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思わぬ手助け

医務室の空気を一変させたのは、そこにいる誰もが聞き覚えのある、威厳に満ち溢れた声だった。


「これはこれは、王子殿下。・・・なぜこちらに?」


皆の視線の先には、第一王子アルフレッドが立っていた。

その後ろには、鋭い目をした近衛騎士たちが控えている。

侯爵は慌ててリリアの手を放し、取り繕うような笑顔を浮かべた。

しかし、アルフレッドは侯爵の言葉に反応することなく、真っすぐにリリアだけを見つめている。


「騒がしいと思えば、やはり君か、リリア。・・・怪我は無いか?」


「はい、私は大丈夫ですが・・・」


ふっと優しく微笑んだアルフレッドに、リリアが戸惑いながら答える。

アルフレッドは悠然とした足取りで歩み寄り、リリアを背に隠すようにして侯爵との間に立った。

その背中からは、隠しきれない威圧感が放たれている。


「ヴァレンティーヌ侯爵。先ほど、興味深い話が聞こえてきたが・・・。次男の婚約を破棄させてまで、彼女を我が物にするつもりか?」


「い、いえ! これは、娘を救ってくれた彼女への正当な謝礼として・・・」


侯爵は冷や汗を流しながら弁明するが、アルフレッドは皮肉げに言葉を吐き捨てた。


「謝礼、か。馬車の件は、我が国の騎士団がすでに調査を開始している。侯爵がなぜ御者をすぐに始末させようとしたのかは分かりかねるが、証人がいなくならずによかったよ。うちの騎士が先回りして、彼らの身柄を確保しておいた」

「・・・っ!!な・・!」


侯爵は驚き、言葉にもならない声を上げた。

アルフレッドの言葉に侯爵夫妻だけではなく、セシリアも肩を震わせる。

リリア達に危害を加えようとした証拠を、完全に消し損ねたのだ。


しかし、侯爵は絶望的な状況にあっても、なお強欲さを捨てきれず顔を上げた。


「ですが殿下・・・! それでも、彼女の持つ力はあまりに異常です! あれほどの治癒魔法、見たことがございません!ましてや今まで秘匿されていたとなれば、なにか不穏な企てがあるやもしれぬ。 彼女のような出所不明の力を持つ者を、ただの男爵令嬢として放置しておくのは国にとってのリスクです。我が家が責任を持って管理すべきで――」


「黙れ、侯爵」


「ひっ・・・!」


アルフレッドの声が一段と低くなり、医務室の空気が一気に氷点下まで下がった。

侯爵は完全に蛇に睨まれた蛙のように硬直する。

アルフレッドは冷ややかに微笑み、全員に聞こえる声で告げた。


「彼女の魔法については、すでに私が調査済みだ。彼女は私の命により、極秘で魔法の訓練を受けている。・・・つまり彼女の魔法に関わることは、王家の軍事機密に触れるということだ。これ以上、リリアに付きまとうというのなら・・・それ相応の覚悟をしてもらおう」


軍事機密と言われ、侯爵は何も言えなくなりこぶしを固く握りしめた。

その姿を見たアルフレッドは、一転していつもの爽やかな笑顔を浮かべる。


「さぁ、まだ調査が残っているので侯爵夫妻には一度退出願おう。・・・連れていけ」


アルフレッドがそう言うと、ドアの近くにいた近衛騎士が侯爵夫妻の腕を強引に掴んだ。


「私に触るな!」

「無礼者・・・!手を放しなさい」

みっともなく文句を言う侯爵夫妻の声は遠ざかり、扉がばたんと閉められた。


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