噂
昨夜は、アルフレッド殿下の意図についていくら考えても答えが出ず、リリアは結局考えるのを放棄した。
次の日、リリアが学園の門をくぐった瞬間から、視線が突き刺さる。
廊下を歩く生徒たちは、リリアを見てコソコソと口元を隠しながら話している。
昨日のアルフレッド殿下との一件は、すでに学園中に広まっているのだろう。
リリアに向けられる視線は様々だった。
好奇心と下世話な興味で品定めするような視線。
王子の寵愛を羨む嫉妬に満ちた視線。
そして、アルフレッド殿下の熱心なファンなのか、明らかに憎しみを込めて睨みつけてくる者もいる。
だがその中で、リリアに直接話しかけてくる者は一人もいなかった。
(こんな形で目立ちたくなかったわ)
リリアはその視線の渦に居心地の悪さを感じたが、平静を装いながらいつものように自分の席へ向かった。
リリアが席に着き、授業の準備をしていると、教室の入り口がざわついた。
そこに立っていたのは、セシリアと彼女の取り巻きたちだ。
セシリアは、美しい顔歪ませ、じっと憎しみのこもった眼差しでこちらを見てくる。
パチッと視線が合ってしまい、リリアがそらせずにいると、隣の席に誰かが座る気配がした。
「リリィ、おはよう!体調は本当に大丈夫?」
アリアがそう言いながら、安心させるように隣の席へ座る。
彼女のおかげで、リリアは張り詰めていた気が少し緩むのを感じた。
「おはよう、アーリィ。ゆっくり休んだおかげか、今日はもう調子がいいわ。」
アリアが来たことに安堵感を覚えつつ、リリアはセシリアの視線を無視することに決めた。
アリアはリリアに顔を寄せ、小さな声で囁いた。
「昨日のこと、本当にすごい噂になっているわね。私も、普段ほとんど関わりのない子たちからまで、リリィのことを根掘り葉掘り聞かれたわ」
「そうなのね。本当に、ただ助けてもらっただけなのに・・・」
「なにもない、ねぇ?」アリアはからかうように目を細めた。
「私が医務室に入った時のリリィの顔、真っ赤なリンゴみたいだったんだけどな。それでもなにもない、ね?」
「もう!それは、あの整った顔に見つめられればドキドキしてしまうわよ!」
リリアは照れながらも真剣な顔に戻る。
「それより、他の人に何か聞かれたら、『ただの貧血で、殿下に助けてもらっただけ』ときちんと伝えてよ」
「わかってるわよ。もちろん、すでにそう説明してあるわ」
アリアはため息をついた。
「でもね、噂ではなんて言われているか知っている?リリィがわざと殿下の前で倒れて気を引いたとか、医務室で色仕掛けをして婚約者の座を狙っているとか、みんな言いたい放題よ。貴族の令嬢って、本当に想像力が豊かよね」
「なんでそんな噂に・・・」
リリアは思わず頭を抱えた。
「まあでも、ほとんどの人は、殿下は下位の者にも分け隔てなく優しいお方だから、放っておけなくて助けてくださったと考えているわ。だから、そこまで深刻に考えなくて大丈夫よ」
リリアは内心で安堵しつつも、すぐに顔を引き締めた。
「そうなのね。セシリア様にはそう思われていなさそうだけど」
リリアが視線を入り口に戻すと、先ほどまで威圧的に立っていたセシリア達は、いつの間にか姿を消していた。
(何も言ってこないのが変よね)
リリアはなんだか嫌な予感がして、無意識のうちに両腕をさすった。




