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嵐の後に

ベッドの上で、セシリアは魂が抜けたように座り込んでいた。

この短時間にあまりにも多くの出来事が重なりすぎたのだ。

ふと、彼女がリリアの方へ視線を向ける。


「あなたは、アルフレッド殿下と恋人関係なの?」


「っ・・・え?わ、わたしとアルフレッド様はそんな関係ではありませんっ!!」

全く予想だにしなかった問いに、リリアは顔を真っ赤にしてうろたえた。


「・・・そう。」

セシリアはそれ以上追求しなかったが、奥のアリアを見ると、こちらは涙を浮かべながらも「ほう・・・?」と言わんばかりの興味津々な表情でリリアを凝視している。


ふいにセシリアの消え入りそうな声で呟いた。


「・・・どうして。どうして私を、あんな風に庇ったのよ。私はあなたに・・・危害を加えようとしたのに」


リリアは椅子を引き、セシリアの正面に腰を下ろした。

その瞳は、真っ直ぐに相手を射抜く。


「勘違いしないでください、セシリア様。私は、あなたが私にしたことを許したわけではありません。・・・それ以上に、あなたがアーリィをいじめ、脅していたことを私は今でも怒っています」


その言葉に、セシリアはバツの悪そうな顔をしてシーツをぎゅっと握りしめた。


「あなたが今日まで踏みにじってきた人たちの心の痛みは、私が治した頬の傷のように簡単には消えません。あなたは、自分の犯した過ちを一生背負って生きていくべきです」


「・・・分かっているわ。だからこそあなたが私を助けるなんて、余計に残酷じゃない・・・」


リリアは、いまだシーツをにぎりしめているセシリアの手に、そっと自分の手を重ねた。


「でも、あなたが王子妃になるために積み上げてきた努力・・・それは偽物ではなかったはずです。あんなに完璧に礼儀作法をこなすのは、並大抵の努力じゃ足りないはずですから」


セシリアがハッと息を呑み、顔を上げた。


「私は幸運なことに、両親に自由に育てられました。・・・ですが、もし環境が違っていたら・・・セシリア様のように家の為に生きるよう強要されていたら・・・。私も、どんな手を使ってでも両親の望む姿になろうと、あがいていたかもしれません」


(侯爵夫妻からは愛情なんて少しも感じなかった。セシリア様は感情を殺しながら、必死に親の期待に応えようとしていたんだわ・・・)


リリアは次に、奥のベッドで様子を伺っていたアリアを見て、優しく微笑みかけた。


「アーリィ。・・・怖かったわよね。でも、もう大丈夫。あと・・・ごめんね。魔法が使えることを黙っていて」


アリアの目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

「・・・っ、私こそごめんね!!実はリリィのこと、少し疑っちゃったの。大切なことも話してもらえない仲だと思って・・・っ。魔法が使えることはびっくりしたけど、仕方のない理由があったんでしょ?」


アリアはベッドから勢いよく飛び出すと、リリアに抱きつき、その肩に顔を埋めて泣き崩れた。

リリアはその背中を優しく撫でる。


そんな二人の様子を黙って見ていたセシリアが、不意に口を開いた。


「・・・アリア様、今まで色々と・・・悪かったわ」

その予想外の言葉に、アリアとリリアは目を丸くしてセシリアを振り返った。


「な、なによ・・・」

セシリアは顔をプイッと逸らしたが、その耳は真っ赤に染まっている。

リリアとアリアは顔を見合わせ、それからどちらともなく、ふっと笑みをこぼした。


「——謝罪を受け入れます!」

アリアが元気よく答えると、夕暮れに染まる医務室には、これまでの刺々しい空気とは打って変わって、暖かく穏やかな空気が流れ始めた。

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