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第4話 ハンバーグ万歳

6日目の朝


「よし、朝食完成♪」


俺は、2人分の朝食をテーブルに運ぶ。


「アンジュさん、お待たせ」


そこにはアンジュさんが待機中。今日も朝から、食べる気満々だ。


「今日は、和食ですか。カオルの料理は、何でも美味しいですね」


嬉しそうに言う。

作った俺としても嬉しい。


今朝の朝食は、和食。ご飯、味噌汁、焼き魚(アジの開き)、ホウレン草のおひたし、白菜の漬物。


何故、異世界であるのにも関わらず、前世の世界の食材が有るのか?。要は転生したての俺への配慮だ。異世界に転生したとはいえ、いきなり知らない食材を出されるのはキツい。まぁ、7日間トレーニングを終了し、外に出たら、そうも言ってられないが。


「カオル、今日も午前7時よりトレーニングを開始します。今回はより実戦に近付ける為、私は愛用の武器を使用します」


「あの、俺は武器持ってないですけど?」


「カオル、戦場でそんな意見が通じると思いますか?」


「分かりました…」


確かにアンジュさんの言う通り。戦場でそんな意見は通じない。戦場では生きるか死ぬかだ。ならば俺は生きる為の努力をしよう。そして必ず、平穏無事な生活を手に入れるのだ。


俺は平穏無事を愛している。天下だの、最強の座だの興味無い。ハゲ神のせいで最強魔女に転生したけどな。




俺もアンジュさんも朝食を済ませ、今、俺は食器を洗っている。洗いながら、今日のトレーニング対策を考えていた。


「やはり、あの手で行こう。アンジュさんには、悪いがな…」


ちなみにアンジュさんは、自室に戻っている。俺の転生先のこの部屋は高級マンションそっくりで、部屋数が多く、しかも豪華。俺が前世で住んでいた、安アパートとは、えらい差だ。まぁ、これも、転生したての俺への配慮だ。転生先が、今までの文化とかけ離れた場所だと、これもキツい。俺としては、高級マンション風である事に驚いたがな。


さて、食器も洗い終わったし、俺も部屋に戻ろう。




「まもなく午前7時ですね」


私は時計を確認し、愛用の大鎌、『大いなる慈悲』を手にする。


漆黒のその刃は痛みを与える事無く敵を切断し、更に瞬時に肉体と魂を消滅させる。今では失われた太古の技術の産物。対神魔抹殺武器。


「本来の予定では、使うつもりは無かったのですが…」


カオルはこの短期間で、圧倒的な急成長を遂げた。それは、私の予想を遥かに越えており、その事が、私に『大いなる慈悲』使用を決断させた。


要は我慢出来なくなったのだ。高位悪魔達は最近、動かず、書類の山と格闘する毎日。そこに現れた極上の存在。間違いなく、カオルは私の血を熱く燃えたぎらせてくれる。


だが、その一方で、カオルを殺したくないと思う、私がいる。


この数日間、カオルと二人きりで過ごした。カオルと毎食を共にした。カオルは毎食、私の事を見て嬉しそうだった。


『アンジュさんは、俺の料理をいつも美味しそうに食べてくれるから、作りがいが有る』


カオルの言葉が脳裏をよぎる。


ふと、時計を見れば、午前7時を少し廻っていた。


「いけない!、考え事に夢中になってしまいました!」


私は自室を出て、トレーニングルームに向かう。


『カオル、もし貴女が、このトレーニングで死んだら、私も責任を取って、自害します』


私は心の中で誓った。




「あんな勝ち方が有りますか」


俺は今、アンジュさんから、物凄く、怒られている。我ながら自信有ったんだがな、アレ。


「でも、有効でしょう?、アンジュさんにも通用したし」


「確かに、そうですが、納得出来ません!」


何をしたのかというと、俺はアンジュさんに幻術をかけておいたのだ。そして、アンジュさんはトレーニングルームで俺の幻影と戦っていたのだ。

もちろん幻影だから、倒される事は無い。愛用の大鎌で倒せない事に驚くアンジュさんは、傑作だった。


そして、疲れて動きが鈍った所で俺が大鎌を奪い取って終了。ちなみに幻術にかかっていたアンジュさんには俺の存在が察知出来ないので、突然、大鎌を奪われた時はパニックを起こしていた。天使長のパニック姿を見た奴なんて、そういないだろうな。


「しかし、いつの間に私に幻術をかけたのですか?」


「あぁ、それは今朝の朝食の時に。アンジュさんに幻術が通じる事は昨日のトレーニングの際に使った分身で、確かめたし」


そう、昨日の分身は俺の幻術がアンジュさんに通用するか、確かめるのが目的。分身から封縛呪鎖へのコンボはついで。もちろんこれも、より磨き上げる気だ。分身から更に何かを仕掛ける。色々と使い道が有るだろう。


「トレーニング中でも無いのに、幻術を私にかけるなど卑怯です」


「油断大敵、戦いに卑怯、卑劣は存在しない」


「キーッ、こうなればもう一度勝負です!」


「えっ、まだやるのか!?、俺、幻術解いたぞ!」


「油断大敵と言ったのはカオルでしょう!、覚悟ーっ!!」


「うわーっ!、すみませーんっ!!」


かくして、俺は、大鎌を振り回すアンジュさん相手に今までで、最も危険なトレーニングを夕方までする事になった…。




「アンジュさん、今回は本当にすみませんでした」


「もう良いですよ、私にも油断が有りました。それにしても、美味しいですね」


アンジュさんの目の前には、俺特製、ハンバーグ。


今は6日目のトレーニングを終えて、夕食の最中。

俺は大鎌を振り回すアンジュさん相手に、危うく死にかけたが、何とか、夕方、午後18時まで、切り抜けた。


初日の授業は午後23時半までやったが、以後は午前7時~正午まで、戦闘訓練。午後13時~午後18時まで授業が基本。今日はアンジュさんを怒らせたせいで、授業は無し。全てが戦闘訓練の時間となった。本当によく死ななかったな、俺…。


俺は夕食を食べているアンジュさんに尋ねる。


「アンジュさん、明日は遂に、7日間トレーニングの最終日だが、一体、何をやるんだ?」


アンジュさんは、緑茶を飲むと、こう言った。


「そう言えば、明日は最終日でしたね。気になりますか?」


「当然。今までの命懸けの猛特訓の締めくくり、気になるに決まってる」


「では教えましょう。最終日、7日目の内容は…」


俺とアンジュさんの間に沈黙が降りる。


「お休みです☆」


「は!?」


アンジュさんの言葉は、全く、俺の予想外だった。


「カオル、貴女はこの6日間、過酷なトレーニングをくぐり抜けてきました。だからこそ、最終日は、お休みにするのです」


「という事は、今日で7日間トレーニングは実質的に終了って事か」


「まぁ、その通りですね。でも、勘違いしてはいけません。7日間トレーニングは、あくまでも、貴女が外の世界で一人でやっていけるようにする為の物でしかありません」


「外に出てからが本番か」


「そういう事です。この部屋は貴女の前世の世界に合わせてありますが、外は完全な異世界。どうなるかは、貴女次第」


「これがゲームなら、選ばれし勇者よ、魔王を倒し、世界を救えとか言われる所だな」


「主も私もそんな事は言いません。興味無いですし」


「俺としても言われたくない。俺は自分の平穏無事が最優先」


「カオルはいつも、それですね」


「悪いか?」


「いえ、別に」


お互いに話をしている内に夕食が済んだ。


「カオル、ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした」


アンジュさんは自室に戻り、俺は食器を片付け、洗い物を始めるのだった。

前世でよく聴いていた、好きな歌を口ずさみながら。


「♪~♪~♪♪~♪~」




その夜


『そうか、お前の7日間トレーニングをクリアしたか。流石、俺。良い仕事をした。ガーッハッハッハッ!!』


「笑い事ではありません!カオルの力は歴代転生者と比べても桁外れです、次元が違います!」


『そりゃ、俺の最高傑作、最強の魔女だからな。しかし中身はお前も知っての通りのヘタレだ。この先どうなるか、楽しみだ』


「また無責任なことを…」


『あ?俺は面白ければそれで良いんだよ!』


「少しは私の苦労も考えて下さい…」


『前向きに検討してやる。じゃあな』


一方的に主からの伝話(魔力で動いている電話)が切られた。


やれやれ…。




カオルの部屋


「明日は休みか…」


この世界に来て初めての休日。何をしようか?


「ま、今日はもう寝よう。危うく死にかけたしな…」


俺は布団に入るとすぐに眠りに就いた。

アンジュさんはキレても、カオルの料理を食べれば、鎮まります。



ハンバーグで助かったよ、俺の命…。

(カオル)

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