第2話 1日でわかる異世界入門
黒百合 薫、これが俺の名前。
PNでも芸名でもなく、正真正銘、本名だ。俺は小さい頃から、この名前のせいで散々からかわれてきた。美形なら似合っていただろうが、残念ながら、俺はパッとしない外見だった。故に、俺は他人にフルネームで呼ばれたくないのだ。
そんな俺のフルネームをズバリ言ってくれた、この女性は、暗黒天使長のアンジュさん。
アンジュさんは、ハゲ神より、転生したての俺を一人でやっていける様に鍛えるべく、指導教官として派遣されて来たとの事。
「貴女には今日から、アンジュ式7日間トレーニングを受けてもらいます。反論、拒否は認めません」
うわ、怖いよこの人。
苦手なタイプだ…。
「あの、質問良いですか?」
「何ですか?」
良かった、聞いてくれた。
「何故、天使長が俺の指導教官に?」
「簡単な理由です、私以外では、主しか、貴女の指導教官が勤まる者がいないからです」
アンジュさんによると、俺は非常に強大な魔力を秘めており、もし暴走したら、間違いなく俺は死ぬ上、何が起こるか分からない。それを防ぐ為にも、誰かが、俺に魔力の使い方を指導する必要が有る。だが、俺の指導教官が勤まるだけの実力が有るのは、ハゲとアンジュさんだけだった。そして、アンジュさんはハゲの命を受け、俺の元に来た。
おいおい、どれだけ強いんだ、今の俺。神や天使長クラスで無いと指導出来ないとは。お前は化け物だと言われている様で、軽く凹む。
あ、今の俺、魔女だった。
「もう一つ、質問が。何故、ハゲが来なかったのか?アンジュさんより強い筈なのに。まあ、仕事を押し付けただけかもしれないけど」
見るからに、やる気の無さ、全開の神だったからな。
「あぁ、その事ですか。神は基本的に現世への干渉を禁じられています。故に、神の代行者である、私達、天使がいるのです。もっとも、天使も無闇に現世に干渉出来ません。一番の出番は、世界を処分する時です」
「それって、いわゆるハルマゲドンの事?」
「その通りです」
あっさり肯定されたよ、天使長、直々に。
「仮に現世への干渉に対する、制限が無くとも、私は人間を救う気は有りません。人間とは、あまりに、愚かしい」
本当に容赦無いな、この暗黒天使長。神や天使に祈る人達が気の毒過ぎる。知らぬが仏だな。
「さて、初日の今日は、各種の基本的な知識についての授業を行います」
アンジュさんがそう言うと、部屋の中に、学校に良く有るタイプの机と椅子、一人分。更に移動式の黒板が現れた。
俺はアンジュさんに促され、席に着く。筆記用具、教科書は机の中に入っていた。至れり尽くせりだな。
「それでは、これより知識の授業を始めます!」
黒板の前に立ったアンジュさんはノリノリで授業を始めたのだった。超スパルタ授業を…。
「手加減したとは言ってたが、普通の奴なら死んでたぞ…」
授業終了後に、ストレスが溜まっていたせいで、つい、
「鬼教師の暗呪」
と言ったせいで、アンジュさんから『教育的指導』をされた。(泣)
だが、授業内容自体は素晴らしかった。おかげで、俺は今日一日で、戦闘、魔法、この世界に関する基本的な知識を身に付ける事が出来た。
5日目 夜
さて、教わった内容の復習をするか。ここは異世界、しっかりと正しい知識を身に付けなくてはならない。知識は力だ。
まずは、属性について。
この世には地、水、火、風、光、闇、の6属性が有り、全ての存在は、いずれか一つの属性を持つ。中でも、光、闇は希少であり、故に狙われる事も多い。そして、俺は闇属性。
狙われる理由としては十分だ。(泣)
次は魔法について。魔法も6属性が存在し、やはり、光、闇、は希少。しかも強力なので、地水火風の4属性は基本魔法、光、闇、は高位魔法と呼ばれている。ちなみに、自分と同属性の魔法は強化され、逆属性の魔法は使えない。これは、全ての存在に共通。
後、大抵の人間は1属性の魔法しか使えないが、優秀な者なら、複数の属性の魔法を使える。更に優秀な、いわゆる大魔導師になると、複数の属性を混ぜ合わせた、合成魔法を使える。通常の魔法としては、これが最強。
実際には、更に強力な太古の禁呪が存在するが、あまりに危険過ぎる為、封印されたり、所在不明となっている。
ちなみに、最強魔女である俺は、逆属性の光以外の全ての魔法を使えると、アンジュさんに言われた。
自分が怖いわ!。
さて、次はレア中のレア。その名もレアスキル。使い手は滅多にいないが、恐るべき力を持つ。
かつて、たった一人のレアスキル使いに、軍事大国が滅ぼされたという、恐ろしい史実が有る。故にレアスキル使いは徹底的に忌み嫌われ、恐れられてきた。だが、その一方で、日夜、レアスキルの研究が進められてきた。その結果、魔法が出来た。つまり、魔法はレアスキルの模倣なのだ。だが、所詮は模倣。同じ条件で使ったならば、レアスキルの方が上。何せ、発動に詠唱不要。魔法にも無詠唱発動が有るが、強力な魔法ほど、困難。人間の限界という事だ。
そして、俺はレアスキル使いでもある。スキル名は『闇を統べる者』。その名の通り、あらゆる闇を自由自在に操れる。攻撃、防御、移動、その他色々と使える、便利過ぎる、レアスキル。
俺がアンジュさんとのバトルで、アンジュさんの影から飛び出したのも、このレアスキルのおかげ。自分の影に潜り、アンジュさんの影に移動。チャンスを窺い、攻撃したわけだ。まぁ、負けたけど…。
ちなみにレアスキルは、一人、一つ。その者と同属性。例としては、闇属性の俺のレアスキルが『闇を統べる者』といった具合。
だが、レアスキルも良い事ばかりではない。大量の魔力を消耗するし、他属性との合成も出来ない。世間から迫害されたり、研究材料として狙われたりもする。故に、数少ない、レアスキル使い達の大部分は力を隠している。俺もアンジュさんから、よほどの事が無い限り、使うなと警告された。俺も狙われたくは無い。平穏無事な暮らしが望みだ。
さて、今度はこの世界についてだ。この世界はファンタジアと呼ばれていて、5大陸と、いくつもの島々、そして広い海から成る世界だ。
ファンタジー風な名前とは裏腹に高度な文明が栄えており、普通に携帯やネットが存在し、コンビニ、ファーストフード店も有る。それを成り立たせているのが、魔法と科学の融合した、『魔学』文明だ。『魔学』文明の発展したこの世界では、電気、石油、原子力、等の代わりに魔力が使われている。
更に言うと通貨も魔力だ。魔力によって全てが成り立っているこの世界では、貴金属、紙幣よりも魔力が一番、価値が有るのだ。ちなみに通貨名は『マナ』、世界共通通貨である。
この世界では、財布は存在せず、代わりに『マナカード』を使う。このカードは、マナを吸収、保管、放出する事が出来、これによって、売買をする。
一気に強くなりたい時にも、マナが必要だ。昇格館という所で、定められた額のマナを支払えば、レベルアップ出来る。ただし、高額(費用+レベルアップに必要なマナ)な上、急激なレベルアップは、肉体的、精神的に負担が大きく、危険性を孕む。要はドーピングみたいなものだからな。それでも、力を求める奴は絶えない。無理するとロクな事にならんと俺は思うがな。まぁ、人それぞれだ。俺は、他人に口を挟まない。
次はファンタジー物に欠かせない魔物について。魔学文明が発展し、討伐された事も有り、さほど世界にとって脅威では無いが、高位の者は今なお、世界の脅威だ。もっとも、高位の者は、50年前を最後に姿を見せないそうだが。
そして、魔物と並び、ファンタジー物に欠かせないのが冒険者だ。一攫千金や名を上げる事を狙い、魔物を狩ったり、危険な場所に挑んだりする。魔物を殺せば、マナが貯まる(人間を殺しても貯まるが少ない)し、魔物の身体は各種、貴重な素材として高く売れる。危険地帯で貴重な鉱石や薬草を入手。あわよくば、財宝を見つけて成り上がる。そんな事を考えている奴らが多いが、世の中そんなに甘くない。大抵の奴は途中で脱落するか、死ぬ。
成功する奴など、ほんの一握りに過ぎない。だが、冒険者になる奴は絶えない。平穏無事を愛する俺とは真逆だな。
最後はこの世界の地理と国家について。現在、俺がいるのが、5大陸の中心にして、最大のマナカ大陸。俺はここの東側にいる。
マナカ大陸は東西南北の4大国が治めている。国名は、東のアズーマ、西のセーイホ、南のクゴンナ、北のニグタキ。
50年前に大戦争をやらかして以来、大きな争いは無いが、国境間での小競り合いは絶えない。今も裏であれこれ、やっているのだろう。俺としては、巻き込まれたく無いなぁ…。
「カオル!夕ご飯はまだですか!私は早急に夕ご飯を所望します!」
あっ、ヤバい!。もう、そんな時間か!
「すみません!すぐに夕飯を作りますから!」
俺は、腹ペコ暗黒天使長に催促され、エプロンを着けると、夕飯を作りに向かった。
「やれやれ、天使長のくせに、家事全般、全く出来ないとは。良く今まで生活出来てたな」
俺は呆れながらも、材料を確認し、献立を決めた。
「よし、夕飯はカレーにするか」
作る料理を決めた俺は早速、調理に掛かるのだった。
カオルも言っていましたが、アンジュさんは、家事全般、全く出来ません。
カオルは前世の時から、家事全般、得意です。
大学入学と同時に一人暮らしだったので。
現在は最強魔女に転生した事により、もはや、神の域。
ちなみに、現在のカオルの肉体年齢は18~19歳ぐらい。
長い黒髪の超美人のエプロン姿は、凄い威力と思います。
「これ以上、くだらん事を言ったら、レアスキル『闇を統べる者』で攻撃するぞ。」
(カオル)