第6話 3年後の彼女
新章に入ります。
「月日が流れるのは速いなぁ…」
俺は緑茶を飲むと、そう呟いた。前世の茶とは違う種類なのに味はそっくりだ。緑茶派の俺にはありがたい。ちなみに名前も同じ。異世界なのに。
俺がこの異世界に来て、今日でちょうど3年。色々有った…。
3年前
『カオルよ、そなたこれからどうするつもりじゃ?』
7日間トレーニングを終了し、外へ出た俺は魔扇『闇姫』に問われた。
「何とか平穏無事な生活がしたい。後、あのハゲ神をぶっ飛ばしたい」
『無理じゃな』
あっさり否定された。
『そなたは強大な力を持つ。それを周りがいつまでも放っておくわけが無い。後、生身の者は天界に行けぬ。たとえ、そなたでもな』
嫌な事を言われた。
だが、説得力は有る。
俺の力が狙われる可能性はあり得ない事ではない。それに、俺は死んでから神に会った。
現実の残酷さに落ち込む俺に『闇姫』は言った。
『カオルよ、平穏を望むなら強くなれ。誰もそなたに手出ししようと思わぬ程に。天界に行くのは無理でも、これなら出来るであろう』
そうだな。ハゲ神をぶっ飛ばすのが無理なら、出来る事をやろう。力が目的ではないが、俺の平穏な生活の為に必要なら強くなろう。誰も俺に手出ししようと思わない程に。都合の良い事に、今の身体は非常に優秀だしな。
「ありがとう、『闇姫』。やる気が出てきた」
『ホッホッホ、礼には及ばぬ。どうしてもと言うなら、そなたの胸の間に妾を挟み込んでくれれば…』
バシィッッッ!!
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ………!。
俺は全力で『闇姫』を地面に叩き付け、更に踏みまくった。
『何をするか!しかしこれも良いかも…』
現在
「今じゃ、俺もすっかり有名人だな。平穏とは言えないが、少なくとも無事に生きている」
俺は大陸中をあちこち巡り、様々な事件に出くわしては解決。自分の為にやった事だが、その結果、大陸中、最高クラスの実力者として、有名になった。名を上げようと俺に挑む奴もいたが、全て無視。俺としては、放っておいて欲しいのだが…。
「さて、ギルドに行くか」
緑茶を飲み終え、俺は椅子から立ち上がり、外へ出た。
シュン!
一瞬にして、ギルド内へ転移する。便利だな、転移魔法。高位魔法の一つだ。3年間の成果の一つ。
俺は受付の女性の元へ向かう。そして女性が俺に話し掛ける。
「こんにちは、カオルさん。今回も、買い取り要請ですか?」
「はい。今回も買い取りよろしく」
そう言うと俺は空中から、『収穫』を取り出す。
「ミスリルにオリハルコン!しかもこんなに!」
「出くわした奴らの残骸です」
「よく、勝てましたね!流石はカオルさんです!」
驚きながらも、彼女は買い取り手続きをテキパキと進める。有能な女性だ。
「では、これが今回の買い取り価格です。
いかがですか?」
彼女の提示した金額に俺も納得する。
「その金額で良いです」
かくして取引成立。俺はそばに有る端末に、マナカードを当てる。するとカードに今回の買い取り金額分のマナが加算される。ちなみにこの3年間で凄い金額が貯まった。前世ではあり得ない程の。
そんな俺に受付の女性、エリスさんが話し掛ける。
「カオルさん、以前から何度も言っていますが、当ギルドに所属していただけませんか?所属すれば、世界中のギルドにおいて各種恩恵が受けられて、便利なんですよ。今時、フリーの冒険者など、極少数です」
熱心に俺を勧誘する、エリスさん。だが、俺はギルドに所属する気は無い。エリスさんには悪いがな。俺の性格に合わない。
「エリスさん、俺も何度も言っているが、お断りだ」
「頑固ですね、カオルさんは」
「お互い様」
まぁ、これでギルドでの用事は済んだ。俺はエリスさんに別れを告げ、外に出る。食材の買い出しに行こう。
外に出たら、夕方だった。暫し、夕焼けを眺める。
夕暮れの町の風景、だが一つ異様な物が有った。
町の真ん中に建つ巨大な塔。
「正体不明の塔か、本当に、ゲームとかの定番だな」
その塔は1年前、突然、大陸中央に現れた。もちろん、大陸中、大騒ぎになった。
その塔はとにかく巨大だった。特に高さに至っては、頂きが見えない。
大陸を治める4大国は、調査隊を派遣。その結果、塔の内部は様々な魔物がおり、多数の罠も仕掛けられた、非常に危険な場所である事が判明した。事実、調査隊は多数の犠牲者が出た。
だが同時に非常に貴重なアイテム等を入手出来る事も判明した。
その結果、塔に挑む者達が集まり、やがて塔を取り囲む形で町が出来た。
そして、今に至る。だが未だに塔の正体、何故現れたのかは不明。
そして現在、俺も塔を探索する一人。
先ほどギルドで換金してきた、物も塔内での戦利品、俺が倒した魔物の残骸だ。
このように、塔は得られる物は多い。だが、常に死と隣り合わせでもある。事実、これまで大勢の人間が死んだ。最近では塔に挑む奴も減った。ヤバすぎるからな。
「今回の奴は金属系である意味良かった。手こずるが、血が出ないからな」
俺は異世界に来て3年経つが、血を見るのが嫌いなのだ。元、一般人だしな。
後、魔物を殺すとグロいの何の。初戦闘の時は、マジで吐いた。火魔法で焼き尽くすのは、まだマシだったが、風魔法でバラバラに切り裂いた後は最悪だった…。
ファンタジー世界はフィクションとしてなら、楽しめるが、いざ現実となると色々とキツい。前世の地味だが平和だった暮らしが懐かしい…。
そんな事を思う、夕暮れ時だった。
カオルは3年間で更に強くなりました。血を見るのが嫌いで戦う事を避けたがりますが、必要と有れば戦う覚悟を身に付けました。後、魔女なので歳をとりません。不老です。不死では無いが、回復力は凄いです。