【第13章】自分とそっくりな存在
——帝国要塞・脱出
悠月たちは、"神託の書"の在り処が"オルディアの地下都市"にあることを突き止めた。
「ここからどうやって抜け出す?」
桃子が低く囁く。
「帝国兵が警戒を強めている。簡単には脱出できないぞ」
仁典が慎重に言う。
悠月はアークスを見た。
「お前の協力が必要だ」
アークスは無言で頷くと、素早く状況を確認する。
「……東側の通路が比較的手薄だ。だが、完全に警備がないわけじゃない」
「なら、そっちを突っ切るしかないな」
賢有が剣を握る。
「戦闘になれば時間を食う。できるだけ静かに抜けるぞ」
悠月は決断した。
***
——帝国要塞・東側通路
「見張りが三人……」
佐弥香が慎重に確認する。
「どうする、悠月?」
悠月は考えた。
(正面から突破するのはリスクが高い……なら、迂回する手段は?)
「アークス、お前は兵士を無力化できるか?」
アークスは無言で頷き、素早く動いた。
——スッ……!
一瞬の隙を突き、見張りの一人を背後から沈める。
「すごい……!」
佐弥香が驚く。
「次、行くぞ」
悠月たちは警備の薄くなった隙に通路を進む。
そして——
「出口が見えた!」
桃子が小さく叫んだ。
しかし、その時——
——ドン!!
「何だ!?」
突然、悠月たちの目の前に一人の男が降り立った。
黒いマント、鋭い目つき——そして、悠月とそっくりな顔。
「……なんだ、これは?」
仁典が驚きの声を上げる。
悠月は、目の前の男をまじまじと見つめた。
(……俺と、同じ顔?)
男は静かに口を開いた。
「ようやく、会えたな」
「お前は……誰だ?」
悠月が問いかけると、男はわずかに笑みを浮かべた。
「"もしも、お前が違う道を選んでいたら"——俺は、その未来の"お前"だ」
悠月は息を呑んだ。
「……俺の、別の未来?」
男はゆっくりと剣を抜いた。
「そうだ。お前が"神託の書"を手に入れた先に待つ未来のひとつ……"支配する者"となった、お前だ」
悠月は拳を握りしめた。
(これは……"未来の俺"? そんなことが……)
「……選択の未来を、ここで決めるぞ」
男が剣を構える。
悠月も、木剣を握りしめた。
「……俺は、お前にはならない」
"もう一人の自分"との戦いが、今始まる——!
——帝国要塞・東側通路
悠月は、目の前に立つ"もう一人の自分"を見据えた。
「お前は……"俺が別の未来を選んだ姿"だと言ったな」
「その通りだ」
男は鋭い眼差しを向けながら剣を構える。
「お前が"神託の書"の力を手にし、"選択"を誤った未来……それが、俺だ」
悠月の心臓が高鳴る。
(俺が間違った選択をすれば……こんな存在になるのか?)
「……そんな未来、俺は選ばない」
悠月は木剣を握りしめ、一歩前に出る。
「未来は、俺が決める!」
——カンッ!!
剣と剣が激しくぶつかり合う。
「来るぞ、悠月!」
仁典が叫ぶが、悠月はすでに動いていた。
「負けるわけにはいかない……!」
悠月はすばやく反撃を繰り出す。
しかし——
「遅い」
男は簡単にかわし、悠月の横腹を蹴り上げる。
「ぐっ……!」
悠月は地面に転がる。
「悠月!」
佐弥香が声を上げるが、悠月はすぐに立ち上がった。
(こいつ……俺の動きを完全に読んでいる!?)
「お前はまだ迷っている」
男は悠月を見下ろしながら、冷たく言う。
「だから、その剣には"迷い"がある」
悠月は歯を食いしばる。
(俺は……迷っているのか?)
その時——
「悠月、信じて!」
明日望の声が響く。
「未来は"決められている"んじゃない……"選ぶ"ものよ!」
悠月の心に、迷いが晴れる感覚が広がった。
(そうだ……俺は、俺自身で未来を選ぶ!)
悠月は、もう一度木剣を握り直し、ゆっくりと構えた。
「もう、迷わない」
男は一瞬、目を細めた。
「……なら、証明してみせろ!」
——激しい剣撃が交わされる。
悠月は自分自身との戦いに、決着をつける覚悟を決めた——!
——帝国要塞・東側通路
悠月は"もう一人の自分"と剣を交える。
——カンッ! カンッ!!
激しい打ち合いの中で、悠月は相手の動きに圧倒されていた。
(くそっ……! まるで"俺自身"と戦っているみたいだ)
相手は、悠月と同じ剣技を使い、さらに一歩先を読んでくる。
「どうした? そんな迷いのある剣で、俺に勝てると思うのか?」
男は冷静なまま悠月の攻撃をいなし、鋭い突きを繰り出した。
——シュッ!
「くっ……!」
悠月は寸前でかわしたが、頬に浅い傷がつく。
「悠月!」
桃子が叫ぶ。
「大丈夫だ……!」
悠月は歯を食いしばりながら立ち上がる。
(……こいつの強さは、"俺がもし間違った未来を選んでいたら"の力……)
悠月は深く息を吸い、剣を握り直した。
「お前は"俺の可能性"……でも、俺は"俺自身"の未来を選ぶ!」
悠月の目が鋭くなる。
「決められた未来なんて、俺には必要ない!」
悠月は前に踏み込み、相手の剣を受け流した。
「なっ……!?」
男の動きが一瞬乱れる。
(見えた……こいつは、"俺の選択を試している")
悠月は迷いなく木剣を振るう——!
——バシュッ!!
「ぐっ……!」
男の剣がはじかれ、彼の身体がぐらつく。
悠月はすぐに距離を詰め、剣を相手の喉元へ突きつけた。
「……決着だ」
男は静かに息を吐き、微笑んだ。
「……そうか」
「お前は……俺だったのか?」
悠月が尋ねると、男はゆっくりと頷いた。
「そうだ。そして、お前の"未来の選択"が、今決まった」
次の瞬間——
男の姿がゆっくりと霧のように消えていった。
「……"もう一つの未来"が、消えた?」
佐弥香が息を呑む。
悠月は剣を下ろし、静かに呟いた。
「……俺は、"俺自身"の道を選んだんだ」
仁典が笑いながら悠月の肩を叩いた。
「決めたんだな、悠月」
「……ああ」
悠月は深く息をついた。
そして、彼の心にはもう迷いはなかった。
「行こう。"オルディアの地下都市"へ!」
悠月たちは、新たな未来へと歩き出す——。