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王子の打算

~アルフレッド視点~

リリアが扉を閉めて生徒会室を出た後、アルフレッドは深く息を吐き、机にもたれかかった。

その表情にはいつもの柔らかい笑顔は微塵も無く、鋭い眼光だけが宿っている。


彼の脳裏には、リリアの「自由な恋愛をして、結婚したい」という言葉が残っていた。


「愛か。・・・くだらない、理解に苦しむな」

思わず冷たい言葉が口から漏れた。


他の令嬢であれば、王子との結婚という栄誉が手に入るなら、家も本人も自ら差し出してくるだろう。

王家と釣り合いの取れない家柄なら、なおさらだ。

そして、自分で言うのもなんだが、対外的な評判は良いと自負してる。

もちろん、それは人当たりが良いように見せているに過ぎない。


リリア嬢の力は『女神の涙』――もう何百年も王家がいくら探しても見つからなかった。

てっきり眉唾物だと考えていたが・・・・

だが、あのレリーフが反応している。本物の力であろう。

そして、詠唱なしでの魔法の発現は、普通の魔力であればあり得ない現象だ。


実を言うとアルフレッドは、始業式の日からリリアの魔力に気が付いていた。

王族には魔力以外に、代々秘匿とされている特殊能力がある。


それは『真実の瞳』だ。

王となるものは代々、人のオーラを見ることができる。

嘘をついたりやましいことがあれば、そのオーラは黒く染まる。

不安や怒り、喜びによっても色が変わって見えるのだ。


だが、魔法使いだけは魔力の波動のせいか普段そのオーラが見えない。

魔法を使っているときだけ、その魔法の属性のオーラが鮮明に見えるのだ。


あの始業式の日、いつものように作った笑顔で挨拶をしていたアルフレッドの瞳に、初めて透明なオーラを持つ人物が映った。

それが、男爵令嬢のリリア・アステルだった。

王家の影に調べさせたが、魔力を持っているという情報は一切無かった。


突然降ってわいてきたような魔力。

黒魔法の類か、あるいは伝承の女神の力なのか。

それにしても、なぜ魔法を隠しているんだ。

もしかして隣国や王妃とつながっているのか。


王宮の内部事情は複雑だ。

アルフレッドと現王妃は、血の繋がりがなく、前王妃である母は病で亡くなってしまった。

現王妃には実の息子で、第二王子であるルカスがいるが、彼は魔力が無く要領も悪い。

はっきり言って主君の器ではないのだが、王妃は王太子にさせようとしている。


リリアが王妃派と繋がっていて、自分を失脚させるために女神の力を秘密にしている可能性も考えていたが、真実の瞳で見抜いたリリアの心は、純粋に「愛」を求めていた。


「やはり彼女が言った通り、愛の為なのか・・・」


だが、問題はそれだけではない。

父である国王は、国が力を持つためにはどんな手段でも厭わない方だ。

彼女の力が知られると、すぐに自分の婚約者にして王家に取り込もうとするだろう。

王妃派がそれを知れば、第二王子の妃にあてがおうとしたり、それが叶わなければ命を消そうとすることも考えられる。


だが国を救えるほどの女神の力。絶対に無くしてはならない。


アルフレッドは決断した。できる限りリリア嬢の女神の力は隠し通す。

もしバレてしまった時には、結婚は不可避だろうが、彼女が納得するような穏便な策を提示して上手く丸め込むしかない。


アルフレッドは立ち上がり、窓の外の夕焼けを見つめた。

唇の端をかすかに持ち上げ、あらゆる可能性を想定し、今後の戦略を頭の中で組み立てていく。


「ふん。悪くないな」

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