オレンジ色の夢
青空の広がる中、ビルの屋上で昼寝をする青年が一人。
彼の名は、ジャック=デップ(25)
二週間前から、昼間になるとこのビルの屋上に昼寝にやって来ていた。
つまり、仕事がないということだ。
「はぁー。」
ジャックは空を流れる雲を見て、溜め息をついた。
「いつまで続くんだ。こんな生活。」
ジャックはゆっくりと目を閉じて、昼寝を続けた。
気持ちよく吹き抜ける風、暑くもなく、冷たくもない。
街の騒音さえも、子守唄に聞こえてくる。
太陽の光がほのかに暖かく、ジャックを眠りの世界へと誘うのだった。
どのくらいの時間が過ぎたのか。
男の低い声で目が覚めた。
「お前はこのままでいいのか?」
目を閉じていたジャックは目を見開き、すぐに立ち上がった。
「誰だあんた!?」
ジャックの目の前には白髪混じりの髪と髭をはやした男がたっていた。
その男は、黒いスーツに黒いシャツ、黒い靴をはいていたが、ネクタイだけが白だった。
「いや、すまない。脅かすつもりはなかったんだが。あまりにも君が可哀想でつい、声をかけてしまった。」
その男は、ジャックの横を通り過ぎると屋上に付いている手すりに手をかけ、街を眺めながら話はじめた。
「ジャック君。今の心境はどうかね?」
「今の心境?」
ジャックは唖然とし、その場から動けずにいた。
「そう。今の心境だよ。仕事を無くし、金もない。時間と寿命だけがなくなっていく。」
「そんなこと、あんたには関係ないだろ。それに、何でそんなこと知ってんだよ!あんた誰なんだ!」
その男は、街を眺めていたがゆっくりとジャックの方を振り返った。
「私の名はジョニー=バウアー。何者かは言えないが、近いうちに君に会うことになる。決断はその時に聞こう。」
「何言ってんだよ!意味がわかんねぇんだよ!あんたは誰だ!何で俺の事を知ってる!」
ジャックは苛立ちはじめた。
誰なのかも分からない人に、自分の事を知ってるかのような言い方をされたからだ。
「ジャック君。残念だ。時間になってしまった。」
男は腕時計を見て、ジャックにそう伝えた。
「時間になった!?」
謎の男はおもむろにスーツ内ポケットから黒い塊を握り出してきた。
「おい!冗談だろ!」
男が持っていたのは銃だった。
そして、確実にその銃口はジャックを狙っていた。
「では、ジャック君。ごきげんよう。」
でかい爆音と共に物凄い風が吹き抜けていった。
「!?」
ジャックは目を覚ました。
つまり、今まで寝ていたのだ。
「最悪な夢だ。」
空は、青空からオレンジ色へと変わり、肌寒くなってきていた。
「今日も一日無駄な人生を送ったな。」
ジャックは屋上の扉を開き、階段を降りていった。
ジャックは正直、家には帰りたくなかった。
一人暮らしをしているジャックにとって、家とは孤独を独占してしまう場所だったからだ。
ジャックは、ポケットに手をつっこみ、それでも家へ向かうのだった。街は薄暗くなりはじめ、仕事帰りの人達の中に混ざっていた。
レストランやお店などは明かりをつけ、 車もライトがついている。
ジャックはコンビニの中に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
コンビニの店員の声がやけにシャクにさわる。
ジャックは冷凍ピザ、フライドチキン、ポテトを手にとり、レジへと向かっていった。
買い物も無事に終わりコンビニから外へ出た所で突然、大きな音がした。
まるで、デカイ大砲で家を丸々一軒吹き飛ばしたような音だ。
音のした方を見ると、車同士が正面衝突をしていた。
酷い有り様だった。
ガラスは砕けちり、タイヤは転がり、車の原型がない。
「これは、死んだかもな。」
ジャックは思わず言葉をこぼした。
そして、この5秒後。
ジャックは背筋を凍らせる事になるのだった。