第1章:誕生
運命の小袋を誤って開けてしまったユージ。『蒼の舟』に運ばれ、いよいよ宿命の人生の幕開けを迎える…
「おぎゃぁぁあぁああぁぁぁあぁ!おぎゃあぁぁあぁっ…」
…こ…ここはどこだ…?
うっ…まぶしい…
「ほら、可愛い。お母さん、男の子!」
生まれた…?僕は、とうとう生まれ落ちたのか!
やったぞ、今すぐにでも顔を…!どこだ?どこにいる?
「ほぉら、暴れちゃだめでしょ!ちゃんと産湯できれいにしましょ。」
な、なんだこの人間は?どうして僕はこんなにこの人間が大きく見えるんだ?
それに…なんだか手や足が自由に動かせない…。
人間が生まれた時というのは、こんなにも不自由なものなのか…?
嫌だ、僕には時間がない!早く、一刻でも早くやるべきことをやらなければ!
僕には、時間がないんだ。頼む!
「やぁだ、もう、ほんっとにやんちゃね!もうすぐお母さんには会えるわ!」
「そうそう、じっとしてね。今、連れて行ってあげるから。」
違う。僕が会いたいのはお母さんとやらではない!
「こんにちは…!あぁ、会いたかったわ。」
「男の子か!俺、嬉しいなぁ。藍、がんばったなぁ。」
「だって、あなたの子どもだもの。会いたかったもの。ね?」
アイ?違う。そうだ、セリカはどこだ?
早く会って気持ちを聞きたい。
アイ、セリカの居場所を知りませんか?
「あら、あらあら。元気がいいのねえ。よく泣く。」
「赤ん坊ってのは何かを伝えるために泣くんだってなー。」
「何かいいたいのかしらね?」
「さぁなぁ…初めての子どもって難しいもんだなぁ。」
「さぁ、お二人とも。ごめんなさいね。新生児室に連れて行きますよ。」
「お、仲間と対面だな!ゆうじ、ちゃんと仲良くして来いよー!」
「あら、名前。決めてたの?ずるい。」
「ずるいって…前に決めたじゃないか。」
「あれ?そうだっけ?そっか、人を助けられる優しい子になるように、って…」
「そう、侑志だよ。」
「侑志…。優しい子に育ちますように。」
な、なんなんだ、さっきからどうしてこんなに移動させられるんだ?
僕をどこへ連れて行こうというんだ、この人間たちは。
それに…ここはあの『蒼の国』を羽根の色に塗り替えたような白い世界だ。
人間の生きる世界は、『白の国』なのか…?
「さぁ、着いたわよ。ここでしばらく、お友達と仲良くしててね。」
「ねぇ、その両隣の子達、本当にお友達みたいよ。」
「あら、そうなの?寄寓ね。生まれた時から幼馴染なんて、素敵ねぇ。」
やっと解放された。僕はどうやら人間に持たれるのは苦手らしい。
天井が白い。僕を包む布も布団も、白い。ただ、ケースだけがガラス色だ。
その向こうをふと、見やった。
…カズキ!
憎き恋敵がまさに隣のケースで幸せそうに眠っている。
僕は、一言ものを言ってやろうと必死に暴れた。乗り越えたかった。
けれど、この短く弱々しい手足では到底無理だということがわかり、諦めた。
カズキの顔など見たくもない。僕は反対の右側を向いて寝ることにした。
驚いた。
セリカだ。
なんという偶然、なんという奇跡。愛しいセリカが傍にいる。
セリカ!セリカ僕だ!気づいてくれ、起きてくれ!僕はここだ!
またしてもただバタバタと暴れるだけの醜い格好になってしまう。
このケースにいる間は、何をしても無駄ということだ。
しかし、僕の予定より明らかにスタートは上々。
セリカは、僕のものだ。絶対に。