リアル 部活の無い日常(後)
まだ昼前なのに、進路指導室前には20人位(部員は約30人)の部員が集まっていた。あいさつした後聞いてみると、みんなすることが無かったらしく、寮室で寝てたり気晴らしに遊びに行っていたらしい。(毎日身体は動かした方が良いと思うけどなあ。まあ、部活が無くなると意味も無くなるけど。)と思いながら談笑5割不安5割の話しを聞いているうちに、まだ来ていなかった部員も集まってくる。
昼が過ぎて少し経った頃、進路指導室の扉が開き昨日の先生が、「お前達、静かに待てないのか?・・・まあいい、中に入りなさい。」と言ってきた。部員達は急に静かになりながら進路指導室に入って行く。と、後ろから「しまったー!寝過ごしたぁ!!」と小野君が廊下を猛ダッシュしてくる。当然先生に「廊下を走るな!大声を出すな!」と注意されていた。
進路指導室内には教頭先生が1人いるのみだった。ただ、右側に屏風が広げられており、向こう側は見えないようにされていた。全員が入った後、先生が扉を閉めて教頭先生の隣に立った。教頭先生は無言で真剣な眼差しを此方に向けてくる。しばらく静まり返った空気が流れた後、教頭先生が、
「さて、まず監督が生徒に暴力を振るった事だが、幸い重症では無いにしろ怪我を負ったのだから『指導』とは見なされない。部長や副部長、OB達にも聞いたが『あれは監督の自分勝手なやつ当たりだった』と言っておる。朝だった為この事件が外部には漏れていないが、大学側としては今後再び起きることを無くす為に、昨日限りで監督を解雇するつもりでおる。みんなは昨日あった事件の事は誰にも言わないようにしてほしい。次に副部長と監督が殴り合った事だが、現在2名は重症では無いが病院で手当てを受けておる。副部長は、部員や部長に暴力が振るわれ冷静な判断が出来なかった点があるが、最初から監督に殴りかかった事、相手に怪我をさせてしまった事から、暫くの間、自宅謹慎とする事になった。部長も責任と言う意味で自宅謹慎とする事になった。まず、事件に関する事は以上だ。」
みんな静まりかえっている。そりゃそうだろう。自宅謹慎なんていきなり言われても現実味が無い。そのまま空気が固まっていると、
「では次の問題だが、現在、監督がおらず部長・副部長共に一時的にいない状態になっておる。監督は探しているのだが、いい人材が見つからない状態だ。また、大学側としては『新しい監督を見つけたとしても今回のような事件がまた起こるのではないか。それに去年のような良い成績を残せるのか。』という事が懸念されておる。実際去年は違う監督と副監督だったのだしな。一昨日の練習試合も、去年は圧勝した相手に辛勝だったと聞いておる。そこでみんなには『部活を再開し、新しい監督が入っても事件等が起きず、且つ良い成績を残せるかどうか』を各自で考えてみてもらいたい。難しい事だとは思うが、大学側としても事件等は起きてもらいたくは無いし、予選の初戦敗退等では意味が無い。因みにみんなの意見を聞き、部活を廃部・若しくは成績を諦めた場合だが、スポーツ特待で入っている者は替わりに他の部活に入ってもらうか、スポーツ特待から外れてもらい他の学業等をしてもらう。一般で入っている者は他の部活に入ってもらうか学業等に専念してもらう。明後日の昼過ぎにまたここに集まってもらうので、その時までに考えておいてほしい。それまで部活動は中止とする。話しが長くなったが私からは以上だ。何か質問等あれば言ってほしい。」
うわ、話しがどんどんでかくなってきている。本当に廃部まで行くかもしれない状況だ。しかも最低でも明後日までラグビーボールさえ触れないのはキツイ。あ、部活動は駄目だけどトレーニングルームは使っていいのかな?身体がなまるから使いたいんだけどな。と言うことで聞いてみると、「うん?構わんよ。ラグビーに関する事さえしなければ外のグラウンドで走ったり身体を解したりしても構わんよ。」という事だった。
その後は誰も質問が無かったのでお開きとなった。外に出てすぐにみんな「おいおい本当に廃部になるのか?」「それは俺達次第って事だろ?あの監督じゃなけりゃ事件なんて起きねえよ」「でも成績はどうすんだ?」「もし廃部になって特待消されたら俺まじで退学する」と話し合っている。(まあ、事件は起きないとしても成績は監督によると思うけど。それまでは身体を緩ませないようにしないとな。)と考えていると、
「なあ大原。これからどうするの?おれは何か身体を動かしておかないと不安になるんだけど。もし良かったら一緒にグラウンドかトレーニングルームで身体動かさない?」と小野君が聞いてくる。
(相変わらず元気だなあ。僕は解読の続きをする予定だったけど、そういう気分じゃなくなったしなあ。付き合おうかな。)という事で小野君と希望者(部員の半数位)と一緒に不安をかき消す為に身体を動かしてそのまま帰路についた。
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進路指導室での話しが終わり、部員達が出て行きその声が廊下から聞こえなくなった後、屏風の後ろから1人の黒髪の女性が出て来た。
「どうでしたかな?あの部員達で今年はいい成績が残せそうですかな?」と教頭先生が女性に話しかける。
「まだなんとも言えませんね。ただダt・・・いえ、あの巨漢のように『廃部になるかもしれない状況の中でも率先して身体を鍛えようとする者』は良いと思います。他の部員もつられて鍛えようとするでしょうし。」
「なるほど。まあ此方としては問題が起こらなくて良い成績がでさえしたらいいのだがね。では明後日また来て下さい。」と教頭先生と隣にいた先生は出て行き、室内は女性一人となる。
「・・・ふんっ、偉そうに。まあ、私が監督になったら私のやり方でそれなりの成績を出させてもらうよ。超一流では無いのがほとんどの20前後のガキを大学の威光にだけ使おうとするのは好きじゃないからね。それにしても、こんな所でダチに会うとはね。まあ、私は直接あのゲームをしている訳じゃないから顔を見られても問題ないけど。リアルでもゲーム内でもダチは大変だねえ。」と言うと女性も外へ出て行った。