が鳴り、『大盾スキルが50になり、盾(大盾)初段になりました』『身体能力が50になり、身体能力 初段になりました』『盾(大盾)初段になり、職業がランク2 修練盾戦士になりました』とアナウンスが流れた。アナウンスが多すぎたので、1度小道に戻ってから再確認することにした。
(まずスキルから見ていくか。『状態異常耐性』ってのは一般的なゲームに例えると、毒やマヒになりにくくなるって事だよな。今までなった事が無いけど。『ビッグシールド』は、『装備している大盾の大きさを2倍・重さを1.5倍にする。大きくなる時に大盾の一部が地面にめり込む事がある。発動中、常に疲労蓄積(中)』。大きい攻撃を防ぐ時にだけ使う感じかな。一応どんなのか今使ってみるか。)
下ろしていた腰を上げて盾を前に構えて『ビッグシールド』を使った。すると一瞬で盾が自分の身長を越えて少し見上げる位になった。地面を見ると少し埋まっていた。持ち上げようとすると確かに重くなっており、埋まっているのを抜く時は腕と膝を使って立ち上がる様に持ち上げる事となった。そして振り回したり上に掲げるのも一苦労だった。どんなのかが分かった所で、毎秒約3ずつ疲労が上昇していたので解除して再び小道に座り込む。
(使用中は動く事は出来そうに無いな。足止めか後衛を守る時用だな。さて、『ランク2 修練盾戦士』は、『修練盾戦士 盾のスキルをある程度上げた戦士。防が高く、守備において覚えたアクティブスキルが役に立つであろう 職業補整 総防10%上昇』。盾は何かから守る為の物だから、防しか上がらないか。大剣スキルを50まで上げたらもっと変わるのかな?ってまあ、当初の目的は果たしたからいいか。次は砂浜から崖の向こう側に行ってみるか。何があるか分からないし、波打ち際まで行くと砂人形が増える可能性もあるから、まずHPを全快にしておこう。オレンジ味のポーションが残り3つだから座って回復するか。)
しばらく座っているとHPが全快になり、疲労が30、満腹度が40となっていた。今まではゆっくり砂浜に入っていたが、今回は最初から走って左側の波打ち際を目指した。波打ち際まで半分位まで来た時に、斜め前から砂人形が1体現れ此方に向かって来た。今回は相手をしたくないので、ぶつかる直前でシールドプッシュを使って砂人形を弾き飛ばした。そしてそのまま走り続けた。
波打ち際直前の所で、今度は斜め前方2方向から1体ずつ砂人形が現れた。同時に此方に向かって来たので、さっきと同じ様にタイミングを合わせて2体同時に弾き飛ばした。その後、崖の先端に着いたので波打ち際を通って反対側に入ると、2倍程の海岸が広がっており、今までいた砂浜の様に上に登れる小道みたいなのは無かった。そして対岸の崖は海まで伸びておりそこで海岸が終わっている。その崖には洞窟のような大穴が空いており、砂浜から中に入れる様な感じだった。
(あの大穴が見るからに怪しい。入れそうだし、行ってみるか。)
と考えていた時に、背中に少し切られた様な感覚があり、HPが2割減った。振り向くと、さっき弾き飛ばした砂人形が2体、再び切りつけようとしていた。
(追いかけて来るの速いって!しょうがない、もう一度弾き飛ばしてその間に走って、また切り付けられたら再び弾き飛ばそう。)
切りつけられる直前で弾き飛ばし、大穴に向かって走った。そしてまた切られて、弾き飛ばして、走ってを繰り返していると、HPと疲労が危なくなって来たのでオレンジ味のポーションを走りながら飲んだ。
(そういえば、もうこっちの海岸の半分位まで来たけど、何も現れないなあ。元々こっちの海岸では何も現れないのか、砂人形の出現数は2体までって決まっているのかな?って言うか今更だけど、引き返した方が良かったかな?)
頭ではそんな悠長な事を考えながら、背中を切られ弾き飛ばし走り続ける。そしてオレンジ味のポーションが残り1つになった所で、大穴の前まで来ることが出来た。大穴の前には立て札と白い光の柱があった。
(あれは移動用の魔方陣!って事はあの近くにはモンスターは来れないんじゃないかな。)
と思い、魔方陣の近くまで行き振り返る。砂人形達は前方数メートルの所で止まってそのまま崩れていった。安心して緊張が解けたのか疲労感が溜まって来たので、大穴の隣の崖に背につけその場に座り込んだ。暫く座って、疲労感とHPを回復させた後、立ち上がって先ずは立て札を読む事にした。
『ダンジョン 暗闇の海岸洞穴 3階層 ボス有り 達成者0 このダンジョンは全体が暗く、下層では暗黒となっており、光源が必要となっております。モンスターは小型の水・闇属性が多く、魔法も使って来ます。』
(光源?たいまつとか?店に売ってるのかな?でも自分は盾と剣持っているから無理だろうな。魔法はくらった事が無いから何とも言えないなあ。)
確認した所で、リアルの時間がかなり経っているのに気付いて、急いで魔方陣から『Bar Minority』に戻った。
店に着くと、今日は客は誰もいなかった。カウンターまで行ってみると、ママが厨房で何か作業をしているのが見えた。
「ママ、戻りました。」
「あらダチ君、お帰りなさい。あ、職業ランク上がったのね。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「あ、今日持って行って貰った親子丼はどうだったかしら?」
「美味しかったですよ。今までママが作ったのは全て美味しかったです。何か特別な事でもしているんですか?」
「そうねえ。調理と製作技術スキルでの補整があると思うけど、直感スキルで食材を選んでいるのもあると思うわ。見た目では同じに見えても時々、『何となくこっちの方が良さそう』って思う事があるのよ。そういえばさっきまでいたお客さん達も『俺も調理スキルを持っているけど、こんなに美味しくは作れない』って言っていたわね。そうそう、そのお客さん達にダチ君用に作ったオレンジ味のポーションを見せたら『道具作成と調理スキルでこんなのも作れるんですね。売れると思いますよ。』って言って貰ったから、こういう系統のも作って売ろうと考えているのよ。」
「(直感スキルってそんな事にも使えるのか。)お客さん来ていたんですね。確かにあのポーションは美味しくて効果も良かったですよ。あ、今日の戦利品です。」
と言って、ママに草人形や大蛾等からのドロップ品を渡す。
「ありがとう。この店の売り上げが伸びて、いつかはみんなから戦利品を貰わなくてもいいようになりたいわ。あ、もちろんチームはそのままよ。」
「いえ、自分は急いで欲しい物は無いので大丈夫ですよ。あ、もう遅いので今日は寝ます。」
「はーい。お休みなさいね。」
(ママはまだ起きているつもりなのかな?大丈夫なのだろうか?)。ママと別れて2階の自室に入り、ベッドに仰向けに倒れてログアウトした。
職業 ランク2 修練盾戦士
スキル
盾(大盾) 適性10 レベル38→初段 レベル5
身体能力 適性10 レベル38→初段 レベル5
近戦武器(大剣) 適性9 レベル27→36
観察 適性8 レベル18→22
アクティブスキル
シールドプッシュ
リモートシールド
ビッグシールド
回転切り
貫通突き
装備
初心者用大剣 攻20+2(10%)
初心者用大盾 防22+4(20%)
初心者用鎧 防16
初心者用兜 防10
初心者用グリーブ 防10
敏捷の腕輪 防2
総攻22 総防64+6(10%)
肉体疲労10%軽減(身体能力)
HP10%上昇(身体能力)
HP回復力10%上昇(身体能力)
満腹度減少速度10%上昇(身体能力)
状態異常耐性10%上昇(身体能力)
行動速度10%上昇(敏捷の腕輪)