真実
馬車の事故現場には、すぐに教師や護衛たちが駆け付けた。
「まあ・・・なんという!」
セシリアの頬の傷を見た教師たちは、一瞬で顔面蒼白になった。
権力者である侯爵家の令嬢が、学園の管理下で顔に傷を負ったのだ。
これは単なる事故では済まされない。
学園の管理不足として、誰かの首が飛びかねない重大事案だ。
セシリアとリリアの馬車の御者は、顔を隠した屈強な男たちによって、逃がさぬようにどこかへと連行されていった。
リリア、アリア、セシリアの三人はすぐに学園へ搬送され、医務室へと運び込まれる。
すぐに全員がベッドに寝かされ、医師からの手当を受けた。
処置が一通り終わり、医務室には重い空気が流れていた。
セシリアは先ほどまでのパニック状態ではなかったが、その表情は絶望に染まっている。
そこには、いつものような傲慢で自信に満ちた彼女はいない。
沈黙を破ったのはセシリアだった。
彼女は天井を見つめながら、つぶやく。
「・・・ねえ、なんで馬車が暴走したと思う?」
「・・・え?」
急に話しかけれら、リリアが驚いているとセシリアが言葉を続ける。
「奥で寝ている男爵令嬢がね、あの馬を暴走させたのよ・・・気付け薬を馬に使ってね!そのせいで私までこんな顔に!」
そう顔を歪ませながら、憎しみを込めて言葉を吐き捨てた。
その様子に、奥のベッドにいたアリアがびくりと肩を震わせる。
「友達同士だと思っていたのだけれど、あなた達の友情なんてそんなものなのね。自分が助かるためには、平気で友人を裏切り、他人を巻き込む。・・・浅ましいわ」
セシリアはそう言いながら、こちらを蔑むような顔で見た。
「セシリア様のその傷は自業自得なのでは?」
「・・・は?」
リリアが冷静にそう言い返すと、セシリアが目を丸くしてこちらを見る。
「馬車の中で、アーリィから全て聞きました。セシリア様が私たちを仲たがいさせるためにアーリィを脅していたことも、気付け薬を渡したことも」
――馬車に乗ってからすぐに、アリアは泣きじゃくりながら全てを打ち明けていたのだ。
『私がかけたのは気付け薬じゃないわ。寮で中身を水に変えておいたのよ。どうしてもリリアのことは裏切れなかったの。だって、あなたは私の・・・一番の親友だからね』
瓶の中身をリリアにかけたのも全て、セシリアを欺くためのアリアの演技だったのだ。
「結果的にアーリィがかけたのは、ただの水です。匂いも無い水を撒いたところで、いきなり馬が暴れる原因にはなりません。・・・ではなぜ馬はいきなり暴れだしたのでしょう?」
リリアの指摘に、セシリアが眉をひそめる。
「私達が乗っていた馬車の御者、連れていかれたときにセシリア様の方を見て『申し訳ありません』と謝っていましたよ?・・・セシリア様は、何か心当たりがあるのではないですか?」
その言葉にセシリアは下唇をぐっと噛み、言葉を詰まらせた。
(御者には口止め料を渡してあるけど、私が怪我をしたことで状況が変わったわ。彼は自分の罰を軽くするために、私の命令だったと洗いざらい話してしまうかもしれない・・・!)
自分の描いた筋書きが崩れ、セシリアはこれからどうしようか考えていた、その時であった。
バンッ!!
医務室のドアが壊れそうなほどの勢いで開かれた。
「セシリア!! お前はいったい何をやってくれたんだ!!!」
入ってきた人物の怒号が、医務室の空気を凍り付かせる。




