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ヴェーダ国と気持ち

アルフレッド視点

ヴェーダ国。

寒冷な気候に位置する小国で、厳しい自然環境から常に資源不足に悩まされている。

閉鎖的であまり情報は無いが、信仰心が厚く古くからの言い伝えや予言を重んじる国だ。

ヴェーダ国に魔法が使える者はいないと周辺諸国は認識していたが、ある事件をきっかけにその考えは覆された。


――およそ15年前

彼らは非人道的な方法で、女神の力を人工的に作り出したのだ。


魔力を持つ者を拉致し、生きたままその力を抽出するという凄惨な実験。

特に、女神の血が濃いとされるアルカディアの国民が多く犠牲になったのだ。

とは言っても実験は失敗に終わってしまった。

その非道に激怒した先代国王(アルフレッドの祖父)がヴェーダ国へ攻め込み、戦争へと発展したためである。

その際に、レリーフは異常な反応を示したという。


「あいつらめ、また性懲りもなくっ・・・!」

国王の顔が怒りで歪む。

かつての戦争の記憶と隣国への不信感が、膨れ上がっていく。


「様子を伺っていたのですが、リリア・アステルが本日治癒魔法を使ったところを見るに、女神の力で間違いないかと。あの純度の高い力を人工的に作り出すのは、不可能でしょうから」

国王の表情を冷静に観察しながら、アルフレッドはそう言葉を続けた。


「・・・そうか。治癒魔法が使えるとはな。アステル家の娘はそのままお前が監視を続け、なんとしても王家へ取り込むのだ」

先ほどまでの怒りはどこへやら、国王は卑俗な笑みを浮かべ、リリアをどう利用するか考え始めている様だった。


「そうだ、お前の婚約者にしろ。他国の手に渡らぬよう、常に目を光らせておけ。近々アステル家を呼び、正式に話し合いを設けるとしよう」


「――承知いたしました」

アルフレッドは深く頭を下げた。

その表情は、父の命令に従う忠実な息子そのものである。

だがその伏せられた瞳の奥では、葛藤が渦巻いていた。


(・・・すまないな、リリア)


その謝罪は、結局は国のために利用される彼女への罪悪感だった。

強欲な国王が、これほどの女神の力をただで遊ばせておくはずがない。

これから彼女を待っているのは、王家の威信を保つための『奇跡の強要』や、他国との外交交渉における『切り札』としての扱いだろう。

王家が求めるであろう無理難題が、彼女の小さな肩に重くのしかかる未来が、容易に想像できた。


(最初は、ただ君の持つ『女神の力』を確保することだけが目的だったはずなのに・・・)


当初、アルフレッドにとってリリアは「国にとって手に入れるべき力」に過ぎなかった。

しかし、共に過ごした学園での日々が、彼の計算を徐々に狂わせていった。

射抜くように真っ直ぐな瞳。

不意に見せる、春のひだまりに花が咲くような鮮やかな笑顔。

そして、自分を害そうとした者にさえ手を差し伸べる、あまりにも無垢な慈悲深さ。

自分には持ち合わせていない多くの感情を見せてくれるリリア。


名付けるにはまだ足りない、出来立ての心が温かくなる気持ち。

感情を押し殺して生きてきたアルフレッドにとって、それは未知の感覚だった。

婚約に対する罪悪感のすき間から、かすかな喜びが見え隠れしている。

アルフレッドは、自分の内側に潜むどろりとした闇を自覚し、薄く自嘲の笑みを浮かべた。


「アステル家を呼ぶ手配は、私の方で進めさせていただきます」


顔を上げたとき、そこにはいつもの涼しげな微笑があった。

しかしその裏で、彼は決意していた。


国王が彼女を道具として使い潰そうとするならば、たとえ父であっても容赦はしない。

彼女を王家へ招き入れた責任として、その檻の中でリリアが誰よりも自由に笑っていられるよう、自分自身が最強の看守であり、盾になろうと。


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