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蒼の舟  作者: 真城 和流
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第4章:進路

「お別れだな。寂しくなる。」


「本当にそうだね。僕たちが離れ離れになるなんて、想像もしなかったのに。」


「ま、けど家は近いからな!」



僕たちは15歳になり、地元の公立中学を卒業する日を迎えた。


朝からの式典で、多くの学生が泣きはらした顔をしている。


良く晴れた空は、僕たちを引き合わせたあの国を髣髴とさせる。


肌寒い中、僕はカズキと鉄棒に座って話をしていた。



カズキはめきめきと身長を伸ばし、今や彼の肩ほどしか僕の背は届かない。


スポーツ刈りに近いその爽やかな髪型や整った顔立ちは、注目の的だ。


在学中に何度となくいろいろな学年の女子に僕が声をかけられた。


けれどカズキは恋愛には全くもって興味を示すことがなく、僕を安心させた。


カズキが女子に現を抜かしてしまったら、僕の居場所がなくなるからだ。


もう、幼い頃からの習慣は抜けることがなく僕はカズキの親友だった。



僕はと言えば、目を悪くしたために少しの長髪に銀縁眼鏡という概観。


痩せていて、勉強はできたために訝しげな目で見られることもあった。


けれど、僕がカズキと親友であることが何よりの謎だったようだ。



「お前、頭いいもんなぁ。いっちゃんイイ私立行くんだろ?」


「たまたま、受かっちゃったからね。親が喜んだよ。」


「俺には真似できねぇもんなぁ。すげぇな、侑志は。」


「いや、僕は和輝が羨ましいさ。…カッコイイしな。」


「そうかぁ?だったらもっと…」


「もっと?」


「…や!なんでもねーよ!興味ねぇな。」



グルンと一周して、カズキは地上に降りた。僕も、そのまま降りた。


カズキは時々、遠くを見つめるような瞳をする。


と、ちょうど僕たちが見つめていた校舎の方から勢い良く女子が駆け寄ってきた。



「かずくん、ゆうちゃん!」


「芹花ちゃん…」


「どうしたよ?」


「ね、一緒に写真撮ろう?記念に!」


「記念って…家めっちゃ近いじゃん。」


「いーのっ!三人で、撮りたいんだ。」



セリカは生前どおり美しく成長を遂げていた。


くるんとした瞳に薄い桜色の唇、少し天然がかった栗色のロングヘア。


僕がかつて焦がれるほど愛した女性。


無論、今だって僕はセリカを可愛いと感じるし、じっと見つめてしまうこともある。


けれど、人間として生きることの意味を少しずつ理解してきた僕には、今は必要ない。


セリカはきっと、このまま大人しく僕のことを待っていてくれるはずだ。


三人、セリカを真ん中に並ぶ。セリカの友達がカメラマンになって、「はいっ」と言う。


一瞬だけ煌めいたフラッシュに、少し身体を震わせたのは僕だけだろうか。



「ちゃんと、出来上がったら持って行くからね!」


「おう。楽しみにしてるよ。」


「ありがとう。僕も。」


「高校、ゆうちゃんだけ違うのかぁ…。」


「えっ!?」



僕とカズキは驚いてしまうくらい同時に、同じトーンで反応を返した。


今、なんて?僕だけが高校が違う?そんな馬鹿な。セリカは女子高に行くと…。



「おま、お前、カンナリ?俺と同じ!?ウソだろ?」


「う〜ん、おかーさんは清真女子に行って欲しかったみたいなんだけどね。」


「だって、お前、え〜?」


「受験の日ね、同じだったじゃない?…で、ごまかして神成受けたんだよね。」


「…どうして、そんなことをしたの?芹花ちゃんらしくないなぁ?」


「どうして?う〜ん、どうしてかなぁ?あはは!でも確かに、今までそんなことしないね。」


「芹花と一緒か〜…」



なん…だ?どういうことなんだ?なにか、何かおかしくはないか?


…いや、きっと偶然だ。セリカは女子高自体が気に入らなかったんだろう。


それで、公立の近場の高校にしたんだ。


けれど、何だろう?僕は何かを焦っている。なぜだ?


何に焦っているのか全くわからない。僕はカズキの親友であり、セリカの幼馴染だ。


そして、カズキにとってもそれは同じであるはずだ。


僕はいったい、何を感じているんだ?自分の気持ちが掌握できないでいる。



けれどもう、僕たちの道は分かれてしまった。


僕は僕の人生を、カズキはカズキの人生を、セリカはセリカの人生を生きる為に。


そう、僕たちはもうすぐ高校生になる。


それぞれが、それぞれのためだけに道を、進んでいくんだ…。

ここまで5歳刻みで進んできたこの小説ですが、次回からは進行が遅くなります。どうぞお楽しみに…☆

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