第2の人生に幸運を
ジャックは一人。
暗闇の中に立っていた。
足元には水がある。 周りを見渡しても全てが闇だった。
その中に音があった。
水が一滴、一滴落ちる音。
清々しくもあり、何処か不気味な音でもある。
上を見上げると、小さな光があった。
その光に、手が届くのか、届かないのか。
距離が読めないほどの闇だった。
やがて、あることに気づいた。
息をしていない。
だが、苦しくもない。
その時、自分が死んだことを思い出した。
「ここが、あの世なのか?」
ジャックは小声でつぶやいた。
頭の中で声がする。
「キミガイクノハマダハヤイ…」
真上にある、小さな光が物凄いスピードでジャックを飲み込んだ。
「ダイニノジンセイニコウウンヲ…」
「!?」
そこは、殺風景な部屋だった。
木で出来た大きなテーブルが1つと、木で出来た小さな椅子が5つ。
部屋には窓があり、壁には飾りや、絵画など何もなかった。
ジャックは、テーブルの上で大の字に横たわっていた。
「ここは…どこだ…」
周りを見渡し、何度も確認するが見覚えがない。
「でも、俺は生きてる。じゃあ、やっぱり夢だったんだ!」
ジャックは、少しほっとしていた。
場所は何処かは分からないが、生きていることに変わりはない。
ジャックはそう思っていた。
「ジャック君。喜んでいるところ申し訳ないが、君は死んでいる。」
木のドアが開き、入ってきたのはジョニーだった。
「…」
ジャックは固まっていた。
ジョニーがいるということは、やはり夢ではない。
「ジャック君。君は死んで、死神になったんだ。」
やはり、現実だった。
「ここは、何処なんです?」
「死神のコミュニティーだよ。いわば、たまり場って事になる。」
「今、死神になったってジョニーさん言いましたよね?」
「あぁ、言ったよ。それと、ジョニーでいい。」
「じゃあ、ジョニー。仮に、本当に死神になったとして、この先僕は何をすればいい?」
「まず、覚えることはたくさんある。それより、自分が死神になった事をまずは受け入れるんだ。」
ジョニーはジャックの気持ちが分かっていた。
自分が死神になった時も、同じ様な事を言っていたからだ。
「ジャック君。君の着ている服を見たまえ。」
「ジョニーと同じ服だ。」
ジャックはようやく落ち着きを取り戻していた。
自分の着ている服などに今まで、気がつかなかったのだ。
「その服は、死神にとっての正装だ。」
服を見ると、黒いスーツに黒いシャツ、黒い革靴に白いネクタイ。
まるでお葬式の格好だった。
「でもジョニー、こんな格好で外をうろついていたら怪しまれないか?」
「心配する必要はない。普通の人には見えないよ。我々は、死神だ。まぁ、一部例外はいるがな。」
「一部例外?」
「まぁ、後で分かるさ。」
ジョニーは次に、内ポケットから白い手帳を取り出した。
「これは今日から君の手帳だ。」
ジャックは新しい白い手帳を貰った。
よく見ると、十字架のボールペンまでついている。
「なかなかお洒落だね。」
ジャックは初めて笑った。
ここ最近は不思議な事ばかりで笑う余裕すらなかった。
「なかなか馬鹿にできない代物だぞ。」
ジョニーは手帳の説明をはじめた。
「この白い手帳は仕事で使うんだ。十字架のボールペンとセットで使用する。手帳は名前と年齢と性別を書く欄があるだろ。そこに、全ての欄を書く。そして、裏側を見たら状態と、死亡推定時刻を書く欄がある。死亡推定時刻は書かない場合は自動で決めてくれる。」
「じゃあ、この前の交通事故も。」
「あぁ。私が手帳に書いた。」
ジャックは死神になった事を現実として受け止めはじめた。
「で、どうやって人を殺すんだ?」
「ジャック君。人を殺すとは聞こえが悪いだろ。我々は、人を殺したりはしない。あくまでも、正当な理由があっての事なんだ。それに、我々の中では死昇と呼ぶ。」
「じゃあ、手帳の欄に記入すれば死昇させられるんですね?」
「いや、まだ方法はいくらでもある。それは、仕事をしながら覚えればいいさ。」
「わかりました。」
ジャックは冷静だった。
なぜなら、開き直るしかなかったからだ。
「ジャック君。前とは違って素直だね。」
「そんなことありませんよ。」
こうして、ジャックは死神として生まれ変わった。
命を司る死神として。