表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

【第6章】聡彦の冷静な判断

 悠月たちは、「神託の書」の断片を手に入れた。しかし、それはあくまで"一部"に過ぎない。

「これだけじゃ、全貌は分からないな……」

 悠月が本を閉じながら呟く。

「当然よ。"神託の書"の完全な原本は、帝国が厳重に保管しているもの」

 樹絵里がそう言いながら腕を組む。

「帝国のどこにあるんだ?」

 仁典が真剣な表情で尋ねると、樹絵里は少し考えた後、答えた。

「ヴェルゼ砦——帝国軍の拠点のひとつよ。そこに"神託の書"の一部が保管されている可能性が高い」

「ヴェルゼ砦……」

 悠月は地図を広げる。そこは帝国の監視が厳しく、正面突破はほぼ不可能な場所だった。

「どうする? 正面から行ったら即座に捕まるぞ?」

 賢有が腕を組んで呟く。

「だから、別の方法を考えないとね」

 桃子が笑いながら言う。

 悠月は少し考えた後、静かに口を開いた。

「……帝国の監視網を突破できる手がかりを探そう」

 ***

 悠月たちは、帝国の動きを知るために"ある男"を訪ねた。

 帝国軍の元戦略士官——黒木聡彦くろき さとひこ

 彼は、帝国軍の非道なやり方に嫌気がさし、脱退した人物だった。

「ここにいるはずだ」

 悠月たちは、ベルディアの外れにある小さな酒場に入った。

 カウンターの奥の席に、一人の男が座っている。

「お前が、黒木聡彦か?」

 悠月が慎重に声をかけると、男はゆっくりと顔を上げた。

「……さて、誰がそんなことを言った?」

 低く落ち着いた声。その目は冷静で、悠月たちをじっと見つめている。

「俺たちは帝国に追われている。そして"神託の書"の情報を求めている」

 悠月が率直に話すと、聡彦は少しだけ口元を歪めた。

「なるほど……"神託の書"か。お前ら、それをどうするつもりだ?」

「帝国の真実を知る。そして、未来を選ぶために動く」

 悠月の言葉に、聡彦は少し驚いたように目を細めた。

「……面白いな」

 彼はグラスを置き、悠月たちをじっくりと見渡した後、静かに口を開いた。

「いいだろう。ヴェルゼ砦の監視網を突破する方法を教えてやる」

 悠月の胸が高鳴る。

 帝国の拠点への潜入計画が、ここから動き出す——!




 黒木聡彦は、グラスを軽く傾けながら、冷静な視線を悠月たちに向けた。

「ヴェルゼ砦に潜入したい? それは、正気の沙汰とは思えないな」

「分かってる。でも、俺たちは進まなきゃならないんだ」

 悠月は拳を握りしめ、迷いのない目で聡彦を見つめる。

「"神託の書"がそこにあるなら、どんな手を使ってでも手に入れる」

 聡彦は悠月の様子をじっと観察し、やがて小さくため息をついた。

「……なるほど。少しは見どころがあるな」

 彼は手元の書類を広げると、ヴェルゼ砦の簡易的な地図を示した。

「ヴェルゼ砦は帝国軍の中でも最も厳重な拠点の一つ。正面突破は不可能だ。だが、"ある方法"なら内部に潜入できる」

 悠月たちは息をのむ。

「どんな方法だ?」

 仁典が問いかけると、聡彦は淡々と答えた。

「補給部隊に紛れ込む——これが最も現実的な手段だ」

「補給部隊……?」

 桃子が首をかしげる。

「ヴェルゼ砦は定期的に物資の搬入を行っている。その際、大量の荷物が運び込まれるから、兵士たちの警戒も若干緩む。そこに紛れ込めば、内部に潜入することができる」

 悠月は地図を見つめながら考える。

「でも、どうやって補給部隊に紛れる?」

「それも簡単ではないが、不可能じゃない」

 聡彦は、さらに詳しい情報を提供する。

「ベルディアには、帝国へ物資を輸送する商人がいる。そいつに接触し、輸送隊に紛れ込む手筈を整えるんだ」

「……なるほど」

 悠月は考え込んだ。

(もしそれが成功すれば、帝国の内部に入れる……)

「その商人はどこにいる?」

 賢有が冷静に尋ねると、聡彦は静かに答えた。

「"ガルド"という名の男だ。ベルディアの市場にいるはずだ」

「……よし」

 悠月は深く頷いた。

「ガルドを探し、ヴェルゼ砦へ向かう準備をしよう」

 聡彦は満足げに微笑み、グラスを傾けた。

「いいだろう。お前たちが本当に"未来を選ぶ"覚悟があるのか、見せてもらおう」

 悠月たちは、新たな計画を胸に、市場へと向かった——。




 悠月たちは、ヴェルゼ砦に潜入するための鍵となる商人を探し、ベルディアの市場へと向かった。

 市場は活気に溢れ、露店が立ち並び、多くの人々が行き交っていた。野菜や果物、布地、武器や薬草まで、さまざまな品物が売られている。

「で、そのガルドって商人はどこにいるの?」

 桃子が辺りを見回しながら尋ねる。

「聡彦の話じゃ、ここにいるはずだ」

 悠月は慎重に周囲を見渡した。

 すると、市場の奥で荷物を積み込んでいる大柄な男を見つけた。

「……あいつじゃないか?」

 悠月が指さすと、仁典が頷いた。

「ああ、間違いない。あの動き、間違いなく輸送の準備をしている」

 悠月たちは男のもとへと歩み寄った。

「お前がガルドか?」

 悠月が声をかけると、男は積み荷から顔を上げた。

 ガルドは大柄で、日に焼けた肌と無精ひげが特徴的な男だった。

「……あんたら、何の用だ?」

 警戒するような視線。

 悠月は静かに息を整え、慎重に言葉を選んだ。

「俺たちは帝国に潜入したい。お前の輸送隊に紛れ込む方法を探している」

 一瞬、ガルドの目が細まった。

「……は?」

 彼は短く笑った後、悠月たちをじろりと見つめた。

「冗談だろ? 帝国に潜入? そんな危険なことに手を貸す奴がいると思うか?」

「俺たちは本気だ」

 悠月はまっすぐに言った。

「目的は"神託の書"。帝国が何を隠しているのか、それを知るために動いている」

 ガルドは黙り込んだ。

 しばらくの沈黙の後、彼は低く呟いた。

「……お前ら、死ぬ覚悟はあるのか?」

「ある」

 悠月は迷いなく答えた。

 ガルドはじっと悠月を見つめる。

 そして、静かに言った。

「なら、一つ条件がある」

「条件?」

「俺の荷物を無事に運ぶのを手伝え。それができたら、お前らを輸送隊に紛れ込ませてやる」

 悠月は頷いた。

「……分かった」

「よし、なら決まりだ。すぐに準備しろ」

 こうして、悠月たちはガルドの試練を受けることになった——。




 悠月たちは、ガルドの荷物運びを手伝うことになった。

「この荷を馬車に積め。遅れたら置いていくぞ」

 ガルドはぶっきらぼうに言いながら、大量の木箱を指差した。

「これ、全部運ぶの?」

 佐弥香が驚きながら箱を持ち上げようとするが、思った以上に重く、よろける。

「うわっ、これ、何入ってるのよ……!」

「武器と防具だ。帝国軍向けの補給物資だからな」

 ガルドの言葉に、悠月たちは息を呑んだ。

「帝国の物資を運ぶのか……」

 悠月は複雑な気持ちになったが、今は手伝うしかない。

「やるぞ。早く終わらせて、潜入の準備をする」

 仁典が手際よく箱を持ち上げ、馬車へと運び出す。

「おら、さっさと動け!」

 ガルドの叱咤を受けながら、悠月たちは必死に作業を進めた。

 ***

 数時間後、荷物の積み込みが完了した。

「ふぅ……なんとか終わったな」

 悠月が汗を拭う。

「なかなかやるじゃねぇか」

 ガルドは満足そうに腕を組む。

「よし、約束通り、お前らを輸送隊に紛れ込ませてやる」

 悠月たちは安堵の息をついた。

「だが、気を抜くなよ。帝国の警備は厳しい。バレたら終わりだ」

「分かってる」

 悠月は強く頷いた。

「じゃあ、馬車に乗り込め。ヴェルゼ砦に向かうぞ」

 こうして、悠月たちは帝国の拠点「ヴェルゼ砦」への潜入を開始した——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ