密猟者
更新間隔が少し空いてしまいましたが、できるだけ毎日投稿していきます!
家に戻り、リリアは父の書斎を訪れた。
先ほどの出来事を伝えると、父はみるみる険しい顔になっていく。
自然豊かなアステル領では、密猟者が絶えなかった。
領民たちが自然を大切に守っていたので、他領では見かけない珍しい動物が多くいたのだ。
その動物達の毛皮や角は、コレクター達の間では高値で売れる。
父エドモンドは、森の生態系を守るためにも、こうした密猟者を厳しく取り締まっていた。
その効果もあり徐々に密猟者は減っていたのだが、その矢先にである。
「まだ密猟しようとする者がいたとは・・・。
ありがとう、リリィ。密猟者の件はこちらで何とかしよう」
父のその言葉に、リリアはほっと胸をなでおろした。
あそこには仲のいい森のお友達がいる。
そんな彼らを傷つけようとする人間はリリアも許せない。
再び書類仕事に戻ろうとした父に、リリアは思い出したように声をかけた。
「そういえばお父様。私そのうさぎの怪我を治すことができたのです」
リリアの言葉を聞いた瞬間、エドモンドは持っていたペンを落とした。
彼の瞳は信じられないものを見たかのように、大きく見開かれている。
「・・・治した?この世に存在しないはずの治癒魔法か・・・?」
エドモンドは震える声でそうつぶやいた。
昔も今も、怪我や病気を治す魔法使いは存在しなかった。ただの一度も。
どんなに魔力が高くても、治癒魔法は人間の成せる業ではないとされている。
リリアの力はそういった常識を覆したのだ。
(こんな規格外な力がバレたら大変なことになるぞ・・・!)
「リリィ、本を貸してもらい次第すぐに届けさせる。だから絶対に魔法が使えることを、誰にも知られてはいけないよ」
「・・・お父様。私なら大丈夫よ。絶対にばれないようにするわ」
父の不安気な表情を見て、リリアは安心させるように微笑みながら返事をした。
エドモンドの執務室を出て、リリアは自分の部屋へと戻った。
父の不安気な表情が、まだ目に焼き付いている。
明日は、始業式。
憂鬱な気分を振り払うように、リリアはベッドに腰を下ろした。
休暇中このアステル領で過ごした日々は、まるで夢のようだった。
いきなり魔法が使えるようになり、アークと話し、けがをしたうさぎを治した。
明日からはまた、学園の貴族達に馬鹿にされて過ごすのだ。
(魔法が使えることを知ったら、みんな手のひらを返したような態度になるんでしょうね)
それはそれでいい気味だとも思ったが、リスクの方が大きすぎる。
「大丈夫よ。練習もしたんだし、隠し通せるわ。隣国から本も届くしきっと大丈夫よ」
リリアは自身に言い聞かせるように、そうつぶやく。
しかし、聞こえてきた自分の声はかすかに震えているように聞こえた。
考えないようにしても、嫌な想像ばかりが湧き上がってくる。
万が一魔法が使えることをみんなに知られてしまったら・・・
王宮や隣国から縁談が来てしまったら・・・
本日何回目か分からないため息を吐き、リリアはベッドの中へと潜り込んだ。




