第2幕:世界の真実 【第11章】封印された歴史
悠月たちは、帝国監視施設からの脱出に成功し、ベルディアの外れにある廃屋へと身を潜めていた。
「はぁ……なんとか逃げ切れたな」
仁典が壁にもたれかかりながら息を整える。
「ほんと、無茶するんだから」
佐弥香が疲れた様子で座り込む。
悠月は、手の中にある銀色のプレート——"未来の鍵"をじっと見つめた。
「これが……"未来の鍵"か」
金属製の薄い板には、古い紋様が刻まれていた。
「この模様……どこかで見たような……」
賢有が眉をひそめながら覗き込む。
「悠月、ラヴィスのところに戻るの?」
桃子が尋ねる。
悠月は少し考えた後、首を振った。
「いや……その前に、この鍵の正体を知る必要がある」
「でも、どうやって?」
佐弥香が不安そうに問う。
「"未来の鍵"……それは、かつて封印された歴史を解くもの」
突然、明日望が口を開いた。
悠月たちは彼女を見つめる。
「……未来を見るお前が言うなら、間違いないんだろうな」
仁典が呟く。
「なら、この鍵の謎を解く場所は?」
悠月が尋ねると、明日望は静かに言った。
「ナイサスの神殿よ」
「ナイサスの……神殿?」
悠月は眉をひそめる。
「そこに、この鍵の答えがある」
悠月たちは顔を見合わせた。
(封印された歴史を解く鍵……)
「よし、行こう」
悠月は立ち上がった。
——ナイサスの神殿。そこに、"神託の書"の謎を解く手がかりがある。
悠月たちは、新たな目的地へと向かう——。
——ナイサスの神殿
悠月たちは、ベルディアを出発し、ナイサスの神殿へと向かっていた。
「ナイサスの神殿……本当にそんな場所があるの?」
佐弥香が不安そうに尋ねる。
「確かに、あまり聞かない名前だな」
賢有も慎重な表情を浮かべる。
「私も詳しくは知らないわ。ただ、"未来の鍵"が導く場所として、神殿の名が見えたの」
明日望が静かに答えた。
悠月は"未来の鍵"を握りしめながら、考える。
(帝国が隠そうとする"神託の書"……その真実に近づいている)
「とにかく、行くしかないな」
仁典が地図を確認しながら言う。
***
ナイサスの神殿へ続く道は険しかった。
「森が深いな……」
桃子が周囲を警戒しながら進む。
「何かが……いるかもしれない」
悠月の背筋に緊張が走る。
そして——
——ガサガサッ!
「っ!」
悠月たちは、一斉に武器を構えた。
「……誰かいる!」
賢有が低く構えながら、周囲を睨む。
すると——
「お前たち、何者だ?」
黒いフードを纏った男たちが現れた。
悠月は、敵か味方かを判断しようとする。
(……帝国の追手か? それとも……)
「ナイサスの神殿へ向かうのか?」
男の一人が低い声で問いかけた。
悠月は慎重に答える。
「……そうだ」
男は一瞬、沈黙した後、静かに言った。
「ならば、お前たちを試させてもらう」
——悠月たちは、新たな試練に直面することになった。
黒いフードの男たちは、悠月たちを囲むように立ちはだかった。
「試す……だと?」
賢有が剣を構える。
「お前たちは誰だ?」
悠月が冷静に尋ねると、男たちの中の一人が静かに口を開いた。
「我々は"ナイサスの守護者"……神殿に近づく者が"資格"を持つかどうか、見極める者だ」
「資格?」
仁典が眉をひそめる。
「お前たちが神殿に足を踏み入れるに値する者か……それを判断させてもらう」
悠月は男の言葉を聞き、拳を握った。
(また"試練"か……)
だが、ここまで来た以上、引き下がることはできない。
「……どうすれば、その資格があると認めてもらえる?」
男たちは短剣を抜き、静かに構えた。
「"力"と"心"を示せ」
その言葉とともに——
——黒いフードの男たちが、一斉に襲いかかってきた!
「来るぞ!」
悠月は木剣を構え、敵の動きを見極める。
「くっ……!」
仁典が剣を振るい、賢有が正面から応戦する。
「ただの盗賊じゃなさそうだな……!」
桃子が身軽に回避しながら呟く。
悠月は男たちの動きを観察し、冷静に分析する。
(戦闘技術は高いが、隙がないわけじゃない……!)
悠月は、"未来の鍵"を握りしめながら、敵の攻撃を見極める。
「明日望……見えてるか?」
悠月が小声で尋ねると、明日望は静かに頷いた。
「"勝てる道"はある……」
「なら、それを掴む!」
悠月は仲間たちに指示を出し、反撃に転じる——!
ナイサスの神殿への試練が、今始まる。
悠月たちは"ナイサスの守護者"と名乗る黒いフードの男たちと対峙していた。
「力と心を示せ……か」
悠月は木剣を構え、敵の動きを見極める。
「悠月、どうする?」
仁典が剣を握りしめながら問いかける。
「まずは相手の戦い方を見極める!」
悠月の指示とともに、賢有が一歩前に出る。
「なら、俺が先陣を切る!」
——バシュッ!
賢有の剣が空を裂く。
しかし、黒いフードの男は素早く後退し、すれ違いざまに短剣で賢有の腕をかすめた。
「くっ……!」
「速いな……!」
桃子が驚く。
悠月はすぐに状況を分析した。
(奴らの動き……軽やかだが、決して力任せじゃない)
「……ただの戦闘じゃないな」
悠月は冷静に考える。
("力"だけを試しているわけじゃない……"心"も見せろってことか?)
「悠月!」
仁典が間一髪で敵の攻撃を防ぎながら叫ぶ。
悠月は決断した。
「戦うだけが答えじゃない……!」
悠月は木剣を降ろし、黒いフードの男たちを真正面から見据えた。
「俺たちは、この神殿で"未来の鍵"の謎を解きたいだけだ! 無駄な戦いをするつもりはない!」
男たちは動きを止めた。
「……ほう」
その中の一人が口元を歪ませた。
「剣だけでなく、己の"意志"を示したか」
悠月は息を飲んだ。
「なるほど……"力"だけではなく、"心"も試されているのか」
男は短剣をしまい、悠月を見つめた。
「お前たちの目的が"知識"を得ることにあるならば……通るがいい」
「……え?」
佐弥香が驚く。
「これでいいの?」
男は静かに頷く。
「無用な殺し合いを求める者には、神殿の扉は開かれない。お前たちは、それを理解した……ならば、進め」
悠月は安堵の息をついた。
「ありがとう」
黒いフードの男たちは、そのまま森の中へと消えていった。
「……通してくれたな」
仁典が剣を収める。
「ナイサスの神殿は、この先だ」
悠月たちは再び歩き出した。
"封印された歴史"の真実を求めて——
ナイサスの守護者たちが消えた後、悠月たちは再び前へと進んだ。
「……なんだったんだ、あいつら」
賢有が納得がいかない様子で呟く。
「試すようなことをして、結局何もせずに去っていくなんて……」
「それだけ、ナイサスの神殿には特別な意味があるってことだろうな」
仁典が慎重に言った。
「"神託の書"が絡んでいる以上、ここには何か"封印された歴史"が眠っているはずだ」
悠月は黙って頷いた。
("未来の鍵"を持つ俺たちだからこそ、試された……なら、この先には必ず"答え"がある)
「行こう。神殿はすぐそこだ」
***
霧が立ち込める森を抜けると、悠月たちの前に巨大な遺跡が姿を現した。
「……これが"ナイサスの神殿"か」
佐弥香が驚きの声を上げる。
「帝国の地図にも載ってない……こんな場所が本当にあったなんて」
ナイサスの神殿は、年月を感じさせる石造りの建造物だった。
苔むした壁、崩れかけた石柱——それでも、その場に漂う空気は厳かで、圧倒的な歴史の重みを感じさせる。
「……扉がある」
悠月は、神殿の中央にそびえる巨大な扉を指差した。
そこには、"未来の鍵"と同じ紋様が刻まれていた。
「この扉……"未来の鍵"で開くんじゃないか?」
「試してみるしかないな」
悠月は"未来の鍵"を扉の紋様へとかざした。
——ゴゴゴゴ……!
鈍い振動とともに、扉がゆっくりと開いていく。
「開いた……!」
桃子が息をのむ。
悠月は扉の奥へと一歩踏み出した。
「行こう。この先に"封印された歴史"があるはずだ」
悠月たちは、ナイサスの神殿の中へと足を踏み入れた——。
"神託の書"の謎が、ついに明らかになる。
——ナイサスの神殿・内部
悠月たちは開かれた扉の奥へと足を踏み入れた。
「……すごい」
佐弥香が息をのむ。
内部はまるで時間が止まったかのような空間だった。
壁一面には古代文字が刻まれ、中央には巨大な石碑がそびえ立っている。
「これが……"封印された歴史"の記録か」
仁典が慎重に石碑へと歩み寄る。
悠月は"未来の鍵"を握りしめながら、石碑をじっと見つめた。
「……明日望、何か分かるか?」
明日望は静かに壁の古代文字を見つめる。
「この文字……"神託の書"と同じ言葉を使っているわ」
「つまり……"神託の書"の一部?」
桃子が疑問を投げかける。
明日望は頷いた。
「ええ。ここには"神託の書"に記されている"ある未来"が書かれているみたい」
悠月は胸の奥がざわつくのを感じた。
(未来が……ここに書かれている?)
「読んでみるぞ」
明日望が静かに石碑の文字を読み上げた。
"神託の書の断章——未来は選ばれし者によって決まる"
「……未来を選ぶ?」
悠月が思わず呟く。
「ここには、"未来は決められたものではなく、持つ者によって変わる"と書かれているわ」
「つまり、"神託の書"とは……未来を予言するものじゃなく、"未来を選ぶための道標"ってことか?」
仁典が驚いたように言う。
「そうかもしれない……」
悠月は、拳を握る。
(未来は決まっていない……俺たちが"選ぶ"もの?)
しかし、その時——
——ゴゴゴゴ……!
神殿全体が揺れ始めた。
「何だ!?」
賢有が警戒する。
すると、神殿の奥から何かが動く音が聞こえた。
"封印されたもの"が目を覚ます——
悠月たちは、神殿の最奥へと向かう。
そこにあるのは、"神託の書"のさらなる真実か——
——ゴゴゴゴ……!
神殿全体が大きく揺れる。
悠月は拳を握りしめ、石碑の前に立った。
「何かが……動いている!」
仁典が剣を構える。
神殿の奥、石碑のさらに向こうにある巨大な扉がゆっくりと開いていく。
「……これは?」
桃子が警戒しながら後ずさる。
扉の奥から現れたのは——
"石の守護者"
それは、ナイサスの神殿を守るために作られた巨大な石像だった。
「どうやら、"侵入者"と判断されたみたいね」
明日望が冷静に分析する。
「ここを通るには、こいつを倒すしかない……!」
賢有が剣を握る。
「やるしかねえな……!」
悠月は木剣を強く握りしめた。
「全員、戦闘準備! こいつを突破して、"神託の書"の真実を掴む!」
仲間たちは一斉に武器を構えた。
——ナイサスの神殿・最奥での戦いが始まる!
——ゴゴゴゴ……!!
神殿の奥から現れた石の守護者が、悠月たちに向かってゆっくりと動き出す。
その姿は、人の形をしているが、大地の力を宿したように巨大で、体の表面には古代文字が刻まれていた。
「……こいつが"試練"か」
悠月は木剣を強く握る。
「悠月、どうする!?」
仁典が剣を構えながら叫ぶ。
「まずは様子を見る!」
悠月の指示のもと、仲間たちは慎重に間合いを測る。
すると——
——ドン!!
石の守護者が巨大な腕を振り下ろした。
「くそっ、攻撃が重い!」
賢有が剣で防御するが、衝撃で後退する。
「力任せの攻撃だが、一撃でも食らったらヤバいな……!」
桃子が素早く身を引く。
悠月は慎重に守護者の動きを観察する。
(動きは遅い……けど、防御が硬すぎる)
「弱点を探るぞ!」
悠月は一歩前に出る。
「賢有、正面から攻撃してみろ!」
「おう!」
賢有が剣を振り下ろし、石の守護者の腕を叩く——
しかし——
——カキンッ!!
「……効いてねぇ!?」
「くそっ、硬すぎる……!」
仁典も攻撃を試みるが、守護者の体には傷ひとつつかない。
「……悠月、"未来の鍵"を試してみて」
明日望が冷静に助言する。
悠月は驚きながらも、すぐに"未来の鍵"を手に取る。
「これが……何かの"鍵"になるのか?」
悠月が鍵を掲げると——
——守護者の動きが、一瞬止まった。
「……効いてる?」
桃子が驚く。
悠月はさらに鍵をかざしながら、一歩踏み出した。
「お前は……"俺たちを試している"のか?」
その瞬間——
——ゴゴゴゴゴ!!
石の守護者が再び動き出し、今度はゆっくりと膝をついた。
「……え?」
悠月たちは驚く。
守護者は、悠月の前で頭を垂れた。
「どうやら……"認められた"みたいね」
明日望が静かに言う。
「未来の鍵が"答え"だったんだ」
悠月は息をのむ。
(つまり……俺たちは"選ばれた"ってことなのか?)
すると——
——神殿の奥の扉が、ゆっくりと開いた。
「行こう」
悠月は仲間たちを見渡し、扉の奥へと歩き出した。
この先にあるのは——"神託の書"の真実。
悠月たちは、新たな扉の向こうへと進んでいく。
——ギィィィ……
悠月たちの前で、神殿の奥の扉がゆっくりと開いていく。
「この先に……"神託の書"の真実が?」
佐弥香が息をのむ。
悠月は"未来の鍵"を握りしめ、一歩前へ出た。
「行こう」
仲間たちは無言で頷き、扉の奥へと足を踏み入れる。
***
——ナイサスの神殿・最深部
扉を抜けると、そこには巨大な円形の部屋が広がっていた。
「これは……?」
賢有が驚いたように辺りを見回す。
壁一面に刻まれた古代文字、そして中央にそびえ立つ"石碑"——
その石碑には、まるで"誰かの手"を待っていたかのように、"未来の鍵"と同じ紋様が刻まれていた。
「悠月、その鍵……」
明日望が静かに言う。
悠月はゆっくりと頷いた。
(この石碑が……"神託の書"の秘密に繋がる?)
悠月は"未来の鍵"を石碑にかざした。
その瞬間——
——ゴゴゴゴゴ……!!
部屋全体が揺れ、壁に刻まれた古代文字が淡く輝き始めた。
「何かが……起こる!」
桃子が身構える。
すると——
石碑の表面に、"映像"のようなものが浮かび上がった。
悠月たちは息をのむ。
そこに映し出されたのは——
"かつてこの世界で起こった、もう一つの未来"。
「……これは?」
仁典が驚きながら声を上げる。
明日望は目を見開き、震える声で呟いた。
「"神託の書"が記していた……"失われた未来"……」
悠月は、石碑の映像を食い入るように見つめた。
(この映像が……"神託の書"の真実?)
悠月たちは、その映像に秘められた"歴史の記録"を知ることになる——。
"封印された歴史"が、今、解き明かされる。
——ゴゴゴゴゴ……!
石碑の表面に映し出された映像が、淡く光を放ち始めた。
「……これは、一体?」
悠月は、映像に映る"もう一つの未来"を食い入るように見つめる。
そこには、荒廃した都市が広がっていた。
「ここ……どこ?」
佐弥香が震えた声で呟く。
建物は崩れ、空は不気味な赤黒い雲に覆われている。
「……未来の世界、なのか?」
仁典が慎重に言う。
すると、映像の中で、一人の男が立っていた。
黒いマントを翻し、悠月と同じような木剣を持つ人物——
「……あれ、誰だ?」
悠月は息を呑んだ。
すると、石碑に刻まれた文字が浮かび上がる。
"これは、選ばれし者が歩む可能性のある未来"
悠月の胸が高鳴る。
(……俺が歩む可能性のある未来?)
「つまり、これは"神託の書"が示す"未来の分岐"……?」
明日望が震える声で言う。
悠月は拳を握る。
「……これは、俺たちが選ぶ未来の一つってことか」
しかし——
次の瞬間、映像の中の"黒いマントの男"が振り向いた。
その顔は——
悠月自身の顔と、まったく同じだった。
「……!!」
悠月の心臓が大きく跳ねる。
「これって……どういうこと?」
桃子が息を呑む。
石碑の文字がさらに浮かび上がる。
"未来は選ばれるものではなく、選ぶもの——"
悠月の背筋に冷たいものが走る。
「……俺が、この未来を選ぶ可能性がある、ってことか?」
「そう」
明日望が静かに言った。
「悠月、あなたは"選ぶ立場"にいるのよ」
悠月は、"未来の鍵"を強く握りしめた。
(俺が……未来を選ぶ? それが"神託の書"の示すことなのか?)
しかし、考える間もなく——
——ゴゴゴゴッ!!
神殿全体が大きく揺れ始めた。
「これは……!!」
悠月たちはバランスを崩しそうになる。
「何かが……起こる!」
悠月は、石碑の映像を最後まで見届けようと、目を凝らした。
すると、最後に石碑が示した言葉は——
"真実を知りたければ、ヴェルゼ砦へ向かえ"
悠月は息を呑んだ。
("神託の書"の本当の真実が、ヴェルゼ砦にある……!?)
「行こう……!」
悠月は迷いなく、仲間たちを振り返った。
「ヴェルゼ砦に"答え"がある!」
こうして、悠月たちは新たな目的地へ向かう決意を固めた。
"神託の書"の真実が、ついに暴かれる——