真実の答え
ジャックは、困惑した自分に何を言い聞かせれば良いのか分からないでいた。
「最後のチャンスってなんだよ!?」
ジャックは血の気が引いたのを覚えていた。
「所でジャック君。私の名を覚えているかね?」
ジャックは忘れていた。
夢の中で確かに名前を言ったはずだった。
「…」
「やはり、覚えていないな。」
男は笑いながら話を続けた。
「私の名はジョニー=バウアー。思い出したかな?ジョニーでいい。」
ジョニーは空に浮かぶ月を見上げ、最後のチャンスについて話しはじめた。
「ジャック君。最後のチャンスって何だと思う?」
「分からない。あんたの存在も。チャンスの意味も。」
「そんなに怖い顔しなくてもいいだろ?私は、助けに来たんだよ。」
「意味を説明しろよ!話しはそこからだ!」
「わかったよ。じゃあ、説明するよ。」
ジョニーは白髪混じりの髪と髭を生やしていたが、喋る口調は年寄り染みていなかった。見た目は50代のオジサンだが何処か若い感じがした。
「ジャック君。君の人生は無駄が多すぎる。まず、家族がいない。彼女がいない。友達もだ。」
「別に関係ないだろ!両親は僕が産まれてすぐに事故で死んだ!友達だって必要だと思ったことがない!彼女なんてなおさらだ!」
「では、仲間はどうだろう?仲間はいるのか?自分を助けてくれる。自分を守ってくれる。そんな仲間は?」
「もういいだろ。僕にはそんな人はいない。だからって困ったこともない。もう、ほっといてくれ。」
「ほっとく訳にはいかない。君には時間がない。このビルの横で起きた事故を覚えているかね?」
「あぁ。車同士の事故だろ?」
「あれは、私が起こした。」
「!?」
「運転手のルーシー=キャメロン22歳女性と対抗車のマッド=ステイサム36歳男性。両方とも死亡。」
ジョニーは内ポケットから白い手帳を取り出し読みながら見ている。
「その手帳に書いてあるのか?」
ジャックは手の込んだ冗談だと笑っていた。
ジョニーは、屋上から事故現場を見下ろし、話を続けた。
「ルーシーは彼氏にフラれてね。今から彼氏を殺しに行くところだったんだ。マッドは麻薬の売人。何人もの人生を潰してきた。だから、私が二人を事故に合わせてこの世から消したんだ。」
ジャックは頭のおかしい人の話しは聞けないと思った。
「悪いがジョニーさん。俺は帰るよ。楽しかったよ。それじゃ。」
ジャックは、帰ろうと屋上の出口に向かって歩き始めた。
「いいのかい?君は死ぬかもしれないんだよ?」
ジョニーは得意気に言い放った。
「死ぬ?面白いじゃないか!やってみろよ!」
ジャックはジョニーに言い寄った。
「だから、最後のチャンスなのだよ。君には2つの人生が選べる。」
「2つの人生!?」
「1つは、このまま腐って生きる人生か。もう1つは、死してなお薔薇色の人生をおくるか。」
ジャックは、頭を抱えていた。
ジョニーの言っていることが何一つ理解できないからだ。
「つまり、どうゆうことなんだ?解りやすく説明してくれ!」
「無駄な人生を送る君はもうすぐ死ぬことになっている。だが、神がそれを同情した。そこで君にはもう1つの人生を用意した。それが、死神としての人生だ。」
「死神として?」
「さっきも言っただろ?事故は私が起こした。無駄な人生を送る予定の人だったからだ。」
「あんた、本気で言ってるのか?ただの偶然だろ!」
「じゃあ、試してみればいい。死神になるにも、人として生きるにも、一度は死ぬ必要がある。」
「わかった。そこまで言うなら死神になってやるよ!だから、殺してみろよ!」
ジャックは、呆れ果てていた。
頭をかきむしりながら屋上の出口に向かって歩き始めた。
「君は合格だ。」
ジョニーはジャック に手をかざした。
後ろを向いているジャックは気づくはずはなかった。
ジャックは出口の階段の一段目を踏んだ時、異変が起きた。
「あんた、俺に何をした…」
ジャックは胸を押さえ、膝から崩れ落ちた。
「ジャック君。君は合格だ。君なら優秀な死神になれる。第2の人生に幸運を…」
そう言い残すと、ジョニーは何処かへ行ってしまった。
「こんなの…嘘だろ…これは夢なんだ…」
視界はやがて狭くなり、ボヤけはじめた。
心臓の鼓動が大きくなり、頭が割れそうな位、大きな音に聴こえる。
「こんなの…嫌だ…」
ジャックの心臓は止まった。
人としての人生に幕を下ろしたのだ。
目を見開いたまま、階段で胸を押さえ、仰向けに倒れている。
ジャックは死んだ。