プロローグ:雲の上
「子供たち!さぁ、一列に並ぶのです。」
散り散りになり各々遊んでいた子供たちが、一瞬飲んだ息の後すごすごと動き出す。
ここは、空。人が生まれる前に集まる、天空の港。「蒼の舟」の出航する、雲の上。
人は皆、ここから子供の姿をしてそれぞれの生まれ落ちるべき場所へと旅立つ。
人生を、初めて歩み出す。
「ねぇ、よばれたよ!」
「うん、よばれたね!」
「ふたりとも、はやくいかなければ。」
「まって、まって。おはながまだなの。」
「そうだよ、まってあげなきゃ。ユージはいつもいそぐね。」
「まつさ。まつけれど、もうぼくたちはうまれるときがきた。」
「うまれるって、なに?」
「すばらしいことさ。」
「カズキ、できた!あげる!ユージも!」
「わぁ、おはなのかんむりだ!セリカじょうずだね!」
「ユージは、うれしくなかった?おこってる?」
「…うれしいよ。ありがとう。けれど、いかなくては。」
「うん!わかった!いこう、カズキ。」
人は、生まれる前に神を見る。言葉を賜う。神により、助言を受ける。
あるいは、予言を。
「さぁ、子供たち。一人一つずつ、袋を選びなさい。」
「そう、一つずつです。決して開けてはいけません。」
「選んだら、神の元へと再び並び待つのです。」
「さぁ、子供たちよ。選びなさい。」
厳かに寸分の狂いもなくおしなべられた小さな袋。
緊張の面持ちでそっと両手で包む者、不可思議なその袋をつまみあげて覗く者。
生まれる以前に行われる、初めての「選択」という行為。
「き、きんちょうするね!」
「だいじょうぶだよ、セリカ。えらぶだけだよ!」
「いや、ちがうな。これがじんせいをわけるんだよ。」
「こわい!」
「ユージ!なんでいつもそうなんだよ!セリカがこわがってるだろ!」
「こわがっているのはカズキじゃないのか?」
「なんだと!」
「やめて、ふたりとも。おねがい。」
雲の上に連れて来られた記憶などない彼らは、それでも初めから一緒に過ごした。
運命など知らず、知ろうともせず、気にもかけず、ここまで過ごした。
生まれるということ、地上に降りるということ。運命を定められること。
順番に、確実に、袋を手にする。運命の小袋を。
「かみさまって、どんなひとなんだろう?」
「かみさまは、おっきいんだ、きっと!」
「だれもしらないのだろうな。みんな、うまれてしまった。」
「ねぇ、このふくろ、かわいいね。うふふ。」
「なかみ…きになるよなぁ…」
「おい、あけようなんてかんがえたらたいへんなことになるぞ。」
「わ、わかってるよ。けど、ユージはきにならないのか?]
「きには…なる。けれど、きめられたことはまもるほうがいい。」
「つまんないやつだな。」
「なに?」
「おれ、うまれたらセリカとけっこんするんだ!」
「カズキにできるはずないだろう。セリカはぼくがもらう。」
「ユージみたいにつめたいやつにはあげないぞ!」
「なんだと!このっ…!!」
「あっ…!」
彼の手に残るは、ただその口紐のみ。だらしなく開いた袋は、くしゃりと床にいる。
何も知らず、運命も知らず、ざわつくその空気の中で、のろのろとそれを拾う。
青ざめたその顔は、運命の歯車が狂った事実を悟っていた。
神への拝謁、それは予言の書解読か、はたまた、地獄への扉なのか。
今、神の手が、差し伸べられようとしている。
初めまして!真城和流です。
この話は、ファンタジックかつ純粋な、それでいて狡猾な小説を目指しています。みなさまの温かいご支援がありますよう…☆ぜひぜひ感想等お聞かせください!