表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

【第8章】暗殺者との対峙

 ベルディアの裏路地を駆け抜けた悠月たちは、ひとまず人目につかない廃屋へと身を潜めた。

「……なんとか逃げられたな」

 仁典が息を整えながら呟く。

「これも明日望の"予知"のおかげってわけか」

 賢有が壁に背を預けながら、じっと彼女を見つめる。

「まさか、嵐が本当に起こるとはな」

 悠月も明日望の能力に驚きを隠せなかった。

「私も、いつも確実に未来が見えるわけじゃない。でも、大きな流れの変化なら感じ取れるの」

「……未来の流れ、か」

 悠月は、自分たちの旅がただの"逃亡"ではなくなってきていることを改めて実感していた。

 しかし——その安堵も束の間だった。

 ——ザリ……ッ

 夜の静寂を裂く、小さな足音。

 悠月の背筋が凍る。

(誰かが……こっちを狙っている?)

「——伏せろ!」

 悠月が叫ぶと同時に、闇の中から何かが飛来した。

 ——シュバッ!!

 無数の短剣が空を裂き、悠月たちの頭上をかすめる。

「なっ……!?」

 佐弥香が悲鳴を上げる。

「これは……」

 仁典が素早く剣を抜く。

 悠月は息を飲み、暗がりを睨みつけた。

 そこに立っていたのは——

「……"影の爪"か」

 仁典が低く呟く。

 黒い装束に身を包み、顔の下半分を覆う仮面。

 その目には、一片の感情もない。

「"影の爪"……帝国直属の暗殺者部隊だ」

 悠月は拳を握る。

(帝国が……俺たちを消しにきたのか!)

「……"標的"確認」

 暗殺者が低く呟くと、再び刃を抜いた。

 悠月たちは身構える。

「避けられないな」

 賢有が刀を構え、気合を込める。

「やるしかねぇってことか……!」

 仁典が剣を振りかざす。

「悠月、指示を!」

 桃子が短剣を握りながら言う。

 悠月は息を整え、叫んだ。

「全員、戦闘準備! こいつらを突破しないと、未来はない!」

 ——死闘が、始まる。




 ——シュバッ!

 影のように動く暗殺者たちが、一斉に襲いかかってきた。

「くそっ、速い……!」

 悠月はすんでのところで短剣をかわし、すぐに木剣を構える。

「悠月、右!」

 仁典の声が響く。悠月は反射的に身を沈め、背後から振るわれた刃をギリギリでかわした。

「素早いな……!」

 賢有が戦士の勘で敵の動きを読み、素早く反撃に転じる。

 ——ガキンッ!

 刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。

「お前ら、帝国の手先か……!」

 賢有は鋭い蹴りを放ち、一人の暗殺者を後退させる。

「違う」

 暗殺者の一人が低く呟く。

「我々は"影の爪"……帝国の犬ではない。お前たちが"神託の書"を求める限り、抹殺する」

「つまり……"黒幕"の手の者ってことか!」

 悠月は息を切らしながらも、次の一撃に備える。

 暗殺者たちは、悠月たちの戦い方を冷静に分析しているようだった。

「悠月、どうする!?」

 桃子が問いかける。

 悠月は素早く周囲を見渡し、仲間たちの配置を確認する。

(正面からの戦いじゃ分が悪い……!)

 悠月は深く息を吸い、叫んだ。

「全員、連携して動く! 賢有、正面突破! 仁典、側面から援護! 桃子、裏に回れ!」

「了解!」

 悠月の指示に合わせ、仲間たちがそれぞれの役割を果たす。

 賢有が真正面から暗殺者と打ち合い、仁典がその隙をついて横から攻撃。

「これなら……!」

 悠月は自らも戦闘に加わり、敵の動きを封じる。

 しかし——

「甘い」

 暗殺者たちは、まるで影のように動き、悠月たちの攻撃をかわし続けた。

「……こいつら、"型"を持たない……!」

 悠月は驚愕する。

(攻撃のパターンが読めない……!)

 暗殺者たちは、悠月たちが次の動きを読もうとするたびに、別の動きで翻弄してくる。

「このままじゃ、じわじわと削られるぞ……!」

 仁典が焦る。

 悠月も歯を食いしばった。

(どうすれば……どうすれば突破できる!?)

 すると——

「悠月、落ち着いて」

 明日望が静かに言った。

 悠月は彼女を見た。

「……未来が見えてるのか?」

 明日望はゆっくりと頷く。

「"この戦いに勝つ方法"、ひとつだけある」

 悠月は彼女の言葉を信じるしかなかった。

「……教えてくれ!」

 明日望は小さく微笑み、言った。

「"影を断つ"のよ」

 悠月の目が見開かれる。

「影を……?」

「この場所の"光"を操れば、彼らの動きは封じられる」

 悠月は周囲を見渡し、光源を探した。

(……あれだ!)

「全員、聞け!」

 悠月は叫んだ。

「火を灯せ! 光を強くすれば、影の動きが封じられる!」

 仲間たちは即座に理解し、行動を開始する。

「なるほど……!」

 桃子が素早く油を地面に撒き、火を放つ。

 ——ボッ!!

 炎が広がり、影を増幅させる。

「……なるほどな」

 暗殺者の一人が低く呟いた。

「この場を読む力は、侮れないな」

 悠月は木剣を構え、最後の決着に向けて走り出した——!




 ——ボッ!

 炎が燃え上がり、路地裏の影が長く伸びる。

 暗殺者たちは一瞬、動きを止めた。

(やっぱり……!)

 悠月は確信した。

「こいつらは"影"を利用して動いてる……だから、光が強くなれば、逆に行動が制限される!」

「なるほどね……!」

 桃子が笑みを浮かべながら短剣を構える。

「影を作れば、そこから攻撃が来る。でも、影を消せば……!」

「やるしかねえな!」

 賢有が剣を握りしめ、悠月の横に並ぶ。

「悠月、指示をくれ!」

 悠月は素早く周囲を確認し、仲間たちに指示を出す。

「賢有、正面から一気に攻めろ! 仁典はサポート、敵の動きを封じて! 桃子、影の方向に気をつけながら奇襲を狙え!」

「了解!」

 悠月たちは一斉に動き出した。

「いくぞ……!」

 賢有が真っ直ぐ突進し、暗殺者の一人と激突する。

 ——ガキン!!

 刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。

「影がなくなったら、お前らはどう動くんだ?」

 賢有が不敵に笑いながら、さらに攻め立てる。

「……なるほど」

 暗殺者は冷静に後退しようとするが、その動きは明らかに鈍くなっていた。

「隙あり!」

 桃子が素早く回り込み、暗殺者の肩を短剣で斬りつける。

 ——シュッ!

「……っ!」

 暗殺者の一人がよろめく。

「悠月、今だ!」

 仁典の叫びを聞いた悠月は、一気に距離を詰めた。

「……終わりだ!」

 悠月の木剣が、敵の影に包まれた腕を叩き切るように振るわれる——!

 ——バキン!!

 衝撃が走る。暗殺者は防ごうとしたが、影の制約を受け、動きが鈍っていた。

 悠月の一撃が決まり、暗殺者の体が大きく吹き飛ばされる。

「……チッ」

 残った暗殺者たちが、戦況を確認すると、すぐに後退し始めた。

「……お前たちを侮った」

 暗殺者の一人が静かに言った。

「だが……"神託の書"を求める限り、お前たちは"影"から逃れられない」

 悠月は息を切らしながら、睨みつける。

「俺たちは……そんなものに負けるつもりはない!」

 暗殺者たちは何も言わず、煙幕を放ち、そのまま闇の中へと消えていった——。

 ***

「……ふぅ」

 悠月は肩で息をしながら、仲間たちを見渡した。

「なんとか……撃退したな」

「いやぁ、なかなかスリルあったねぇ」

 桃子が短剣をしまいながら笑う。

「"影の爪"……厄介な相手だったな」

 仁典が険しい表情を見せる。

「でも、わかったことがある」

 悠月は拳を握る。

「"神託の書"を巡る戦いは、帝国だけじゃない……もっと別の勢力も動いている」

「……そうみたいね」

 明日望が静かに呟いた。

「未来は、まだ定まっていない」

 悠月は彼女を見つめた。

「……だから、俺たちで選ぶんだ」

 明日望は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。

「ええ……そうね」

 こうして、悠月たちは暗殺者たちを退け、次なる道へと進むことを決意した——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ