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蒼の舟  作者: 真城 和流
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プロローグ:蒼の神

『蒼の舟』は、人が生まれる前に生まれ落ちるその場所へと運んでくれる箱舟。その出航を待つ人の姿はあどけない子供。ユージ、カズキがセリカをめぐって争ったことで、決して開けてはいけないはずの運命の袋が開かれる…。

「良く来た。」



大きな大きな、けれど皺だらけの分厚い掌。初めて目にする、『蒼の神』。


この、『蒼の国』で最も偉大な存在にして最高の預言者。


誤って落とし、決して開いてはいけなかった小さな口の開いた袋を逆さに持つ。


運命が狂ってしまった。狂うはずのなかった輝かしい人生をこぼして。


ゆっくりゆっくり、その掌に導かれて緩やかな階段を昇る。



「ユージ。」



そう、あの時落ちたのは僕の袋。僕の人生のすべてが詰まった、小さな袋。


落ちた瞬間、組み合っていたカズキがとっさに自分の袋の無事を確認していた。


僕も同じ格好を取っていた。僕の袋は、とうに開いてしまっていたのに。


あの瞬間、僕の人生は歩むものではなくなってしまったのだ。



「ユージ。…私は知っていた。」


「はい。」


「知っていて知らせなかったことを、恨むかね?」


「いいえ。」


「…何故だね?」


「かみさま。これがぼくのうんめいだったのでしょう?そう、おっしゃるのでしょう?」


「ユージ。お前は賢い。そうだ。運命なのだ。」


「ぼくは、これからどうなるのですか?」


「皆、先程運命の『蒼の袋』を選んだ。お前だけ、また選ばなくてはならない。」


「はい。」


「選ぶのは『罪』と『病』、そのどちらかだ。」


「つみとやまい…。」


「ユージ。じっくり考えて選ぶが良い。もう一つ、言うことがある。」


「はい。」


「人間は、生まれ落ちたその瞬間に、ここでのことは総て忘れてしまう。」


「すべて、ですか。いっしょにいたなかまのこともぜんぶですか?」


「そうだ。…ただし、お前は違う。残念だが、お前はこの記憶のまま生まれることになる。」


「この…きおくをもって…。かみさま、ほんとうですね?」


「残念ながら、そうだ。」


「ざんねんなどではありません。むしろ、うれしい。」


「…何と?お前は普通の人間の人生は歩むことはできないのだよ?それが嬉しいと?」


「はい。ぼくにふつうのじんせいはいきられない。それなら、こうつごうです。」


「記憶を持って生まれるということがどういうことか、判って言っておるのか?」


「つらいでしょう。ぼくは、しらないふりをしなければならない。…わかっています。」


「…おぉ、そろそろ出航の時間だ。さぁ、どちらを選ぶかね、ユージ?」



僕の人生は、僕がつかむ。僕の欲しいものは、僕が手に入れる。


そのためなら、何でもしてやる。


そう、僕の輝かしい人生を狂わせた天使の羽根をもぎ取ってしまったとしても。




『蒼の神』は、地獄の旅路に出る為に自分に背を向けた僕に対してただ、「見ている」と言った。


空色の服に身を包んだ未来の赤ん坊たちが、頬を赤くして勢いよく乗り込んでいく『蒼の舟』。


花も土もベッドも雲も、何もかもが蒼いこの国を、僕だけが憶えていられる。


僕が失った輝かしい人生の代わりに得たものは、それと運命に限る。


『蒼の舟』、さぁ、僕を地獄へ降ろしてくれ。僕は必ず、生き抜いてみせる。


僕の選んだ、僕が選んだ、運命とともに。

プロローグを二つに分けました。携帯の方を気遣ってみたのですが、どちらが良いのでしょう?小説のほうは、次回から本編に入ります!いよいよ誕生です。お楽しみに!

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