暗雲
「ブラキとズールに何かあったんですか!」
ロイは少し興奮しているようだ。
「ブラキとズールの二人が任務中に悪霊に襲われたんじゃ。」
「悪霊に襲われるくらいしょっちゅうですよ。」
「問題はその強さじゃ。ブラキとズールの2人がかりで何とか倒せたようなんじゃ。死神の中でもズールとブラキは戦闘能力は高い。その二人が苦戦する悪霊が現れとる。」
「そんなことあり得ませんよ!悪霊は人の魂の憎悪の部分です!いくらなんでも死神を苦戦させるほど強い悪を持ってるとは思えません!」
ロイはズールとブラキの2人が苦戦したということに納得がいかないようだった。
「じゃが、悪霊に手を加えたらどうなると思う?」
「どういうことです?」
「つまり、悪霊自体の力はさほど強くはないが、何者かがその悪霊に力を与えた可能性が高いって事じゃ。」
「悪霊に力を与える?何故そんなことを?」
「理由はハッキリとはわからんが、こんな事をやるのは奴らしかおらん。」
「黒魔天団…」
またしてもジャックは黒魔天団という名を耳にした。
いまいち状況を飲み込めないジャックは呆然とするしかなかった。
しかし、死神の世界で異常な事が起こってるということは理解できていた。
「そこでこのラグーンの出番じゃ!これがあればすぐに悪霊に気づくはずじゃ。不意討ちなんかくらったりしないように作ったんじゃ。」
ロイは少し呆れ顔になっていた。
どうせなら、強い悪霊に勝てる武器を作ってほしかったのだ。
しかし、ラグーンを作ってくれている以上、下手なことも言えない状態だった。
「ところで、ワイズさん。このラグーンはいくつあるんです?」
ロイはラグーンの数をたずねた。
「全部で5つある。もちろん、新人君のも含めて作っとる。そこに置いとるじゃろ?」
ワイズが指差した方向には、白い腕時計の様なものが並んでいた。
「まず、ラグーンを手首に巻き付ける。」
ロイとジャックはラグーンを手首に巻き付けた。
「それで?」
「それで終わりじゃよ。」
「これだけ?それにこれ。ただの白い腕輪ですよ。」
「今は白い腕輪じゃが、悪霊が近づくと色が黒く変色するようになっとる。悪霊の強さが強ければより黒くなる。」
「結構使えそうじゃん。」
ロイは小声でジャックに言った。
「それともう1つ。そっちの新人君に頼みたいことがある。えーっと名前は…」
「ジャックです。ジャック=デップ。」
「そう!ジャック!すまんのぉ。最近は物忘れが激しくてのぉ。」
ワイズは申し訳なさそうに頭をかきむしりながら、研究室の奥へと入っていった。
「こっちじゃ。ついてきてくれ。」
ワイズは2人を手招き、研究室の奥へと入っていった。
「これを見てくれ。」
研究室の奥には机と本棚、数えきれない本と書類が散乱していた。
「この量は何なんです…」
ロイとジャックは唖然とした。
「これは、悪霊研究の成果じゃ!300年間悪霊研究し、死神達に情報を提供しとったんじゃ。」
「すげー…」
さすがのロイも開いた口が塞がらないでいた。
「ところが、問題があってのぉ。研究したのはいいんじゃが、魂をもっとらん。」
「悪霊の魂ですか?」
「死神は死昇させて直接あの世へ魂を送るじゃろ?悪霊は怨念を持ち、あの世へは行かなかった人の魂が悪霊へと変わる。じゃが、いまいち解らんのは悪霊に変わるタイミングじゃ。人が死んでいきなり悪霊になるものじゃない。何かしらの原因、怨みだけではないはずじゃ。そのメカニズムを解明するために悪霊の魂が必要なんじゃ。」
ジャックはいまいち理解できないでいたが、ロイの方は理解していた。
「ようするに、悪霊に変化する現象を解明するために、悪霊を死昇させずに魂を捕まえろって事ですね。」
「さすがはロイ!物わかりが早いのぉ!」
ワイズはポケットから小さなコインを取り出した。
「これは何です?」
「魔封じのコインじゃ!悪霊の魂を封じ込めるコイン!」
「このコインへ魂を閉じ込めればいいんですね?」
「あくまでも、仕事ついででいいんじゃ。新人君にやらせれば勉強にもなるじゃろ?」
ジャックはコインを一枚もらい、大事にポケットへしまい込んだ。
「それじゃ、俺達はこれで。」
「あぁまたいつでも寄るといい!ジョニーによろしく伝えてくれ。」
こうして、ロイとジャックは下水道を後にした。