エピローグ そしてこうなった
この俺、黒百合 薫は、今までの人生史上、最高に緊張していた。
これから始まる、俺には無縁だと思っていた、人生の一大イベントを前にして…。
「なぁ、ジュリ。俺の格好おかしくないか?」
不安に駆られ、側にいるジュリに問いかける。
「大丈夫っす、良く似合ってるっす!」
そんな俺の服装は黒の花婿衣装。ジュリが俺の為に作った物だ。
女の俺が花婿衣装を着ているせいで、俺の気分はまるでタ〇ラヅカの人だ。
「先輩のウェディングドレス姿も最高っすよ。カオルさんも、惚れ直す事間違い無しっす!」
俺とアンジュさんの衣装を作ったジュリは、自信満々の表情で言う。
ジュリがこう言うのだ。さぞかし、アンジュさんの花嫁姿は綺麗なのだろう。見た瞬間、ショック死しないかな、俺…。
かつては恋人も友達もおらず、孤立して生きて来た俺が一度死んで、魔女として転生し、アンジュさん、ジュリと出会い、一緒に塔を探索、塔の主を倒し、その後の温泉リゾート地で、アンジュさんに一世一代の告白。OKを貰い、今に至る。
こうして考えると、悪い冗談みたいだ。何かが少しでも違っていたら、無理だったな。
「カオルさん! そろそろ時間っす!」
おっと、呼ばれている。遅れる訳にはいかないな。
「わかった! 今行く!」
さあ、花嫁と御対面だ!。
俺とアンジュさんの結婚式は、ハゲ神が異空間に用意した特設会場で行われる事になった。
何せ、最強の魔女と暗黒天使長の結婚式だからな。現世でやるわけにはいかなかった。しかも同性婚だし。天界ルールでは良くても、現世の奴らは色々うるさいしな。
そして俺は、花嫁姿のアンジュさんと対面した。
そこには美の女神がいた!。見た瞬間ショック死しなかった自分を褒めてやりたい。
すると、アンジュさんは、頬を真っ赤に染めて俯いてしまった…。
「カオル、そんなに見ないで下さい…」
「あ、すまない。だが、あまりにも綺麗だから…」
アンジュさんは元々美人だったが、花嫁姿の今の彼女の美しさは、桁外れだった。
俺はこんなに綺麗な女性と結婚するのか。俺は本当に幸せ者だ…。
そして結婚式が始まった。特設会場には、大勢の暗黒天使達、他の神達、天使達がいる。
俺は緊張でガチガチだ…。元々、注目されるのが嫌いな上、これ程の大勢に注目されるなど初めてだ。心臓が破裂しそうな気分になる…。
だがその時、アンジュさんが、そっと俺の手を握ると、
「大丈夫です、カオル。貴女は一人ではありません」
と言ってくれた。
そうだった。俺はもう一人じゃない。アンジュさんがいる!。
「ありがとう、アンジュさん」
アンジュさんに礼を言った俺は、もはや周りの注目など気にならなかった…。
そしていよいよ来た、この時。誓いの儀式。
神父の代わりにハゲ神こと、暗黒神がいる。俺とアンジュさん両方にとって縁の深い相手だからな。適役ではある。性格はともかく…。
暗黒神が俺に訊ねる。
「黒百合 薫! お前はこの者、アンジュを妻として生涯愛する事を誓うか!?」
「誓う!!」
俺は、心からの思いを込め、答える。
暗黒神は続いて、アンジュさんに訊ねる。
「アンジュ! お前はこの者、黒百合 薫を夫として生涯愛する事を誓うか!?」
「誓います!!」
アンジュさんも、これ以上無い程、真っ直ぐに答えた。
「よし! お前ら二人の誓い、この暗黒神がしかと聞いたぞ! お前ら二人は今から夫婦だ! 絶対幸せになりやがれ!!!」
ずいぶんと酷い口調だったが、暗黒神は俺達二人を祝福してくれた。
そして指輪の交換も終わり、最後の締め。新郎と新婦のキス。
大勢の見ている前でのキス、これは大変な難関だ…。お互いになかなか、踏ん切りが付かない。
その時、暗黒神が言った。
「情けねえな、たかが他人が見ている程度でキスの一つも出来ねぇのか? お前らの愛ってのは、その程度か?」
それを聞いた瞬間、お互いに踏ん切りが付いた。ふざけるな、俺達二人の愛をナメるな!!。
かくして、俺とアンジュさんは最後の締めのキスを交わしたのだった…。
その後は、大宴会となり、大騒ぎになった。ちなみに俺は暗黒神を一発ぶん殴っておいた。俺の意見を無視して転生させた事に対する一発だ。いつかやってやろうと思っていたが、やっと果たせた。その後もなんだかんだとあった末に、俺とアンジュさんの結婚式は幕を閉じた。
そして時は流れた…。
俺は伝説の魔女となり、現在は天界に行けるようになるべく修行中。
アンジュは天界と俺のいる現世を往復。苦労をかけてすまない。
ジュリは相変わらず。時々、遊びに来る。
『闇姫』は俺と共に戦ってきた功績により、人型を取れるようになった。ただし、セクハラをすると扇に逆戻り。
そして、更に時は流れた。
ここは天界。その中でも転生の道と呼ばれる場所。
そこに俺、アンジュ、ジュリが来ていた。暗黒神を見送る為に。
「おぅ、お前ら、見送りに来てくれたのか」
暗黒神が俺達に声をかける。
実は神も引退する。そして引退する神は、転生の道を通り、転生するのだ。
今回の場合、暗黒神が引退し、アンジュが新暗黒神に昇進。ジュリが新暗黒天使長に昇進となる。
ちなみに俺は、修行の末魔女を超え、神の域に達した。天界にいるのもそのお陰。
暗黒神は、俺達それぞれに話しかけた。
「カオル、お前良い顔するようになったじゃねぇか。初めて会った時は、とことん枯れた奴だったのにな」
「転生して以来、色々と内容の濃い人生を送って来たからな。枯れてなどいられるか」
「アンジュ、今まで苦労かけたな。言っとくが、神の仕事は甘くねぇぞ、覚悟しとけ」
「ご忠告ありがとうございます。肝に命じます」
「ジュリ、お前は暗黒天使長に昇進するんだから、ちっとはセクハラを控えろ」
「いや~、セクハラはアタシの人生の清涼剤っすから」
「まぁ、俺からお前らに言う事はそれぐらいだ。それじゃ、達者でな」
そう言うと、暗黒神は俺達に背を向け、転生の道を歩いて行った。進む程にその後ろ姿が薄れていき、遂には消えた。
「長い間お疲れ様でした」
アンジュが最後にそう言った。
俺は『闇姫』を見送った時を思い出していた。罪を償い終えた『闇姫』も転生の道を通り、去って行った。
出会いが有れば、別れもまた有る。
「さぁ用は済んだ、帰ろう。俺達にはやるべき事が有る」
俺はアンジュとジュリに話し掛ける。
「そうですね、カオル。私達には、やるべき事が有ります」
「サボってる訳にはいかないっすね」
「そういう事だ」
これから先、どうなるかは、俺にも分からないが、俺は生きて行くぞ。いつか、訪れる終わりの時迄。
その後、こうなった。
黒百合 薫 :魔法神となり、アンジュと末長く幸せな激甘バカップルとして暮らす。
アンジュ:勤務中は新暗黒神として務めに励み、自宅ではカオルと激甘バカップル。そのギャップについていけない者多数…。
ジュリ:新暗黒天使長として、アンジュの右腕を務めつつ、相変わらずのセクハラ天使ぶりを発揮。カオルとアンジュの激甘なバカップルぶりには、流石についていけず。
この小説はこれにて完結です。書いていて、改めて自分の文才の無さを思い知らされました。
ネタが出ない、続かない、うまく文章で表現出来ない。ランキング上位の方々は自分からすれば天才ですね…。どうすれば、あんな良い作品を書けるのか?。
そして、この駄作を読んで下さった方々、お気に入り登録して下さった方々、感想を書いて下さった方々、本当にありがとうございました。m(_ _)m




