圧力
~アリア視点~数日前の出来事
「ねぇ、もうそろそろ協力してくれる気になったかしら?」
校舎の庭の隅。
いつものように呼び出されたアリアは、セシリアに冷たい眼差しを向けられていた。
今日は取り巻きがおらず、セシリアの怒りの矛先が直接アリアに向けられているのが分かる。
リリアを無視しろ、言うことを聞けばセシリアのグループに入れてあげるという内容は最初から変わらない。
大切な友達であるリリアを裏切りたくないとアリアが断ると、くだらない嫌がらせが始まった。
カバンの中にゴミを入れられたり、私物を隠されたりというものだ。
まるで子どものような嫌がらせを、アリアはあまり気にしていなかった。
だが、ある時を境に嫌がらせは度を越えるものとなった。
そう、リリアがアルフレッド殿下に医務室に連れて行ってもらった噂が広まってからだ。
セシリアは相当悔しかったようで、躍起になっていた。
今まではもので済んでいたが、セシリアは教師を買収したのだろう。
アリアのテストの点数を改ざんされ、レポートの評価はいきなり落第ぎりぎりにまで引き下げられた。
教師に状況を訴えたが、言葉を濁され対応をしてくれることは無かった。
アリアの実家はあまり裕福ではない男爵家だ。
しかも一人娘であるアリアは良い婿を探す必要がある。
アルカディア学園は落第すれば即座に退学させられる。
貴族にとって学園を卒業することは一種のステータスであり、令嬢の場合には結婚相手を左右するものだ。
実家を裕福にするためにも、アリアは絶対に落第なんてできない。
セシリアの実家は学園に多額の寄付をしており、顔が利く。
教師に圧力でもかけたのだろう。
「確か、アリア様のご実家はあまり裕福じゃないわよね。いいのかしら?卒業ができないなんてことになったら・・・ご家族は相当悲しむでしょうね」
セシリアの言葉は、アリアの心を大きく揺れ動かした。
「やめてあげてもいいわよ。あなたがあの女から離れられないということは分かったわ」
「えっ・・・」
アリアは驚いてセシリアを見上げた。
「その代わり、あの女のことで知っていることは全て教えなさい。アルフレッド様とのこともあなたが聞き出して私に報告するのよ」
「・・・あなたに教えることなんて何もないわ」
「まあ、もしかしてお友達のことが分からないの?それともお友達だと思われていないのかしら」
セシリアの挑発に、アリアは強く反論しようとした。
「そんなことは――」
「では、アルフレッド殿下と密会していることは知っている?」
「え?」
リリアは衝撃で言葉を失った。
「あら、その様子だと知らなかったみたいね。私でも知っているようなことをあなたは教えてもらっていないのかしら。大切なお友達なら知らせれていると思うけれど・・・本当にお友達なの?」
「・・・」
アリアは言葉が出なかった。
(リリィが隠し事・・・?いや、きっと教えられない事情があったのよ。セシリア様がこうやって言ってくるのも、私たちを仲たがいさせたいからだって分かっている。分かってはいるんだけれども・・・)
大事なことを話してもらえてない寂しさと、信じたい気持ちが複雑に絡み合い、アリアの心には黒いもやもやが残った。
アリアの動揺した様子を見て、セシリアは口角を上げた。
(この様子じゃ少しはダメージがあったかしら?)
セシリアはにやりと笑い、懐から小さなガラス瓶を取り出した。
「これは気付け薬よ。慈善活動に行くときに、あいつが乗る馬車の馬に嗅がせなさい。少し驚かせるだけだから何ともないわ。私はあなたたちに怪我をさせるつもりはないの。ただ、身の程知らずにもアルフレッド殿下に近づいているあの女が気に食わないから、ちょっと怖い目にあわせるだけよ」
「もし言ったとおりにしたら、あなたへの嫌がらせは止めてあげるわ。ご実家の為にも、よく考えることね」
そう言いながら、アリアの手に無理矢理気付け薬の入った瓶を握らせた。
アリアは去っていくセシリアの背中を眺め、裏切りの証である瓶を、ギュッと握りしめるしかなかった。




