【第9章】闇商人と偽りの取引
暗殺者たちとの戦いを終えた悠月たちは、ベルディアの地下市場へと向かっていた。
「"神託の書"の情報を持っている闇商人がいる……それが本当なら、ここで何か掴めるはずだ」
仁典が慎重に言う。
「でも、その商人……本当に信用できるの?」
佐弥香が不安そうに眉をひそめる。
「闇商人ってことは、帝国にも情報を売ってる可能性があるよね?」
「……可能性はある」
悠月は考え込んだ。
(でも、今は手がかりがほしい……どんな危険があっても、前に進むしかない)
「用心しながら話を聞こう」
悠月は決意を固め、地下市場への階段を降りた。
***
ベルディアの地下市場は、地上の賑やかさとは別世界だった。
暗がりの中に並ぶ露店。怪しげな商人たちが小声で交渉をしている。
「……胡散臭いな」
賢有が警戒しながら周囲を見渡す。
「ここにいるはずだ」
悠月は事前に聞いていた情報を頼りに、一人の男を探した。
——ラヴィス。
帝国とも関係を持つが、金次第でどんな情報も売る男。
「いた……!」
桃子が目を細め、ある店を指差した。
そこには、黒いローブを纏い、金細工の指輪をはめた男がいた。
「……さて、どう出る?」
悠月たちは慎重にラヴィスへと近づいた——。
——ベルディア地下市場
悠月たちは、闇商人ラヴィスの元へと歩み寄った。
ラヴィスは黒いローブを纏い、指先には金細工の指輪が光る。細身の体を椅子に預け、悠月たちを見上げた。
「……ほう、珍しい客人だな」
低く、どこか飄々とした声。
「私に何の用だ?」
悠月は慎重に言葉を選びながら、ラヴィスを見つめた。
「"神託の書"に関する情報を求めている」
ラヴィスの表情がわずかに変わった。
「……"神託の書"?」
「知っているはずだ。帝国が追い求めているものだ」
ラヴィスは指輪をなぞりながら、薄く笑う。
「なるほど……お前たちが、帝国に追われている噂の者か」
悠月の胸がざわつく。
(すでに知られている……?)
「答えろ。情報を持っているのか?」
悠月が強く問うと、ラヴィスは軽く肩をすくめた。
「……もちろん、持っているとも。だが、タダでは教えられない」
「……条件は?」
ラヴィスは少し考えた後、静かに答えた。
「帝国から盗まれた"ある品"を取り戻してほしい」
悠月たちは息をのむ。
「……取り戻す?」
仁典が低く呟く。
「そうだ。帝国の兵士に奪われたものがある。それを取り戻せば、お前たちに"神託の書"の手がかりを教えよう」
悠月は仲間たちを見渡した。
「どうする……?」
「……取引としては筋が通ってるが、怪しいな」
賢有が腕を組む。
「その"品"ってのは何なんだ?」
悠月が慎重に尋ねると、ラヴィスはゆっくりと笑った。
「"未来の鍵"——それさえあれば、お前たちの求めるものに近づけるかもしれない」
悠月は拳を握る。
(……この取引、乗るべきか?)
「決めろ、悠月」
桃子が静かに言った。
悠月は深く息を吸い、決断する——。
悠月は拳を握りしめたまま、ラヴィスをじっと見つめた。
「……"未来の鍵"を取り戻せば、本当に"神託の書"の手がかりを教えるんだな?」
ラヴィスは薄く微笑む。
「もちろんだとも。私は商人だ、約束は守るさ」
悠月は仲間たちに視線を送る。
「……どう思う?」
仁典は腕を組みながら答えた。
「信用はできねえが、帝国のどこかに"未来の鍵"があるのは事実だ。もし、それが"神託の書"につながるなら、無視できねぇ」
「でも……帝国に潜入するってことでしょ?」
佐弥香が不安そうに口を開く。
「前にヴェルゼ砦への潜入方法を探してたけど……まさか、また帝国の施設に忍び込むの?」
悠月はラヴィスに向き直った。
「"未来の鍵"はどこにある?」
「……"帝国軍の監視施設"の中だ」
ラヴィスは指先でテーブルをなぞりながら言う。
「ベルディア北部にある帝国の監視施設。そこに帝国が回収した"未来の鍵"が保管されている」
「……警備は?」
賢有が尋ねると、ラヴィスは笑いながら答えた。
「当然、厳重だろうな。だが、お前たちならやれるんじゃないか?」
「気楽に言ってくれるな……」
悠月は考え込む。
(……帝国の監視施設に侵入するなんて、簡単じゃない。でも、"未来の鍵"が"神託の書"に繋がる可能性があるなら……)
悠月は深く息を吸い、決断した。
「……分かった。その取引、乗る」
ラヴィスは満足そうに微笑んだ。
「いいだろう。成功を祈っているよ」
悠月たちは、帝国の監視施設へ侵入するための作戦を立て始めた——。
悠月たちは、帝国の監視施設に潜入するための作戦を練っていた。
「……監視施設か」
仁典が地図を広げながら呟く。
「ここは帝国の重要な拠点のひとつだな。単なる物資の倉庫じゃなく、情報管理の中心でもある」
「そんな場所にどうやって忍び込むの?」
佐弥香が不安そうに尋ねる。
「警備は厳重だろうし、正面突破なんて無理でしょ?」
「もちろん、正面突破は論外だ」
悠月は腕を組みながら考え込む。
(潜入する方法……)
すると、明日望が静かに口を開いた。
「"帝国の監視が緩む時間"があるわ」
「……どういうこと?」
桃子が興味深そうに尋ねる。
「毎晩、施設内の交代時間がある。その間、警備が手薄になる」
「交代時間……?」
悠月は地図を見ながら考える。
「それなら、警備の隙をついて侵入できるかもしれない」
「問題は"未来の鍵"がどこに保管されているか、だな」
賢有が慎重に言う。
「手当たり次第に探す時間はない。ピンポイントで狙わなきゃ……」
ラヴィスはニヤリと笑い、封筒を差し出した。
「その情報なら、用意してある」
悠月は驚いた表情で封筒を受け取る。
「……最初から教えるつもりだったのか?」
「まあな。だが、実行するのはお前たち次第だ」
悠月は封筒を開き、中の紙を取り出した。
そこには、監視施設の内部構造と、"未来の鍵"が保管されている部屋の情報が記されていた。
「……本当にこの通りなら、潜入は可能だ」
仁典が地図と照らし合わせながら言う。
「作戦は決まったな」
悠月は地図を握りしめ、仲間たちを見渡した。
「夜になったら、監視施設に潜入する」
「……やるしかないわね」
桃子が短剣を握り直す。
「成功させようぜ」
賢有が剣の柄を軽く叩き、戦闘の準備を整えた。
悠月は静かに息を整えた。
(この潜入……絶対に成功させる)
——帝国監視施設への潜入作戦が、今始まる。