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4.ここで働かせてください

─猿見が話を切り出した。


「昨日起こったことは口外無用です」

「もし情報が漏洩した際には、島での一切の権利はなくなりますので」

「ひえ」

何も罪を犯しては居ないはずなのに。

役人から厳しい処遇が告げられ、身が怯む。


「そして美織さんは本日付で監視対象となり、島から出ることが禁止されました」

「ある条件をのんでいただければ解放します」


「その内容とは」

「その内容・・・・・・とは」


事件の後、美織は無事に家に帰った。

一刻も早く家に入りたかったためドアを雑に開けてしまった。秘密裏に家を出たことは忘れていた。大きな音が鳴る。

物音に起こされた叔父は、美織と狸の瑞樹を見て慌てたが、事の顛末を聞いた末、そこに直れと説教を始めた。


「全くこんな時間に帰ってきて何事かと思ったよ。怪我がなかったのは幸いだ」

「迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」

「灯りは持って行かなかったのか?」

「持っていったよ。でもいつの間にか無くなっててさ」

「それは、どうしたものか。ん」


叔父が狸に気づく。


「あら、狸。こんな子まで連れてきて、この子どうするのさ」

「別に動物飼ってもいいけど」

「あ、こいつはえっと」

「俺妖怪だよおっさん」

「!」


叔父が驚いた表情をする。次に真剣な顔をして、美織に質問を投げかけてくる。


「美織、この子見えるか」

「え、見えるよ」

「もしかして、その様子何かに襲われたのか」

「えーっとはは、そうなんだよね」


自分の身に起きたことを隠せなくなり、美織は叔父に事の顛末を話し始めた。灯りは持っていたこと。それでも襲われたこと。その際に瑞樹が助けてくれたこと。内容をかいつまんで説明すると、叔父は真剣な顔で何かを考えていた。


「妖怪なんて居ないと思ってた、あのとき含めて申し訳ないです」

「普通はあんな反応になるよ、この島での夜遊びが危険だって事分かってくれたらそれでいいさ」

「ただ今回の内容は大分イレギュラーな気がする、普通なら悪戯程度ですはずだ。灯りを持ってても襲われるというのはあまり聞いたことがない」

「あれは妖怪じゃなくて怪異が形になってたよ」


瑞樹が横から話し出す。叔父の眉間のしわがさらに深くなる。妖怪と怪異。同じようなモノに思うが何か区別があるのだろう。事件は例外的だったとはいえ話し終えた後、自分の行動がいかに軽率であったか思い知る。


「……なるほど、まずは明日猿見さんに声をかけてみるよ」

「ちなみに瑞樹くんはどこに住んでいるのかね」

「俺は東区を寝床にしてるけど、家には住んでないよ」

「じゃあうちに来なさいな!」

「おおーまじか、人間との生活は初めてだぁ」

「いやあ妖怪と住めるなんて民俗学者として鼻が高いよ!」


瑞樹は嬉々として叔父の提案を受け入れた。叔父が前から動物を飼いたがっていたのは知っている。甥の命の恩人としてもてなす気持ちもあれば個人的な願望も含んでいるんだろう。もふもふが生活に入ってくるのは、俺もちょっとうれしい。


気が付くと時間は夜中の二時頃になる。今日のどこかで叔父が猿見さんと連絡を取ること、今後は言いつけを守ることで話は落ち着いた。


(引っ越し初日で色々あったな。すごい疲れた)

眠気が襲ってくる。

美織は自室に戻ると、着替えて早々床についた。


「おっきっろ!おっきろ!美織!」


体の上からかかる、間欠的な圧で目が覚めた。目覚ましにこんな機能あったかと疑問に思ったが、すぐに昨日のことを思い出す。

ブランケットを軽く除けて、腹の上を見る。ポンポンとはしゃぐ毛玉が見えた。軽いとはいえ、ずっと圧がかかるとしんどくなってくる。


「なにしてんの」

「おはよう美織」

「何か予定というモノはないのか」

「おはよう、特にないよ」

「役所で手続きしたいけど猿見さんの連絡を待たないと」

「何だ暇人かニートってやつか」

「余計なお世話だよ」


腹の上から瑞樹を軽く押し出す。腹部の圧が消えてやっと起床の準備ができる。

もう朝か。布団から起き上がって時計を見ると時刻は8時くらいだ。昨日の事もあり、まだ全身にだるさが残っていたが美織は少しでも体を軽くしようと背伸びをした。

瑞樹と他愛ない会話をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

どうぞと伝えると叔父がドアを開けて顔を出す。


「美織、瑞樹君おきてるか」

「おはよう叔父さん、猿見さんと連絡取れた?」


 叔父が首を縦に振る。どうやら猿見さんとは無事連絡できたようだ。

なぜか叔父の顔は少し青ざめていた。


「猿見さん今から来るって。10分くらいで着くから用意するようにと」

「!」


瑞樹はキョトンとしていたが、美織と叔父は猿見からの連絡に慌て始めた。そんな急を要するモノだったのか。事の重大さが判明次第二人は双方に分かれて準備を始める。


美織は身なりを整えると1階に降りて、リビングの掃除に加わった。

叔父は先にリビングを掃除しているようだ。美織も後から続いて掃除に加わる。残された瑞樹はというと、二人の真似をするようにクッションをワサワサと引っ掻いていた。


屋内の状況に構うことなく、ピンポーンとチャイムが鳴る。

それと同時にピーッとヤカンが鳴った。



一階リビングにて、緊急の集会が開かれる。一同がテーブルを囲う。

長方形のテーブルの一辺に美織と叔父と瑞樹が。

反対には島の役人である猿見と見知らぬ男女の子供が。双方面と向かって座っている。


 猿見は変わらずスーツ姿である。対して美織はワイシャツにスラックスと極力シンプルなコーディネートを選んだはずだが、これで良かったのかと緊張した。


「本日はお日柄も良く・・・・・・」

「早速本題に入ります」


叔父が切り出したところを猿見の声が遮った。


「美織さんこの島で妖怪と接触できる人間は限られています」

「見えてしまう。それは特別不思議なことではありません」

「怪異に出くわし、その影響を受けてしまった。今回は例外ですがこれもそこまで問題ではありません。」


猿見が一気に話し出す。話を進める度にこちらに近寄付いている気がする。


「本題は島外の人間が移住初日に出くわしてしまったということです」

「美織さん・・・昨日美織さんに起こったことは、決して外に出してはいけません」

「あ、はい」

「もし情報が漏洩した際には、島での一切の人権を剥奪します」

「ひえ」

「この姉ちゃんこええ~」


本土でも聞いたことのない刑罰に驚愕する。

加えて猿見の圧に当てられて口からおどけた声が漏れる。


「そして美織さんは本日付で監視対象となり、島から出ることが禁止されました」

「えぇ!そんなぁ!ひどいです!」

「甥は私が躾けますから、何卒ご容赦を!」


口外しないことを条件に許してくれるのか。そんな油断をしていたところに猿見の口から、極刑ともとれない内容を突きつけられる。


「残念ですが島主の決めたことなので取り消せません」

「そんな、いきなり言われても」

「・・・・・・ただし条件次第では借用の余地があります」

「本当ですか!」


島主に温情があることに感謝する。しかし、状況は変わらない。次の条件を受け入れる以外には。

後猿見の口から何が言い渡されるのか恐怖する。緊張感に耐えかねず、美織はゴクリと唾を飲み込んだ。


「その内容とは」

「その内容・・・・・・とは」


「東区で生じる怪異および妖怪の報告をお願いします」

「あ、報告といえど近づくと危ないので、詳しい調査などは結構です」


美織は予想外の条件にびっくりした。そんな内容でいいのかと、疑いの目を向ける。猿見が話を続ける。


「ここのところ東区のみで怪異の報告が続いております」

「今回美織さんが出くわした怪異はその中でも類を見ないタイプです」

「というと?」

「怪異が及ぼす被害は今まで悪戯程度でしたが、今回の件を受けて注意すべきレベルが上がったと言うことです」

「でもさ俺のおかげで助かったよなー」


横から瑞樹が口を挟む。

皆口々に注意しろと言うから、あれが日常茶飯事に起こっているのだと思っていた。それを聞いて少し安堵する。一例ができたというのは気がかりだったが。


(条件を飲まないと本土には戻れない)

(それに観察だけでそんなに危険はなさそうだ)

(今は無職だし、ちょうどいいのでは・・・・・・)


少し思考して美織はハッとする。見て報告するだけだ、猿見の出す条件もすごい危険というわけではない。それに自分がその役割を担えば救われる人も出てくるだろう。そもそも断る理由はない。


「その条件受けます」

「左様ですか」

「ただ、もう少し詳細をお聞きしていいですか。お給料とか、でますかね」

「・・・・・・ちゃんと出しますよ、お時間等々いただきますので」


ペナルティとはいえ島公式のオファーだ、条件は期待してもいいのかもしれない。そうと決まれば了承しよう。


美織は条件に同意し、渡された同意書にサインをする。同じ轍は踏まないと、条件はしっかりと確認した上で。


「本当に安全ですかね」

「安全とは言い切れませんが、お付きの者はつけますので大丈夫ですよ」

「それに心強い狸さんもいらっしゃるでしょう」


猿見の表情は最後まで硬かったが、このときは怯える美織をなだめるように笑った気がした。


猿見が調査方法について、説明する。


「では、改めて詳細をお伝えしますね。同意書にサインはいただきましたが、以降の説明に不満があった際キャンセル可能です」

「お二方お願いします」


 猿見の合図を境にして猿見の右に座る青年が説明を始める。高校生くらいだろうか。短く切った黒い髪と伏せ目がちな瞳が印象的で、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 この子たちも役人だろうか。


「初めまして、扇と申します。美織さんにはこれから東区の安寧のために働いてもらいます」

「具体的には怪異が出やすい場所に赴いて、安全か確認する」

「または人間と共存するなかで困っている妖怪が居ないか調査する」

「この2点が仕事の内容になります」


 扇と名乗る青年が仕事の内容を淡々と説明する。大きく難しい内容ではなさそうだ。青年が話を続ける。


 「調査中、危険と判断した場合にはすぐに逃げてください。要請があれば僕らが沈静に向かいますので」


沈静と言うがこんな未成年でも戦うのか。美織は少し首をかしげて怪訝に思う。


「あとは万が一に備えて是をお渡しします」


青年の懐から、長方形の紙が取り出される。読み取れないが漢字らしき者が書かれている。見るからに儀式で使われそうな紙だ。


「これは御札ですか?」

「そうです」

「これでお祓いするとか」

「効くのは簡単な怪異のみですが。緊急時にはそれで身を守れます」


どうやら術士の真似ごとも必要になりそうだ。ちょっとかっこいいかもと美織の目に光が灯る。


「報酬に関してはこちらの書類に目をお通しください」


もう一人、おかっぱの少女が話し出す。染めているのか頭髪は薄い銀色をしている。


「一部歩合制な部分はありますが、一定額のお給料は支給します」


幼いのに難しい話をする。少女の語彙力に感心しつつ美織は渡された書類に目を通した。額面は以前居た会社と同じくらい、一人暮らしするにはたり得る額だ。むしろ危険手当が入っている分、少し余裕ができそうだった。


この内容なら大丈夫か。

二人からの説明が終わり、猿見から最終確認を求められる。

美織の意向は変わらず、無事契約となった。


話し合いが終わると、猿見達は足早にその場を去って行った。


「本当に大丈夫だったのか」


 叔父が心配そうに、顔を覗く。


「島出られないのは困るし、仕方がないよ」

「でもほら仕事が見つかったしさwin-winってやつじゃない」


 怪異や妖怪を相手にする事に不安はあるが、背に腹は代えられない。

仕事の内容に不安はあるが、同時に少し期待している自分がいた。

それに同意してしまった以上、引き下がることはできない。


「安心しろ美織!俺も手伝ってやる!」


 隣に居た瑞樹が胸を叩く。小さな協力者に美織の口角がうっすらと上がった。


会議は終わり、美織と叔父もそれぞれの部屋に戻っていった。

明日から仕事が始まる。美織は準備をはじめた。


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