12.内緒のお話
「いや、今回も無事解決だね」
ヴァリアント自体が海に面した都市である。
一行は日が暮れるまえに海辺の街を走っていた。
「二人掛けに三人。なのに広く感じるね」
タシュが清々しいような寂しいような、秋の青空めいた声でつぶやく。
「すぐに慣れるさ」
アーサーは向かって右、内陸側の席。窓の外を見ている。
タシュはジャンヌも会話に混ぜるべく話を振る。
「でもなんか、リンスカムさんの決意表明的にさ。ジャンヌの『弔う』ってのも、なんか違う感じになったね」
彼はジャンヌの膝の上に載せられた書類カバンを見つめる。
その中には、医者から受け取った木片が入っている。
『無駄な荷物になった』と言いたいようだが、
「ま、最初からそんなつもりはありませんでしたし」
「はい?」
ジャンヌはヌケヌケと言い放つ。
「は、は、はぁ!? じゃあなんで!?」
「お土産には趣味が悪いぞ」
「違いますよ」
彼女は狭い座席の中で足を組み替える。
「メアリーさんが記憶喪失しているために。彼女は本当にエリンさんなのか、10年まえ最後に伝えようとした言葉はなんなのか。それは分からないままでした」
「そうだね」
「ですがね。土壇場で当時のことを知っているものが出てきたわけですよ」
ジャンヌがカバンを揺らすと、
「そうか! その木片は事故に遭った汽車の一部だから!」
「残留思念が残っているというわけか!」
タシュがポンと手を打ち、アーサーも振り返る。
「えぇ、それがまたツイていることに。これが、
『エリンさんが別れのときに触れていた窓の桟』だったようで。
一部始終が染み込んでいたんですよ」
「おおっ!」
「素晴らしい!」
やんややんやと手を叩く男ども。
ドヤァと薄い胸を張るジャンヌ。
「正直引き取ろうとしたときはドン引きだったが、意図があって安心したぞ!」
「それで、彼女がエリンさんだったのは確定として! 最後の言葉はいったいなんだったんだい!?」
『早く答え合わせを』と欲しがる二人だが、
「は? あなた方に言えるわけないでしょう。リンスカムさんにも話していないのに」
ジャンヌは一転冷たい、どころか、
「えええええ!?」
「依頼主に話していないのか!?」
大問題な発言をする。
「なんでなんでなんで!」
「狭いのに寄ってこないでください」
彼女はタシュを押し退けると、窓の外へ視線を向ける。
そこにはキレイな海が水平線まで広がっている。
ジャンヌは静かに笑う。
「何せ、エリンさんに告白するまで10年掛かった男ですからね。迂闊に伝えて安心させたら、次もまた10年掛かるかもしれない」
「まぁ、なんかそういう方向なんだね」
「いつか彼と会う機会があったら、そのとき教えますよ」
「なさそうだなぁ。私たちは過去になったのだから」
「運転手さん、停めてください」
追及も終わったところで、ジャンヌは話を切り替える。
車が徐々に速度を落とし、路肩に停止すると
彼女は車から降り、海へ向かって立つ。
そのままカバンを開けたかと思うと、
「ジャンヌ、何す、あっ!」
彼女は木片を思い切り、海へと放り投げた。
「ちょちょちょっ!?」
「弔うとは水葬だったのか!?」
「あっはっはっはっ!!」
ジャンヌの似合わない高笑いが響くなか、放物線を描く木片は
ガラス片が春の日差しを反射してキラキラ光り、
同じように輝く海へと消えていった。
その輝きの中にジャンヌは、
最後に読み取った記憶にあった、エリンの満面の笑みを思い出した。
同時に、明るい声も蘇ってくる。
『何があっても私たちは一緒よ! 大好き!!』
──『メッセンジャー』は手術に立ち会う 完──
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