【第5章】禁断の書庫と樹絵里の叡智
悠月たちは、ガルダンで賢有を仲間に加えた後、「ルミナスアーカイブ」へ向かった。
ルミナスアーカイブ——それは、帝国によって存在を隠された禁断の書庫だった。
「本当にこんなところに、帝国が探してる情報があるのか?」
賢有が腕を組みながら呟く。
「少なくとも、帝国がまだ手をつけてないのは確かだね」
桃子が軽く笑いながら答える。
「それなら、一刻も早く向かおう」
悠月たちは、書庫の入り口に到着した。
——地下へと続く、古びた階段。
「……雰囲気があるな」
仁典が警戒しながら剣に手をかける。
「慎重に進もう」
悠月たちは階段を降り、ルミナスアーカイブの内部へと足を踏み入れた——。
***
書庫の内部は、古びた石造りの壁に囲まれていた。
無数の書棚が並び、その間には埃をかぶった古文書がぎっしりと詰まっている。
「すごい……」
佐弥香が目を輝かせる。
「こんなに本があるなんて……!」
「だけど、どれを探せばいいのか分からないな」
悠月は慎重に棚を眺める。
「どこかに"神託の書"の手がかりがあるはずだ」
「お前ら、何してる?」
突然、声が響いた。
悠月たちは驚き、声のした方を見る。
そこには、一人の少女が立っていた。
長い黒髪をなびかせ、知的な雰囲気をまとった少女——小池樹絵里だった。
「お前たち、ここに何の用だ?」
悠月は彼女をじっと見つめ、答えた。
「俺たちは、帝国に追われている。"神託の書"について知るために来た」
樹絵里はしばらく悠月を見つめた後、クスッと笑った。
「ふーん……面白い」
彼女は本を抱えたまま、悠月に歩み寄る。
「お前たち、どれだけの"知識"を持ってる?」
悠月は息を呑んだ。
この少女——ただの学者ではない。
彼女は悠月たちを試している——。
悠月は目の前の少女、小池樹絵里をじっと見つめた。
彼女の鋭い眼差しには、ただの興味ではなく、悠月たちを試すような意図が感じられた。
「どれだけの"知識"を持ってる?」
樹絵里の問いに、悠月は言葉を選びながら答えた。
「俺たちは、帝国が探している"神託の書"の手がかりを求めてここに来た。でも、俺たちはその内容をほとんど知らない。ただ、帝国がそれを隠そうとしているのは確かだ」
樹絵里は薄く笑った。
「そう。それが、"お前たちの知識"ってわけね」
「どういう意味だ?」
賢有が腕を組みながら問い返す。
樹絵里は本棚に視線を移し、ゆっくりと話し始めた。
「"神託の書"はただの古文書じゃない。それは、"世界の根幹"に関わるものよ。"未来を記す書"とも言われている。」
「……未来を記す?」
悠月が眉をひそめる。
「まるで予言書みたいな言い方だな」
仁典も警戒するように言う。
「まぁ、実際そう言われてる。でも、"神託の書"の本質は予言じゃないの。"未来を知ること"じゃなくて——未来を選ぶことに関わっているのよ」
「未来を選ぶ?」
桃子が興味深そうに身を乗り出す。
樹絵里は再び微笑むと、すぐ隣の棚から一冊の本を取り出した。
「これは、この書庫に保管されていた最古の文書の一つ。"神託の書"の断片とも言われているわ」
悠月はゴクリと唾を飲み込む。
「それには、何が書かれてるんだ?」
樹絵里は本を悠月の前に差し出し、軽く肩をすくめた。
「読んでみれば?」
悠月は本を慎重に受け取ると、そっとページをめくった。
——そこに記されていたのは、見たこともない古代文字だった。
「……読めない」
「当然ね。"神託の書"に関する文献は、普通の人間には解読できないようになってるもの。でも、私は読めるわ」
悠月たちは驚き、樹絵里を見つめた。
「お前、解読できるのか?」
仁典が半ば呆れたように聞く。
樹絵里は得意げに頷く。
「ええ。"知識を守る者"としての使命があるからね」
悠月は彼女の言葉を噛み締めた。
(この少女は、ただの学者じゃない……彼女こそ、俺たちが求めていた"鍵"なのかもしれない)
「なら、俺たちに協力してくれないか?」
悠月は樹絵里に向かって真剣な眼差しを向けた。
樹絵里はしばらく悠月を見つめた後、くすっと笑った。
「いいわ。でも、条件がある」
「条件?」
「"知識"は力よ。ただ与えるわけにはいかない。"お前たちがどれほどの覚悟を持ってるか"、私に証明してみせて」
悠月は息を呑んだ。
「……どうやって?」
「簡単なこと。"神託の書"の真実を知るには、知識だけじゃ足りない。"力"も必要なのよ」
そう言うと、樹絵里は書庫の奥へと歩き出した。
「ついてきなさい。試練を受けてもらうわ」
悠月たちは顔を見合わせ、無言で頷いた。
——この書庫には、まだ秘密が隠されている。
悠月たちは、樹絵里の後を追い、さらなる真実へと足を踏み入れた——。
悠月たちは樹絵里の後を追い、書庫の奥深くへと進んでいた。
書棚の間を抜けると、そこには巨大な鉄扉があった。
「……ここは?」
悠月が尋ねると、樹絵里は鉄扉の前で振り返り、微笑んだ。
「ここは『試練の間』。この先には、私が管理する"知識の守護者"がいるわ」
「知識の……守護者?」
賢有が眉をひそめる。
「まぁ、簡単に言えば、"ここを通る者の覚悟を試す存在"よ」
悠月はゴクリと唾を飲んだ。
(ただの知識じゃない……力も試されるってことか)
「悠月、やるのか?」
仁典が真剣な眼差しで尋ねる。
悠月は、一瞬だけ考え——すぐに頷いた。
「やる。ここで躊躇してる場合じゃない」
「ふふっ、いい返事ね」
樹絵里が扉に手をかける。
「じゃあ——始めましょう」
——ギィ……バァン!!
扉が開くと、そこには広大な円形の闘技場が広がっていた。
中央には、鎧を纏った巨大な像が静かに立っている。
「……あれが"知識の守護者"?」
悠月が呟くと、樹絵里が頷いた。
「ええ。"この書庫の知識を手にする者"が、相応しいかどうかを試す存在——『鉄の番人』よ」
その瞬間——
——ゴゴゴゴゴ……!!
鎧の像が動き出した。
「来るぞ!」
仁典が剣を抜く。
悠月も木剣を握りしめ、戦闘態勢に入った。
「……行くぞ!!」
悠月たちの試練の戦いが始まる——!
——ゴゴゴゴ……!
「鉄の番人」がゆっくりと動き出す。
全身を覆う分厚い鎧がきしみを上げ、赤く光る眼が悠月たちを捉える。
「……ただの像じゃないな」
仁典が警戒しながら剣を構える。
「そりゃそうでしょ。ただのハリボテなら"試練"にならないわ」
樹絵里が余裕の表情で言った。
「さぁ、**"知識を得る資格"を証明してみなさい」
「言われなくても……!」
悠月は木剣を強く握り、先陣を切った。
——ダンッ!!
悠月が地面を蹴り、番人の懐へ飛び込む。
「うおおおお!!」
狙うのは関節。分厚い鎧をまとっていても、可動部分には隙があるはずだ——!
——ガンッ!
「……っ!?」
木剣が番人の腕に当たるが、まるで鉄壁のごとく弾かれる。
悠月の手がしびれ、足元がぐらついた。
「硬すぎる……!」
「悠月、下がれ!!」
仁典が悠月を引き戻すと、番人の拳が地面を砕いた。
——ドガァン!!
「ちょっ、今の食らってたら即死じゃん!」
桃子が驚愕する。
「力もバカみたいに強いな……どうする?」
賢有が低く呟いた。
悠月は息を整えながら考える。
(まともに攻めても効かない……なら、どうする?)
「悠月、あれを見ろ!」
仁典が番人の背後を指差した。
——背中の一部、鎧が欠けている。
「……あそこか!」
悠月は確信した。
(あの隙を突けば、倒せるかもしれない!)
「全員で連携するぞ!」
悠月は仲間に声をかけた。
「まず、俺と仁典で前から引きつける! 賢有は横から動きを封じろ! 桃子、背後に回って攻撃の機会を作れ!」
「了解!」
仲間たちはすぐに動いた。
「行くぞ!!」
悠月たちの連携攻撃が始まる——!
悠月たちは、鉄の番人の隙を突くために素早く動いた。
「仁典、行くぞ!」
悠月が叫ぶと、仁典は即座に反応し、番人の正面から攻撃を仕掛ける。
「おらぁっ!!」
——ガキン!
剣が番人の肩に当たるが、やはり硬くて刃が通らない。しかし、それでいい。これは攻撃ではなく"囮"だ。
番人は仁典の方へ拳を振り下ろす。
「はいよっ!」
賢有が素早く横から蹴りを放ち、番人の腕を狙う。
——ドンッ!
賢有の一撃で番人の動きがわずかに鈍る。
その一瞬の隙を見逃さず、桃子が動いた。
「じゃ、私は背後をいただきます!」
桃子は音もなく番人の背後へ回り込み、短剣を抜く。
悠月はそれを確認し、大きく息を吸った。
(今だ——!!)
悠月は全力で地面を蹴り、番人の背後へ跳び込んだ。
「喰らええええ!!」
狙うは、鎧の隙間。
悠月の木剣が、番人の露出した部分に思い切り叩き込まれた!
——バギンッ!!
番人の動きがピタリと止まる。
「……よしっ!」
悠月が拳を握ると——
——ゴゴゴゴ……!
番人の体が徐々に崩れ、やがて完全に動かなくなった。
「……やったか?」
賢有が息を整えながら呟く。
悠月は慎重に番人の様子をうかがったが、動く気配はない。
「……倒した」
その言葉に、仲間たちは一斉に息をついた。
「いやぁ、ハラハラしたね!」
桃子が笑いながら短剣をしまう。
「まさか本当に倒しちまうとはな……」
仁典も苦笑する。
悠月は木剣を握りしめたまま、樹絵里の方を振り返った。
「これで……俺たちは"知識を得る資格"があるってことか?」
樹絵里は満足そうに頷いた。
「ええ。約束通り、"神託の書"に関する情報を教えてあげる」
悠月たちは息を呑む。
——ついに、"神託の書"の真実に迫る時が来た。
鉄の番人が完全に沈黙すると、樹絵里は悠月たちの前に歩み寄った。
「なるほどね……本当にやるとは思わなかったわ」
彼女は腕を組みながら微笑む。
「お前たちには"知識を得る資格"がある。約束通り、"神託の書"に関する情報を教えてあげる」
悠月たちは緊張しながら樹絵里を見つめた。
「"神託の書"ってのは、一体なんなんだ?」
仁典が真剣な表情で問いかける。
樹絵里は軽く息をつき、静かに語り始めた。
「"神託の書"は、帝国がひた隠しにしている"真実"を記した書物よ」
「真実……?」
悠月が眉をひそめる。
「ええ。それは"未来を記す書"とも言われているわ。でも、それだけじゃない。"神託の書"の本質は、未来を知ることじゃなく——未来を選ぶことにあるの」
「未来を……選ぶ?」
桃子が興味深そうに身を乗り出す。
樹絵里は、書庫の奥にある古びた棚へと向かい、一冊の本を取り出した。
「これが"神託の書"の断片の一部」
悠月たちはゴクリと唾を飲み込む。
(ついに……"神託の書"に触れる時が来た)
樹絵里は本を広げ、続けた。
「この書には、"この世界の分岐"が記されている。ある選択をすれば世界はどうなるか——それが、詳細に記されているのよ」
「そんなことが……」
悠月は、理解が追いつかないまま本を覗き込んだ。
そこに記されていたのは、見たこともない古代文字——しかし、その意味は不思議と頭の中に流れ込んできた。
——"この書を開いた者へ問う。お前は、未来を変える覚悟があるか?"——
悠月の胸がドクンと高鳴る。
「これは……!」
「ふふっ。驚いた?」
樹絵里がいたずらっぽく笑う。
「お前たちはすでに、この書に選ばれているのかもしれないわね」
悠月は拳を握る。
(……俺は、この書を使って何を選ぶべきなんだ?)
答えはまだ見えない。
しかし、この先にあるのは帝国が隠そうとした"世界の真実"だ。
悠月たちは、それを求めて進むしかなかった——。