森の動物達②
「まぁ、大変!」
リリアは思わず声をあげ、すぐにうさぎへと近づいた。
うさぎは怯えた様子で耳をぴくぴくと震わせている。
罠が足に食い込んでいる、すぐに外してあげないと
出血もしているし、腫れも酷いわ
この場所での猟は禁止されているのに、いったい誰が・・・
リリアは罠に挟まったうさぎの足を見ながら、考えを巡らせていた。
『リリア、たすけてあげて」
ふとそんな声が聞こえて後ろを振り返ると、アークがこちらをじっと見つめていた。
今のはアークの声・・・?
植物たちの声だけではなく、動物の声も聴けたことに、リリアは驚いた。
だが今は、そのことについて考えている暇は無い。
リリアはうさぎの足に付いている罠を、慎重に取り除いた。
足の傷は相当深いようだ。
深く息を吸い、意識を集中させる。傷が治るよう強く願うと、うさぎの傷ついた足が淡く光った。
数秒後光が消えると、うさぎは傷が完全に癒えたかのように、ぴょこんと立ち上がった。
傷ついていた足を確認するように動かすと、リリアの目を見つめた。
『ありがとう』
そう聞こえたような気がする。うさぎはリリアに背を向け、元気に森の奥へと駆けていった。
「この力は動物の声を聴いて、怪我を癒すこともできるのね」
無事に元気になったうさぎの後ろ姿を見ながら、リリアは安堵の息をついた。
魔法の力の余韻に浸っていたリリアだったが、急に全身から力が抜けるような感覚に襲われ、膝から崩れ落ちそうになった。
まるで休みなく半日ほど全力疾走したかのように、全身が重く感じる。
温室で花を咲かせた時に感じた疲労感とは、比べ物にならないほど強い。
これは魔力を消耗しすぎたのかしら?
リリアは近くの木の幹に寄りかかり、大きく息を吐いた。
アークはそんなリリアの様子を、まるで心配しているかのような目で見つめた。
そして、彼女の腕にそっと鼻を擦り寄せる。
アークの温かさと優しさを感じたリリアは、ふっと微笑み、語りかける。
「大丈夫よ、アーク。少し疲れてしまっただけなの。休めばすぐに元気になるわ」
どのくらい時間がたったのだろうか。
アークは、まるでリリアの体を支えるかのように、そばでじっと寄り添っていた。
「もう大丈夫!支えてくれてありがとう」
リリアがそう言うと、アークは鼻を鳴らし返事をする。
そして森の奥へと姿を消した。
「罠の件はお父様に報告しないとだめね。あと治癒魔法のことも伝えないと」
そうつぶやいたリリアは、ようやく落ち着いた心で、食べ損ねていたサンドウィッチを取り出し、口に頬張った。




