憂い
アルフレッドから譲り受けた本は、どれも分厚く内容も濃密であった。
三日間集中して読み込んだにも関わらず、読み終えることのできた本は一冊だけだ。
具体的な魔法の使い方も試してみたかったが、自分の部屋ではリスクがある。
(早く試してみたい・・・!)
リリアは頭の中でイメージをしながら、指先を動かす。
温室ではアルフレッドの魔法がかけられているため、実際に魔法を練習することができるだろう。
その焦がれるような期待を胸に、2回目の約束当日を迎えた。
ここ数日、アリアの元気がない気がする。
「アーリィ、何かあった?」
ランチへ向かう道すがら、リリアは心配して尋ねた。
「別に何もないわよ!」
アリアはいつもの調子を装ったが、すぐに声のトーンが落ちる。
「・・・ねえ。リリィは、私に話したいこととかは無いかな?」
アリアの少し寂しげな表情とその言葉に、リリアはドキッとした。
(どうしたのかしら?魔法が使えることがバレた?アーリィには正直に言おうかしら?・・・でもこの力を話せば、レリーフの時みたいにまたアーリィをいざこざに巻き込んでしまうかもしれない。もう少し魔法が扱えるようになって、アーリィのことを守れるようになったら言おう)
「話したいことは特にないわ。それより急ぎましょう!ランチの時間が無くなってしまうわ」
「・・・そっか。そうね、早く行きましょう」
その間が少し気になったが、すぐにいつもの明るい笑顔に戻ったので、リリアはそれ以上は気にしないようにした。
「失礼します」
前回と同じく薄暗くなってから温室を訪ねた。
「リリア。よく来たね。本は読んでみたかい?」
そう言いながら笑顔で近づいてくるアルフレッドに、少し胸がドキドキするのを感じた。
「はい、一冊だけは読み終えたのですが、他のはまだ・・・」
「一冊読み終わっただけでも素晴らしいよ。基礎とはいえ、普通の人でも読み切るのに十日はかかる内容だよ」
そう言われて、リリアは素直に嬉しくなった。
「魔法の練習も実際にしてみたかったのですが、場所が無くて・・・」
「それならここを使うといい。君がいつでも来られるように魔法をかけておくよ。私がいない時も遠慮なく使ってほしい」
「いいんですか?ありがとうございます」
「これくらいなんともないよ。今日はじゃあ、実際に魔法を練習してみるかい?」
「はい!よろしくお願いします」
アルフレッドの指導は的確で分かりやすい。
彼の教え方が上手いせいか、初級魔法は次々身に付けることができた。
本に書かれている通り詠唱しながら魔法を使ったおかげか、前回のような魔力酔いの症状は全く起きなかった。
「もっと全身の魔力の流れを意識するんだ」
アルフレッドはリリアの後ろに立ち、そっと手の動きを指導する。
「そう、指先で流れをつかむ感じで」
魔法を使うときは手や指を使ったり、詠唱することで魔力を安定して流しやすくなる。
逆に言うと詠唱や動作なしの魔法は効率が悪く、魔力消費が激しい。
指導のおかげで、リリアはすぐに浮遊魔法を習得することができた。
夢中になっていたせいか、気づけばすでに三時間が経過していた。
時間があっという間に過ぎていく。
「今日はこの辺にしておこう。リリア、すごく上手になったね」
「ありがとうございますアルフレッド様に教えてもらったおかげです」
「そういえば、確か明日は課外授業の日だったかい?」
「はい、慈善活動の一環で近くの孤児院に行ってきます」
アルカディア国立学園では年に数回、孤児院へと出向きボランティアを行う慣習があった。
数人で一つの班となり、それぞれ割り当てられた孤児院で奉仕活動をするのだ。
「そうか、気を付けて行ってくるといい。先ほども言ったけれど、この温室はいつでもリリアが使えるようにしているからね。好きな時に使うといいよ。」
「なにからなにまでありがとうございます」
「じゃあまた次に会えるのを楽しみにしているよ」
挨拶を終えたリリアは、静かに温室を出た。
寮へ戻る道すがら、リリアはここ数回の出来事を振り返っていた。
初めて学園でアルフレッドに会ったときは、身分差のせいもあるが、完璧すぎて何となく近寄りがたい存在であった。
しかしここ最近の出来事を通して、その印象は大きく塗り替えられた。
今のアルフレッドは、相談しやすく気さくだ。
魔法の良き指導者であり、王族の秘密まで共有してくれる信頼できる協力者でもある。
そして、ふと距離が近づくたびに胸が高鳴り、熱くなる顔を隠すのに必死になる。
リリアは、自分がすでにアルフレッドへ無自覚な恋心を抱き始めていることに、気が付いていなかった。




