生徒会室②
アルフレッドは、リリアの話を静かに聞いていた。
だが、王族として国益を一番に考えるよう教育されてきた彼は、そこまで愛にこだわることがすぐには理解できなかった。
「愛、か・・・。家柄に良い相手に嫁ぐのが令嬢やその家門にとって最優先されること、私は教えられてきた。だが、リリア嬢は違うのだね」
彼の声には非難の色はないが、厳しい顔つきは変わらない。
「君の魔力は、一人の人間のものではない。王家が何百年も求め続けてきた、国を支えるための力だ。それを『愛』という個人の願いで拒むのは、あまりにも無責任ではないか?」
彼が正論を述べているのは分かっている。
だがリリアも譲る気は無い。
「分かってもらおうとは思いません。それに魔力に関しては国への報告義務は無いと思いますが」
リリアはまっすぐ前を見据えた。
アルフレッドは、リリアの言葉に深い溜息をついた。
「確かに君のいう通りだ。そもそもそんな義務がなくとも、魔力持ちの子が生まれたらみなすぐに喜んで報告してくる。・・・君はこの女神の力を、今後どうしたい?」
「・・・できれば、隠し通したいです」
アルフレッドは、リリアの顔をじっと見つめ、長く沈黙した。
生徒会室には、時計の針が刻む音だけが響いている。
やがて、彼は決断したような表情で口を開いた。
「わかった。ならばこの秘密は、一旦、私と君だけのものにしておこう」
リリアは驚きに目を見開いた。
「えっ・・・?」
アルフレッドは、ふっと優しく微笑んだ。
「今は戦争や飢饉もないし、国は安定している。伝承通りなら、女神の力は国が危機的な状況に陥った時に使われるべきだ。だが王家がその力を知れば、君の願い通りにはならない。そうなったら君は別の国に逃げてしまうかもしれないだろう?」
彼はまっすぐにリリアを見つめた。
「君の秘密は私が責任をもって守る。自由に生きていけるようにね。だから、その代わり――私の力だけでは越えられない困難が訪れた時は、協力してほしいんだ」
彼の真剣な視線は、王族としての強い使命感を感じさせた。
「あ、ありがとうございます・・・」
リリアが秘密を守られたことに安堵していると、ふとアルフレッドは言葉を投げかけた。
「リリア嬢。一つだけ、君の身を守るために教えておこう」
アルフレッドは真剣な表情を崩さなかった。
「一般には知られていないことだが、魔法使いが魔術を使うとき目の輝きが少し変わる。あれは、魔力の奔流が瞳を通過する証だ。得意な魔法によってその色は異なるんだよ」
リリアの表情はこわばり、心臓がドクンと跳ねた。
「・・・その様子だと知らなかったようだね。今日は、あの混乱の中で誰も気づかなかったようだが、これからは細心の注意を払った方がいい。」
隣国から借りた本には、そんなことは一切書いていなかった。
きっとリリアが知らないような知識はまだまだあるのだろう。
「そうだったんですね・・・。全く知りませんでした」
アルフレッドは、その表情を見て、静かに続けた。
「もしよければ、私が魔法について教えよう。私は魔塔とも繋がりがある。君の持つ力の秘密や、王家が持つ魔術の知識など、君の知らないことを教えることができると思うが、どうかな?」




