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審判

アルフレッドはリリアの手をそっと離すと、視線をベッドの上に座り込むセシリアへと移した。

その瞳からは、先ほどリリアに向けていた温かい光は完全に消え失せ、代わりに絶対零度の冷たさが宿っている。


「さて、リリア。・・・セシリア嬢の処遇はどうしたい? 彼女が君たちに仕掛けたことは、本来なら修道院行きどころか投獄されても文句は言えない重罪だ」


王子の言葉に、セシリアの華奢な肩がビクッと跳ねる。

彼女は血の気の引いた顔で、ただ震えていた。

そアリアもまた、息を殺し、怯えたように自身のスカートを握りしめて二人のやり取りを見守っている。


リリアは、絶望の淵にいるセシリアを真っ直ぐに見つめ、静かに口を開いた。


「セシリア様を罪に問うことは、望みません。・・・今回のことは、あくまで『不慮の事故』として処理していただきたいのです」


「・・・っ!?」

セシリアがパッと顔を上げリリアの方を見る。

その瞳は「なぜ」という深い困惑で見開かれ、信じられないものを見るようにリリアを凝視した。


「・・・本気かい? 命を狙われたというのに」


アルフレッドの問いかけに、リリアは一つ頷いた。


「はい。セシリア様は常に成績優秀で、立ち居振る舞いも非の打ち所がない方です。そのような才ある方が社交界から排除されてしまうのは、我が国にとっても大きな損失かと思います。・・・ただ、彼女にこのような過ちを選ばせてしまった()()については、変えるべきだとは思いますが・・・」


リリアの言葉を聞き、セシリアは息を呑んで唇を噛み締めた。

アリアも、リリアの思いがけない提案に驚き、目を見張っている。


アルフレッドは、リリアの言葉の裏にある意図を正確に理解した。

「・・・なるほど。君はどこまでも国を、そして人を想ってくれるのだな」

アルフレッドは微かに口角を上げ、満足げに目を細めた。


「リリア、君の懸念はもっともだ。・・・ちょうどいいことに、侯爵が多額の脱税をしていた証拠を、私は掴んでいる」


「えっ?」

その言葉に、セシリアが絶句した。

脱税はほとんどの場合、爵位をはく奪され、鉱山での重労働を課せられる。

両親がそのような重罪に手を染めていたとは、夢にも思っていなかったのだろう。

彼女の世界が音を立てて崩れていくのが目に見えるようだった。


「これを突きつければ、事故の件を公にせずとも、強制的に今の当主を退かせることは容易い。幸いヴァレンティーヌ家の長男は真面目で信頼も厚い人物だ。誠実な彼が家督を継げば、家は正しく立ち直るだろう。・・・セシリア嬢については、王家から厳重注意という形に留めておく」


アルフレッドの淡々とした決定事項の伝達が終わり、医務室に張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。

アリアが、ほっとしたように小さなため息をつくのが聞こえる。


アルフレッドは表情を和らげてリリアに向き直った。


「あとは、ゆっくり話すといい」


そう言い残し、アルフレッドはリリアの頭を一度だけ、優しく撫でた。

そのまま彼は、風のような鮮やかさで部屋を後にした。


「・・・・・」


残されたリリアは、しばらく動くことができなかった。

撫でられた場所が熱い。

心臓ははち切れそうなほどに鼓動を打ち鳴らし、その音が静まり返った医務室の中にまで響いてしまうのではないかと、リリアは自身の胸をぎゅっと押さえた。

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