約束の日②
「魔力酔い・・・?」
リリアがそうつぶやく。
「ああ、魔法の練習を最初にするときは、魔力の流れに身体が付いていかないから、魔力消費量の低い簡単な魔法から始めるんだ。でもリリア嬢が使う復元の魔法は、莫大な魔力を消費する。体の中を巡る魔力が大きく変化することで、魔力枯渇に似た症状が出るんだよ。君も魔法を練習して慣れていけば、その症状は出なくなるはずだ」
「そうだったんですね」
リリアはあの症状が魔力枯渇ではないと知り、ほっと息をついた。
(私には知らないことが多すぎるわ。分不相応だけれども、ここはアルフレッド様の好意に甘えておこうかしら)
「アルフレッド様、やはりこの本をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁもちろん構わないよ。きっと君の役に立つ。この本は魔法の基礎について書かれているものだ。ここを読んでみるといい。分からないことがあったら聞いてくれ」
アルフレッドはそう言うとリリアのために椅子を引き、エスコートをした。
あまりの自然な動きと近さに、リリアはドキドキと胸が高鳴る。
(こんな見られながらじゃ集中できないわっ!)
リリアの向かいに座ったアルフレッドはじっとこちらを見つめている。
リリアは、目を逸らすようにさっと本に視線を戻す。
最初こそ、緊張していたリリアであったが、だんだんと本の内容に引き込まれていった。
アルフレッドが補足として、本に載っていない王家の知識や理解が難しいところを丁寧に補ってくれたおかげで、知識がどんどん吸収されていく。
最初に書かれていたものは、リリアが隣国から借りた書物とほぼ同じであった。
だがアルフレッドからもらった本には、詠唱や魔力の流し方など、具体的な魔法の使い方が詳細に記されていた。
時間を忘れて夢中になっていたリリアは、アルフレッドの豊富な知識と気さくな態度のおかげで、初めの遠慮は消え、まるで友人のように話せるようになっていた。
「私は基本的な魔法はほとんど使えるよ。復元や治癒の魔法は無理だけれどね。この温室も今まであったことに気が付かなかっただろう?実は遮断魔法をかけていて、他の生徒には分からないようにしているんだ」
「そうなんですね。どおりで温室なんて見たことないなって思っていました。この明るいのも魔法ですか?」
「ああ、この光も私が使っている魔法だよ。私は光に関する魔法が得意なんだ。他の人には知られていないから、君と私だけの秘密だよ」
王族の秘密をそんな簡単に教えてしまってもいいのかと驚いたが、彼の言葉はリリアを特別扱いしているようで、悪い気はしなかった。
「おっと、もうこんな時間だ。続きはまた今度にしよう。次はまた三日後にここで」
「はい、今日は本当にありがとうございました。一人では分からないことばかりだったので・・・」
「君との時間を過ごせてよかったよ。何かあればいつでも言ってくれ。本当なら私が送りたいところだけど、噂になってしまうかもしれないからね。侍従のディートリヒに送らせるよ。それじゃあ――リリア、またね」
突然呼び捨てにされ、リリアの顔は一瞬で真っ赤になった。
(今、私の名前を・・・!)
「は、はい・・・!」
リリアは顔を上げることができず、ただ熱くなる頬を押さえるばかりだった。
アルフレッドはそれを意図してやったのだろう。
彼はリリアの動揺を楽しむように微笑むと、静かに席を立った。
胸のときめきが治まらないまま、リリアは温室を後にした。




