侯爵令嬢の父と母
「セシリア!! お前はいったい何をやってくれたんだ!!!」
そこには豪奢な服に身を包んだ男女――セシリアの父である侯爵と、母である侯爵夫人がいた。
侯爵の怒号が室内の空気を凍り付かせる。
セシリアはベッドの上で弾かれたように身を縮め、震える声で呼んだ。
「お、お父様・・・お母様・・・」
しかし、ヴァレンティーヌ侯爵夫妻の目に娘を心配する色は微塵もなかった。
侯爵はツカツカとベッドに歩み寄ると、セシリアの頬に当てられていたガーゼを乱暴に剥ぎ取った。
「きゃっ!」
セシリアが痛みに悲鳴を上げるが、侯爵はお構いなしにその傷口をねめ回すように凝視する。
「・・・なんてことだ。これほど深い傷とは」
「ああ、終わりましたわね。これではもう、王太子殿下の婚約者候補になんてなれませんわ」
侯爵夫人が扇子で口元を隠しながら、まるで壊れた物でも見るような冷ややかな目でセシリアを見下ろした。
「お前にはいくら投資したと思っている? ドレスに宝石、教育費・・・すべては王家に入り込むためだったというのに!」
「顔に泥を塗るどころか、自ら顔に傷を作って戻ってくるなんて。本当に役立たずな子」
リリアがその非情さに唖然としている間も、両親の会話は続く。
「お前にはその顔しかなかったのに、それさえもダメにするとはな。我が家の恥だ!」
「ねぇ、あなた。別の嫁ぎ先は無いかしら? ほら、公爵家の奥様は昨年亡くなったじゃない。その後妻とか・・・」
「ふん、公爵は愛妻家だったからな。・・・だが待てよ。孫と変わらない年齢のセシリアが、傷のせいで嫁にいけないとなると、もしかしたら同情で引き取ってくれるかもしれん。彼は慈悲深いからな」
部外者であるリリアとアリアが同室にいることなど意に介さず、彼らは娘を在庫処分するかのように話し合っている。
セシリアは無言のまま、泣きそうな顔で黙ってその言葉を聞いている。
一言物を申そうかとリリアが口を開きかけた、その時だった。
「お前はアステル男爵の娘だな」
突然こちらを見て、ヴァレンティーヌ侯爵が声をかけてくる。
返事をする間もなく侯爵は言葉を続ける。
「何が望みだ。金か、宝石か」
「・・・え?」
リリアはヴァレンティーヌ侯爵が何を話しているのか分からず、思わず聞き返す。
「頭の回らないやつめ。好きなものを用意するから言ってみろ。代わりにこのことについて他言でもしたら・・・男爵家共々ただじゃ済まないと思え」
そう吐き捨てるように言い放った侯爵にリリアは怒りが込み上げてくる。
侯爵夫妻は、セシリアが裏で何をしていたか全て知っているのだ。
知った上でこの態度を取り、金の力で揉み消そうとしている。




