策略と動揺
セシリアとアリア視点
数日前の話
アリアと離れてから、セシリアは笑みを隠しきれなかった。
(魔法に関する情報は分からなかったけれど、計画は上手くいったわ。かなり動揺していたわね。あの男爵令嬢を一人ぼっちにさせることができれば、私の目的は半分達成よ)
セシリアの目的は、アリアに気付け薬を使わせることではない。
リリアを学園でも社交界からも孤立させることなのだ。
リリアが魔法の存在を明らかにしていない以上、彼女はただの家柄の低い男爵令嬢に過ぎない。
『人を惹きつける魅力がない』ということは、周囲から信頼されていないことと同義だ。
外交をする上で信頼はとても大事であり、妃としての素質は不十分であると周りから評価されるだろう。
例えアルフレッド殿下と仲良くしていたところで、人望が無く家柄も不十分なリリアを、王家が妃にできるはずがない。
アリアに薬は渡したが、使う可能性は五分五分だとセシリアは踏んでいた。
しかし、セシリアはそれがどちらに転んでも構わないよう、既に二重の策を打ってある。
侯爵家の権力をちらつかせ、あらかじめ馬車の運転手を買収しておいたのだ。
リリアに充てがわれる馬車を引く馬は、普段は調教済みだが、特定の状況で興奮しやすい荒い気性の馬にすり替えられている。
一応調教している馬なので、死に至るような大事故にはならないだろう。
しかし、激しく馬車が揺れ中で転倒でもすれば軽い怪我くらいは免れない。
怪我をしたのが顔であればなおさらセシリアにとっても都合がいい。
事故が起きた後は、アリアの持っている気付け薬の存在を明かせば、二人はすぐに仲違いするだろう。
セシリアは気分よく教室へ戻っていった。
―——―——―——―——―——
その頃アリアはセシリアが話していた内容が頭から離れなかった。
(セシリア様の言っていたことは、本当なのかしら・・・リリィが、アルフレッド殿下と密会?)
アリアは、リリアが自分に隠し事をしているという事実に、胸が張り裂けそうだった。
「直接、リリィに聞いてみるしかない・・・!」
アリアは自室に戻るのをやめ、リリアを探して寮の周りを彷徨った。
リリアの部屋も不在で、彼女が居そうな場所をいくつか回ってみたが、見つけることができなかった。
「・・・やっぱり、リリィを信じないと」
そう自分に言い聞かせ寮に戻ろうとしたその時、人気のない木々の間からリリアがひっそりと出てくるのを見た。
咄嗟に建物の影に隠れてしまったアリアは、声をかけそびれ、そのままリリアを見送った。
(何でこんな何もないところにいたのかしら?)
アリアがその場で立ちすくんでいると、リリアが出てきた方から、一人の人影が現れた。
アルフレッド殿下だ。
アリアは、息をすることすら忘れ、影に隠れてその光景を見つめる。
「・・・うそ、本当だったんだ」
セシリアの言っていたことが真実だったと突きつけられた衝撃に、アリアの全身から力が抜けた。
(二人は何をしていたんだろう? 恋人同士なの? どうして私に言ってくれないんだろう・・・私は、リリィの一番の友達じゃなかったの?)
リリィへの寂しさとセシリアの脅しが重なり、アリアの心は友情と自分の将来を天秤にかけていた。
手に握られた小瓶が、やけに重たく感じられる。




