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3.はい終わり もう終わり!

「まずは聖アンソン教会の墓地です」


 馬車に揺られながら、レナはガイドのように話す。


「さいですか……」


 対面でテンションが上がらないジャンヌに代わり、


「そりゃまた、ダイレクトに幽霊がいそうな場所を出してきたな」


 アーサーが相槌を打つ。


「『聖徒の日』でもあるまいに。何が悲しくて他人の墓参り」


 ジャンヌはというと、返事はしないが愚痴は宣う。

 馬車の窓を開けて頬杖を突き、外を眺めている。


「どうしたメッセンジャーくん。やけに嫌がるじゃないか。怖いのか?」


 彼女は血の気が多い。挑発すれば少しは火が着くだろう。

 そう踏んでアーサーが煽るも、


「いたら怖いですよ? いたら」

「でも君はいないと思っているんだろう? なら平気じゃないか」

「いなければ徒労です。貴重な『依頼が入っていない1日』を、こんな意味不明なことで潰されようとしている」


 乗ってこない。

 乗ってないくせに、ダウナーなまま攻撃性は健在。


「あはは、は……」


 さすがのレナも、この空気の悪さには苦笑いするしかない。


 アーサーとて伯爵であり、社交界で浮き名を流した男。

 マスコミからは追われた経験も多々ある。

 なのであまりいい印象は持っていないのだが、


「メッセンジャーくん、あまり彼女を困らせるもんじゃない」


 思わずフォローに入るほどである。

 相手が若い女性というはあるかもしれない。多分に。


 しかし彼の(たしな)めが効いたのか。

 ジャンヌは実にメンドくさそうにではあるが、レナの方を向く。


「でもまぁ、いいんじゃないですか? 墓地」

「そ、そうですか? 恐縮です」

「だって幽霊()()()()()()いそうですし。そこで見えなかったら『私には見えない』ってことでいいですよね? そしたらもう現地解散で帰っていいですよね?」


 と思えばこの態度。

 これで彼女なりのフォローだとしたらおそろしいことである。


「ま、墓地で幽霊見たことないんですけどね」

「あはは……」


 強引に押し掛けたとはいえ、少しレナがかわいそうな空気に。

 アーサーが閉塞感をなんとかしてほしいなと思ったそのとき、


「お客さん、着きましたよ」


 ちょうど馭者が救いの手を差し伸べてくれた。






 レパルスはキングジョージから大都市まるまる一つ跨いだ先。

 事務所でインタビューを受けているときは午前だったが、駅に着くと昼になっていた。


 そこからしばらく馬車に揺られてたどり着いたのがアイアン・デューク。

 人口は多いが『ウォースパイト通り』などと比べると田舎である。



 そんな街の、中心から少し外れた、かといって端でもない立地。

 慎ましくもアクセスに不便ではない位置を占めるのが、


 白い壁に青い屋根。玄関側に塔が一つのよくあるデザイン。

 聖アンソン教会である。


 建物こそ小さいが裏手の敷地は広い。

 もともと礼拝のためというより、墓地を作るにあたっての付属品だったからだろう。



 しかし、3人とも修道士でも敬虔な信徒でもないが、王国民なりに国教徒。

 無視はせずに一応祈りを捧げてからいよいよ本命の墓地へ。


 ちなみにジャンヌが祈ったのは、



『幽霊探しとかいうクソくだらない(よこしま)な考えで来たことをお許しください』






 だが、ゴチャゴチャ言ってたって来たもんはやらなきゃしょうがない。

 まずは墓地の入り口に立って雑観。


「どうですかメッセンジャーさん?」

「いかにも墓参りな人々が実は参られる側なら、ちらほら」

「あー、確かに。どうやって生きてる人間と見分けたらいいんでしょうね?」

「私に訊かれましても。企画持ってくるなら知っといてくださいよ」

「近くで見たら分かるかも?」

「そんなテキトーな」

「危険なゴーストだったら、近付くとお陀仏ではないかね?」


 雑観というより、ただただ雑。

 無駄な時間を食っていよいよ中へ。






 平日なので人が多くはないが、それでもチラホラ人はいる。

 また、たくさんの墓には花が備えられていて、優しい明るさに満ちている。

 教会の人の撤去が雑なだけかもしれないが。


「とても心霊スポットとは思えんな」

「えぇ、死んだらここに埋葬してほしいくらいです」

「それはいい。君が化けて出るなら、私の老後も寂しくない」

「伯爵が先に死んでください。そのへんの海に流します」

「なるほど。一つの墓で偲ぶより『いつでも海さえ見ればそこに私を感じられる』ほうがいいと」

「けっ」


 あんなに()()()()していたジャンヌも多少饒舌になるほど。

 しかし、それはそれで話が目的から外れつつある。


「あ、あの、今すれ違った人とかどうですかね!?」

「あなたも見えている時点で、推して知るべきでは?」

「確かに」


 レナが話題を戻そうとするが空振り。


「このままじゃ記事が“『メッセンジャー』に密着! 伯爵にすら慇懃無礼な素顔!”になっちゃう!」

「ははは、オカルト誌どころか3流ゴシップ誌だな」

「オカルトも広義のゴシップですからね」

「しかし、世間の人はまず『メッセンジャー』って誰だ、から始まりそうだが」

「それくらいでいいんですよ。下手に有名になっても困る。今でもたまに政府やギャングからスパイ尋問やらされるんですから」

「えっ!? 国家機密じゃないですか! 詳しく!」

「心までゴシップ誌になるな」


 じゃあなんで取材受けたんだ

 となる会話をしていると、なんだかレナまで食い付いてきた。

 これはこれでマズいので、ジャンヌの方から修正に入る。


「とにかく、分かりやすく透けてるとか足がないとか首がもげてるとかはいません。そうじゃないなら見分けがつきません。以上! 解散!」


 なんなら打ち切り宣言すらするジャンヌだが、


「うーむ」


 レナはペンを下唇に添え、思案顔。


「まだ何か」

「メッセンジャーさん。幽霊ってどんなところに出ると思います?」

「はぁ?」


 露骨に『なんだコイツ?』という顔になるジャンヌだが、


「そりゃ大抵は、生前の執着とかに関係するところなんじゃないですかね」


 早く切り上げたいので真面目に答える。

 しかしそれが逆効果。


「そうなんですよ!」


 レナは『我が意を得たり』と声を上げる。


「自分が化けて出るときだってそうですよね!? 死んで急に与えられた墓より、思い出の場所とかに出ますよね!?」

「メッセンジャーくん。なんか嫌な予感がしてきたぞ」

「奇遇ですね。私もです」


 ジャンヌが一歩退がろうとしたそのとき、

 一瞬早くレナがその手を握る。



「というわけで、次回はそういう場所へ行ってみましょう!」



「いや、もう終わりでいいでしょ……」

「またお暇なときを伺って参上します!」

「嘘ついてやる」

「所長に!」

「伯爵ぅ〜」


 タシュなら金のために(あとはおもしろがって)オフの日を教えるだろう。

 助けを求めるように振り返るジャンヌだが、


「まぁ、いいんじゃないのか? まだ『きゃーっ! 伯爵ーっ!』って抱き付いてもらっていないし」

「今ここで埋めてやる」

「海に流すんじゃなかったのか」


 受難はもう少し続きそうである。



「これが呪いや祟りなら、幽霊はいるかもしれませんね……」

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