生徒会室③
「殿下が・・・ですか?」
リリアは予想外の提案に思わず目を丸くした。
アルフレッドの提案は、あまりにも魅力的だ。
自分で調べるには借りている本では限界があるし、実際に魔術を使える人から教えてもらえるのはとてもありがたい。
そして、王宮には魔術に関する本も多くあるだろう。
もしかすると、この女神の涙についての情報があるかもしれない。
そうなれば、答えはひとつしかない。
「殿下。そのご提案、ぜひお受けしたいです」
リリアがそう言い頭を下げると、アルフレッドは満足げに頷いた。
「ありがとう。頼ってもらうことができて嬉しいよ。リリア嬢、困ったことがあればいつでも言ってくれ。できる限り力になろう。」
いつの間にか、アルフレッドはいつもの優しく穏やかな顔つきに戻っていた。
「ただ、学園内での接触はあまりしないでおこう。王子という立場上、どうしてもみんなの関心を集めてしまう。君に余計な迷惑をかけるかもしれないからね。今後は、できるだけ人目を避けた形で連絡を取るようにしよう」
(殿下の場合、例え平民でだとしても令嬢たちがキャーキャー集まってきますよ)
リリアはつい口を滑らせそうになったが、言葉を飲み込んだ。
「承知いたしました。ご迷惑をおかけしないよう、細心の注意を払います」
「はは、私としては全く迷惑ではないんだけどね」
アルフレッドはそう言って、楽しそうに笑った。
「では、リリア嬢。改めてこれからよろしく。君の秘密を守るために全力を尽くすよ」
そう言って立ち上がり、リリアの前にゆっくりと進み出た。
そしてリリアの手をそっと取りあげると、その手の甲に自身の唇を軽く触れさせた。
一瞬の出来事だったが、リリアの心臓は激しく跳ね上がる。
なぜキスをされたのか、単なる挨拶か、それとも契約の証なのか・・・
どちらにせよ、こういった振る舞いに慣れていないリリアは、胸の激しい動機がおさまらない。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
顔を真っ赤にさせながらも、リリアはかろうじて返事をした。
「私は王宮の書庫に戻って、君の魔力について詳しく調べてくるよ。次に会うのは、三日後の日没後にしよう。寮の裏に、古い離れの温室があるのだが、そこにはあまり人が寄り付かないんだ。そこで待ち合わせよう」
アルフレッドは、リリアの手からそっと手を離し、今後の予定を伝えた。
「分かりました。三日後ですね」
次回の約束を整え、リリアは部屋を出るために扉に向かった。
扉の前で振り返り、頭を下げる。
「殿下。今日は、本当にありがとうございました」
「ああ、君こそ今日はゆっくり休むように。次会うときは、もう少し親しい呼び名に変わっていると嬉しいな」
アルフレッドはそう言って微笑んだ。
以前アルフレッドと呼んでほしいと言われていたが、なかなか呼ぶことができずにいたリリアは、曖昧に笑いその場をやり過ごした。
リリアは手の甲に残る微かな感触を抱えたまま、生徒会室を後にした。




