復元
警備員たちは混乱し、教師たちは大切な国宝の破損という事態に頭を抱えている。
どうしたものかと結論の出ない答えを求め、ただ時間だけが過ぎていくていく。
みなの視線が、涙をこらえたアリアと無残に壊れたレリーフに集中した――その隙だった。
リリアは、壊れたレリーフをじっと見つめた。
アステル領で練習したように、心を無にして五感を集中させる。
すると、冷たくも力強い魔力がリリアの中へ流れ込んできた。
『聖なる輝きよ、地の誓いに応えよ。学園に集う若者よ、真実を基盤とせよ』
心の奥に響いたその声は、レリーフを贈った先代国王のものだろう。
(お願い、元に戻って)
集中力を切らさないように願いを込めたその時。
カチリ、カチリと金属が触れ合うような小さな音が聞こえる。
その不自然な音の出どころを探すように、集まった人たちはキョロキョロと見回す。
次の瞬間、床に散乱していた壊れたレリーフが淡く金色に輝いた。
飛び散った宝石が元の位置に嵌まり、崩れた台座も元の姿へ戻っていく。
わずか数秒後、レリーフは不自然なほど完璧に元通りとなり、台座の上へ静かに戻っていた。
「・・・え?」
何が起こったのか誰も把握できず、シーンと部屋の中が静まり返った。
教師が、信じられないものを見たように目を丸くしている。
「なぜ、元に戻っているんだ・・・まさか、魔法か?」
リリアは、全身の力が抜け、立っているのがやっとだった。
魔力枯渇の症状なのか、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。
(・・・これで、誰も傷つかなくて済んだのね)
「リリィ・・・?」
アリアは、明らかに体調の悪そうな私を見て、不安そうに声をかけてきた。
「大丈夫よ」そう言い、何とか微笑みを浮かべる。
そして、ちらりとセシリアの方を見た。
てっきりレリーフの方を見ていると思ってたセシリアと、バチッと目が合った。
その眼には困惑と怒りがにじみ出ていた。
レリーフは無傷となり、セシリアの告発は嘘となったため、二人は罰を免れた。
「なぜ元に戻ったのか」をめぐり、教師や警備員たちで議論が始まった。
誰かが、「歴史ある国の宝だから、魔塔に頼んで強力な保護魔法をかけてもらっていたのかも・・・」
とつぶやく。
他の可能性が思い浮かばない中、あまりにも的を得た推測であったため、ひとまず結論はそれで落ち着いた。
すぐにでもベッドに飛び込みたいほどの疲労感を感じているリリアは、この騒ぎの様子を興味深そうに見つめる視線に、全く気が付かなかった。
 




