奉仕活動④
リリア達の馬車が発進したすぐあと、セシリアが乗る馬車も後を続いた。
セシリアは馬車の小窓に顔を寄せ、前の馬車を鋭く観察している。
「もっと前の馬車に近づいてちょうだい」
セシリアが御者にそう指示を出すと、御者はためらった。
「ですが、あまり近づきすぎると・・・」
「このわたくしが命令しているのよ。早くしなさい」
身分の高い侯爵令嬢であるセシリアに目を付けられたくなかった御者は、素直に命令に従い、距離を詰めた。
(変ね。なんで普通通りに走っているのかしら)
リリア達の馬車は、セシリアが期待したような暴走を見せることなく走っている。
じっと観察していると、いきなりリリア達の馬車が大きく揺れているのが見えた。
(ふん。ちゃんと効いているじゃない)
セシリアは満足そうな笑みを浮かべて、観察を続ける。
ガタンッ!
その瞬間、予期せぬ強い衝撃がセシリアの馬車を襲った。
すぐ近くを走っていたセシリアが乗る馬車の馬が、つられて興奮し急に暴走したのだ。
車体が大きく揺れた瞬間、セシリアは顔面を窓枠の硬いフレームに強く打ち付けた。
ドォン!
続いて凄まじい衝撃と共に、セシリアの身体は床に打ち付けられた。
頬に感じる激しい痛みに冷や汗が流れる。
最悪の想像を頭に浮かべながら、セシリアは震える手でゆっくりと痛みの感じる頬に手を当てる。
その瞬間ヌルっとした生温かい感触を感じ、手を見てみると、血で赤く染まっていた。
――――――――――
「私の、顔に・・・まさか、こんな・・・!うそよ!」
その様子を見ていたリリアは驚きと同時に、馬車を飛び出した。
セシリアは、顔の側面から血が滲む痛々しい傷を負い、手で押さえたままヒステリックな声を上げ続けている。
御者も同乗していた生徒も、その光景に動揺し何もできないでいる。
リリアはいてもたってもいられず、セシリアのそばに駆け寄った。
「落ち着いてください。まずは止血しましょう」
リリアはハンカチを取り出そうとしたが、セシリアはそれを許さなかった。
「触らないでよっ!!なんであんたがピンピンしているの・・・!こんなこと・・・あり得ないわ!!」
ハンカチで触れようとした手を、セシリアは憎悪を込めて叩き落した。
リリアは一瞬戸惑ったが、すぐに気を持ち直し声を張り上げる。
「しっかりしてください!!きちんと手当をしないと跡が残りますよ!」
リリアが出した大きい声に、セシリアはびっくりして一瞬動きを止める。
その隙にリリアはセシリアの手を取り、自分の清潔なハンカチを広げて傷口に当てた。
押さえた瞬間セシリアは痛みで一瞬顔をしかめたが、それ以上は抵抗せずおとなしく傷を押さえられている。
リリアの制服に血が付いているが、彼女はそれを気にする様子もなく、真剣な顔で止血を続けた。




