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4.幽霊求めて三千里(までは行ってない)

 次にレナが現れたのは、1週間と少し空いたのちだった。

 途中にも予定がなく終日事務所にいる日はあったので、


「もう忘れてくれたと思っていたのに……」


 ジャンヌは苦々しい顔で彼女を迎えた。


「まとまって空いているのが今日からと聞きましたので!」


 対するレナは明るい笑顔。

 ジャンヌが勢いよく振り返ると、

 タシュは同じくらい勢いよく窓の外へ目を逸らす。


「おい」

「今日はどれくらい暖かくなるかなぁ」

「確かめてみろ。表出ろや」


 彼女はタシュの胸ぐらをつかみつつ振り返る。


「というか、私は仕事であなたに付き合っているんですよ。で、ですね。空いているのはお休みなんですよ」


 だから付き合う義務はない、そう切り捨てようとしたジャンヌだが


「今度代休あげるねぇ」


 余計な言葉が聞こえたので、音源を適当に壁へ投げ捨てる。


「ふぎゃっ!」

「それより、待ってください。あなた、わざわざ連休を狙ってきたってことは」

「はい!」

「おああーっ! 魔除けの梓弓が! ポッキリ!」


 話題が戻ってきたレナは、大きく頷くと



「ちょっと遠出になりますので! 最初はメッセンジャーさんのお(うち)に寄りましょう!」



 両手で大きな旅行カバンを突き出す。


「あ、あ、あ、あ……」

「まぁまぁ。旅行だと思ってさ」


 愕然とするジャンヌの肩へ、タシュが無神経に手を置く。

 彼女は素早く振り返ると、彼の肩に掛かっていた弓の弦で首を絞めに掛かる。


「だったらおまえもついて来いぃ〜!!」

「グエーッ! どうしたのさジャンヌぅ……僕と一緒に旅行したいのかなぁ……?」

「そこでおまえを海に沈めてやるぅ〜!!」

「海辺とはかぎらな、ギエーッ!!」


 タシュの顔は赤くなったり青白くなったり。


「あっはは」


 ドン引きで他人事のように笑うレナへ、ギギギギ、と人殺しが振り返る。


「よろしいですよね? 旅費も出ますよね……?」

「はは、上司に掛け合ってみます、はい」






 今回の現場、コロッサスの古戦場は、レパルスよりさらに北。

 もう何百年もまえに槍と馬で激突があった場所である。

 しかし広い平原は開発されることもなく、いまだに当時の光景を保っている。


 そういうわけで、逆に石碑が立っている以外に観光地として遊べるものはない。

 それでも意外と人は見掛ける。

 王国史でも有名な場所だからだろうか。

 もちろん見た感じは現代人ばかりである。


「甲冑も馬もいませんね」


 ジャンヌは一応、オペラグラスを使ってまで何もない草原を眺める。

 しかし新しい発見なんて野ウサギくらいである。


 だからこそ肉眼に戻った瞬間は『はい終了』の合図。

 (きびす)を返そうとするところで、慌ててレナが肩をつかむ。


「いや、でもっ、幽霊かも! あの普通の人に見えるのが幽霊かも!」

「古戦場で行き倒れがあったらニュースになってると思うけど」

「ついぞ聞いたことはありませんね」

「なんだったらここが心霊スポットなんてのも初耳だ」

「まぁまぁまぁまぁ」


 何もない観光地に不満なのか、タシュまでジャンヌの援護射撃をするが、

 レナは二人の背中を押して、半ば強引に原っぱを歩きまわった。



 が、案の定見えていた人は全員生きている人間。


 途中甲冑姿の騎士が現れて『もしや!』となるが、

 正体は地域振興会のイベントのリハーサル。

 ぬか喜びにレナがガックリするだけの運びとなった。



 その後はコロッサス城趾も訪れたものの空振り。

 レナお目当ての幽霊も、タシュお目当てのカフェや土産物屋もなく、


 完全に徒労の1日となった。






 さて、時刻は夕暮れ。


「こんなことなら、ついてくるんじゃなかったよ」

「私をそんな旅へ放り込んだのはあなただということをお忘れなく」


 旅先でのストレスは相方へ行くことが多いものである。


「ま、まぁまぁまぁ! ここはいいお宿ですから! ご飯美味しいしお風呂広いし! 疲れを癒してください!」


 レナがギスギスしだすジャンヌの両肩に手を置く。

 彼女がタシュに対してはこれが平常運転だということを知らない。


 見た目にはなんの変哲もない洋館のホテル。

 城趾や古戦場が近いことを意識したのだろう。


 3人はクラシカルな玄関をくぐってチェックインへ向かう。






 その後一行は2階へ。

 鍵は203と204。

 今は部屋の前の廊下で別れるところである。


「別部屋かぁ。寂しいよジャンヌ」

「では記者さんと一緒に泊まりますか? 私はむしろ一人になりたい」


 タシュを203側へ押しやり、自身は204へ行こうとするジャンヌ。


「あの、あんまり一人はオススメしませんよ?」


 そこにレナが待ったを掛ける。



「あー、アレですか? ここも」

「はい、幽霊が出るとかなんとか」



 その言葉に過剰反応するのはタシュである。


「えー!? 記者さんはそれが分かってて僕を一人部屋に!?」

「だってあなた、急遽ついてきたし」

「ま、それは()()()()()。じゃあ僕が男気を見せないとね」


 一転を胸を張って見せるも、やはり気になるのだろうか。

 彼はなかなか部屋には入らない。


「……ちなみに、どんな幽霊が出るの?」

「えっ」

「どんな幽霊? 血まみれの女とか出ないよね?」

「えー、あー」


 質問にレナはあごへ手を添え、首を傾ける。


「えーと、中年の男性? だったかな? えぇ、別に害があるとかは」

「ならまだマシかな」

「何かあったんですか?」

「えっ?」


 今度はジャンヌが質問。

 レナは目を丸くする。


「いえ、我々は幽霊が『執着のある場所へ出る』という仮説を立ててますから。ここもそういう(いわ)れがあるのかと」

「あ、あぁ! はい、そうですね。火事? とかあったんだったかな?」

「はぁ」

「あーやだやだ! そんなの聞いたらますます怖くなるよ! じゃ、また夕飯のときに!」


 タシュが横から会話を切って部屋へ姿を消す。

 するとレナも、


「私たちも荷物を置きましょう」


 先に部屋へ入ってジャンヌを手招きした。






 2つあるベッドの窓側にレナ、壁側にジャンヌが荷物を下ろす。


「あー、いいマットレスだ!」


 無邪気に喜ぶレナへ、ジャンヌはジャケットを脱ぎつつ声を掛ける。


「シャワーを浴びたいので、先に使っても?」


 すると彼女はベッドで大の字になって手を振る。


「あーどうぞどうぞ。ゆっくり使ってください」

「どうも」






 さて、それから20分くらいか。

 タシュが部屋で、持ってきたナッツ缶をおやつにしていると、


『ミスターケンジントン』


 ドアの向こう、ノックと同時に声がする。


「どうしたんだい、ジャンヌ」

『少しお話が』


 彼がドアを開けると、ジャンヌが部屋の中へ入ってくる。


「夕飯まではまだ時間があると思うけど、僕が恋しくなったかな? しかもシャワーまで浴びてくるなんてまぁ」


 タシュはドアを閉めつつジョークを飛ばすが、


「おっと」


 部屋の中央で振り返ったジャンヌの表情は真剣だった。

 まぁいつも真顔の生き物なのだが。

 彼女は表情どおりの平板で、かつ真面目な声で告げる。



「私、思うのですが。彼女は」

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