呼び出し
いまだ議論を続けている教師たちを横目に、リリアはアリアの肩を借りるようにして展覧室を後にした。
魔法を使った反動で、全身が鉛のように重い。
「リリィ、本当に大丈夫?顔が真っ青よ。医務室に行きましょう?」
アリアが心底心配そうな声で訴える。
その優しさが、かえってリリアの心に重くのしかかった。
「大丈夫よ、アーリィ。ただ、少し貧血がぶり返しただけ。あのレリーフの騒ぎで、どっと疲れが出たの」
リリアは、そう言って何とか微笑んだ。
アリアに魔法のことを正直に伝えようかと思ったが、今はまともに話せる体調ではない。
「でも、本当に驚いた。レリーフが元通りになるなんて。魔法なんて初めて見たわ」
「そうね。魔法が使える人なんてほとんどいないものね・・・」
リリアは、アリアの話に曖昧に答えることで、この話題を終わらせる。
アリアはリリアの顔色の悪さを見て、それ以上は話を続けず、半ば強制的に寮の自室へと送り届けてくれた。
自室に着いたリリアは制服を脱ぐ気力もなく、そのままベッドにドサリと倒れ込む。
目を閉じると「地の誓いに応えよ」という言葉が頭の中で響いた。
(なんだか、あの言葉は気になるわね)
そう考えながらもリリアがうとうとし始めた、その時であった。
コン、コンと、遠慮がちに扉をたたく音がする。
リリアは重い体を起こし、何事かと扉を開けた。
そこに立っていたのは、見覚えのある人物。
アルフレッド殿下の侍従、ディートリヒ・ヴァイスだった。
「アステル令嬢。お休みのところ申し訳ありません。殿下がお呼びです」
「殿下が・・・?」
リリアは驚き、喉が引きつった。
「今、ですか?」
「はい。すぐにお越しいただきたいと」
拒否する選択肢がないことを悟り、「少しお待ちください」と伝えリリアは急いで制服を整える。
侍従は一言も話さず、リリアを連れて寮を出た。
彼が連れてきた場所は、学園の奥にある生徒会室だった。
扉を開けると、そこにはアルフレッド殿下が一人、静かに待っていた。




