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中編

 リリィは私と対のドレスを領地で発注した。私の領地では自然豊かで、名産のマクリーン織が絹から作られている。もちろん私は言うまでもないく、マクリーン織の上品さを損なわない程度には贅をふんだんに尽くしたドレスを新調した。

 私のドレスは淡い桃色に染め上げた裾のふんわりとしたもので、コルセットを締め上げるのにずいぶん苦労した。普段しないことをするのは骨折り損どころではなく、本気で内臓が潰れるのではないかとコルセットを縛り上げられるときは戦々恐々としていた。メイドの目が、私を殺さんというばかりに険しかったので、よりいっそう死を本気で覚悟すべきではないかと感じた。


 リリィのドレスは体に沿う形のマーメイドドレス濃い緑色の体に沿ったラインは私が男であったら、一夜のお誘いを間違いなく申し込むしかない妖艶さを醸し出していた。

 今日はきれいに着飾ったリリィの横にいれるのかと思ったら、思わず興奮して、のぼせあがってしまった。彼女のドレスは踊りには向かない。それは、私のそばにいますという気遣いを表したものだ。



 前方、後方、左右よし!

 私は今日は踊りませんとあらわしたドレスを着たリリィを私から奪おうとする人はいないだろう。彼女は絶対に譲らないと決意した。


「ウェンディ。あなたは可愛いのだからびくびくしないの」

 そうやって周りをキョロキョロと自分でもせわしくなく視線を動かしていたら、リリィからお叱りの言葉を受けた。

 反省はするが私のこの漲る思いは止められないという意思を込めてリリィをみつめる。



 リリィに連れられて、寡黙そうな男のもとに連れらてきた。落ち着いた色合いのと言えば聞こえはいいが、暗い色彩の瞳に黒髪の男は開口一番に私を侮辱してきた。


「リリィ。珍しい子リスを連れているな」

 相手からすると褒め言葉なのかもしれないが、気に食わないことは親しげにリリィから名前で呼ばれていることだ。そこからすでに彼の言うことはすべて気に食わない。その上、リリィの手を取り、キスを落とした。

 あぁ。何たるバカなことを私はしたのだろう。なぜ、レースの手袋などを発注してしまったのか。しっかりと腕まである完全な防御ができるものを頼まなかったのか。

 レオと呼ばれた男の唇がリリィの白魚のような肌に触れるなど許せない。そんな男の愚行を許すリリィはさながら美の女神だ。誰にでも気まぐれに愛情を分け与え、奪うのがふさわしい。


「あなたこそ。珍しい殿方を連れているじゃない。ハリー様お久しぶりです」

 ハリーと呼ばれた殿方はリリィによく似ていた。兄妹かと一瞬思ったが、リリィの態度はよそよそしいので他人の空似みたいだ。亜麻色の髪に、少し上に上がった目じりは笑うと印象が嘘のように変わり、優しく見える。瞳は、紫紺。高貴な色合いだ。二人は抱く色彩は全く同じで、顔だちもよく似ている。


「こちらの令嬢はウェンディ・マクリーン。温泉の有名な領地をお持ちになってるマクリーン男爵の令嬢ですわ」

 リリィが私を紹介した。とりあえずは静々と淑女らしく優雅にお辞儀をする。

「私はハリーだ。よろしく」

 リリィ似の男はハリーと名乗った。正直、なぜそんなにリリィに顔だちも色彩も似ているかの説明をしてくれるほうが、名前よりも重要なのにと残念に思う。

「ウェンディ。私と一曲踊ってくれないか」

「えっ!」

 突然の誘いに驚く。リリィが敬った態度に出ているような身分の男がいきなり私にダンスの誘いをするとは思えなかった。それよりも、話しかけられることさえないだろうと、適当に場の空気を壊さないように微笑んでいるだけの態勢になっていたので、即座に対応できなかった。

 これが領地であれば、完全にお客様へのサービスを行うために四方八方に気を遣うことができているのに、まだまだ私も未熟だ。領地のことを考えるならば、ここでも営業をしなければ。

「ウェンディ。行ってらっしゃい」

 驚きはしたものの、領地経営のための営業の決心を固めたが、リリィが無情に私をハリー様に譲り渡すのは何とも言えないもやもやとした気持ちになる。リリィが舞踏会に誘ってくれたのだから、もう少し一緒にいたいと渋るふりをしてくれてもいいのにとリリィをじっとみる。

 不満は残るものも、手を引かれて踊りの輪に参加する。


「よろしくお願いします」

 自分の容姿が可愛いという部類に入ることは自覚しているので、下手に大人ぶらないし、高貴ぶることもできない。せいぜい低い身長に、童顔らしく年相応、身分相応の言い方をする。

「こちらこそ」

 誘っておいてハリーという男はちらりとも笑顔を見せずに言った。

 なぜこんなところで踊らなきゃならないんだろう。リリィのほうを盗み見るとレオと呼ばれた男と歓談している。私のリリィと馴れ馴れしいのよ。私のほうが女同士の分、リリィと仲良くできるんだから。

 さっさと一曲踊ってリリィのもとへ帰ろう。初対面の人と踊っていても楽しいことはないし。今日はやっぱり自分の好きなことだけをしよう。領地のために媚を売って自分の時間を消費するなんて、リリィといるときにはもったいない。

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