表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/47

非情

続けて侯爵がセシリアに向かって言葉を続けた。


「あの御者たちはこちらで処理をする。こうなったら国の騎士どもが調査するだろうからな。おまえがしたとバレる訳にはいかない。全く、手間をかけさせおって。これからはその足りない頭でもっと考えて行動をしなさい」


「・・・え」

セシリアが珍しく驚いた顔をしている。

御者を始末されるなんて、考えていなかったのだろう。


「彼を・・・殺すのですか?」

セシリアが震える声でそう尋ねる。


「当たり前だろ。次は素人じゃなくて()()()使()()()人間にしなさい。後処理が面倒だ」

「・・・」

侯爵はまるでごみを捨てるかのように淡々と言い放ち、セシリアは何も答えられず無言になる。

自分の失敗のせいで人の命が奪われ、それを何とも思わない親への絶望が彼女を支配していた。


「ふん、度胸の無いやつめ。おい、医者はどこだ!」


侯爵が医師を呼びつけるために背を向けた隙に、セシリアはリリアの方を向き、涙を流しながらも憎悪と諦めのこもった目で睨みつけた。


「何よ、ざまあみろって思ってるんでしょう」

「っ・・・」

「あんたはずっと私に虐められてきたんだものね。私がこんな顔になって、親にも見捨てられて・・・せいせいしてるんでしょ!?」


それは、プライドだけで立っていた少女の悲痛な叫びだった。

この顔の傷では、王子との婚約は絶望的だろう。

今まで横柄な態度をとってきた彼女へのしっぺ返しは、社交界で一気に来るに違いない。

貴族とは、自分や家にとってのメンツや利益を優先するものだ。


リリアは、セシリアの言葉を否定しなかった。

だが、それ以上に――目の前で一人の人間の尊厳が踏みにじられている状況に、我慢の限界が来ていた。


(この侯爵夫妻の態度・・・セシリア様は、王子妃になるために、どれほどの愛情のない期待を背負い、努力してきたのだろう)


セシリアの成績が常に上位で、その立ち振る舞いが社交界から賞賛されていたことは事実だ。

もし彼女が侯爵家に生まれず、もっと愛情深い家族に育てられていたのなら、こうはならなかったかもしれない。

セシリアの孤独な背景を感じ取り、リリアの気持ちは既に固まっていた。


(どうせ馬車の件は調査されるもの。私が魔法を使ったことがバレるのは時間の問題だわ。それだったら・・・)


「・・・黙ってください」


リリアはセシリアのベッドに歩み寄ると、彼女の震える手を取った。


「な、何するのよ! 離し――」

「私なら、治せるかもしれない」

「は・・・?」


リリアはセシリアの拒絶を無視し、その痛々しい頬の傷にそっと手をかざした。


(許せない。自分の子供をモノ扱いして、傷がついたら捨てるなんて。)


「――っ!!」


リリアの傷口に当てた手のひらがカッと熱くなる。

詠唱など必要なかった。

リリアの強い願いに呼応し、指の隙間から眩いばかりの黄金の光が溢れ出す。

その光はセシリアの顔を包み込んだ。


「な、なんだこの光は・・・!?」


振り返った侯爵夫妻が驚き立ち尽くす中、光の中でセシリアの傷口はみるみるうちに塞がっていく。


光が収まりリリアが手を離すと――そこには、傷跡一つない、白く滑らかな頬が戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ