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8.憎しみの連鎖

「なんだって!?」


 駐留軍と現地民の衝突。

 それはモンナウにいる私たちには、にわかに信じがたいことでした。


「そりゃ本当か!?」

「隊長が『総督府から通信が入った』って言ってた! どっちかが3流の漫談家(ジョーカー)でもなきゃマジだ」

「なんてこった……」


 しかもマズいことに、


「で、どうなったんだ?」

「軍が負けたらしい」

「なっ!?」

「それで現地民は銃を手に入れて、こっちにも向かってるって話だ」

「ウソだろ……」


 いえ、決してキディーブの人々が負けて死んだ方が、という話ではありません。

 ただ事実として、中心地側のキディーブ人は全土から王国人を排除しに、


 つまりはまだ戦いが終わらない、

 これ以上の血が流れる選択をした、ということです。



 そもそも()()の発端ですが、


「どうしてそうなった!」

「どうやら中心地の方はモンナウと違ってな。全然現地民とうまくいっていなかったそうだ」


 元々キディーブには特別搾取したい名産品があるわけではありませんでした。

 ただ王国が一大海運網を築くにあたり、モンナウがちょうどいい中継地点にあった。


 ですので、言ってしまえば内地の方まで行く必要はなく、

 そちらの部隊は悪い意味ですることがない、やや虚しい日々を送っていたそうです。


 なのに『宣教師スピリッツ』とでも言いましょうか。

 無駄に奥地へ踏み込んだものですから。


 そう、『スピリット』なのですよ。

 故郷から遠い、環境も言語も不安な土地。

 そこで兵士たちの気持ちを保たせるのは『使命感』なのです。


「オレたちにはタータや子どもたちとの触れ合いがあった。数学やサッカーを教えた。お菓子をあげたりもらったりした。そこに()()()()を持っていたさ」


 でも中心地側は人数が多く見慣れぬ車両も複数台、総督府は建物が大きい。

 現地民からすれば、威圧感があったのでしょう。


「向こうじゃそういうのはなかったらしい」



 さらによくなかったのが立地。


 当然我々には本国から物資が届きます。


「それに内地は輸送船が直接来るモンナウと違って、届くのが遅いだろ?」


 となると、食料などは現地調達しなければならないのですが、


 モンナウは港町です。

 作物の他に漁も可能で、食料は豊かにして選択肢がある。

 人数が少ないのもあって、現地の人たちも分け与えてくれる余裕があった。

 最悪自分たちで釣りでもなんでもできた。


 でも内地側には海がない。

 人数も多い。


「だから現地民から強制的に徴収していたらしい」


 彼らが必死に育てた作物を、です。

 これがやられる側からすれば、いかに受け入れがたいかは考えるまでもない。


 なんなら、やる側だってうれしい行動ではありません。

 使命なき土地で、無意味に滞在して物資に困り、結果道徳のない行為に手を染める。


 彼らは(すさ)み、ただでさえ悪逆な行為は乱暴さを増しました。

 具体的な内容は言いますまい。

 まず第一に私もマルクスも聞いていない。

 キディーブの人々が踏み躙られる姿など、箇条書きでも知りたくなかったから。


「それで耐えきれなくなった人たちが蜂起したってことか……!」

「あぁ。こっちより部隊人数が多いったって、キディーブ人全体よりは断然少ない。それで負けたらしい」


 おそらくは油断と、使命感がなかったり自己嫌悪だったりのダラけもあったでしょう。

 強力なライフルも扱うのは人間ですから。

 ボコボコに負けた、というよりは、すぐに逃げたのではないでしょうか。


 まぁ彼らの末路は同情できないのでいいとして。


 問題は復讐に燃える現地民が、モンナウにもやってくるということです。

 王国軍を制圧して手に入れた武器を持って。

 そう、王国生まれのライフルも扱うのは人間です。


「お、オレらはどうなるんだ? どうするんだ?」

「それは今隊長が本国と連絡取ってる」


 蜂起した勢力も無傷ではありません。

 なので『こちらへ来る』と言っても、今日明日のことではない。


 それでも事態は一刻を争うわけで。



 その日のうちでした。


『一時撤収』


 キディーブを離れる指示が下されたのは。






 数日後には中心地から退却した仲間の収容も完了。

 モンナウ駐留部隊の撤収準備は完了しました。

 あとは船に乗り込むだけ。


 というわけで早朝、いよいよ出発と港に整列し、点呼を行なっていたときです。


 同じキディーブ人のツテで、中心地で何があったかの情報を持っていたのでしょう。

 そのうえで、私たちが何をしようとしているのか察したのでしょう。


「おいスティーブ、あれ見ろ」

「あ、



 タータ! オファ! 女将さん! みんな!」



 なんとモンナウの人々が、見送りに来てくれたのです。


 皆驚いて硬直していると、


「みんな」


 その一団から、タータが飛び出してきました。

 腕にはバスケットを下げていて、中には焼き菓子と


「これ、あげる。朝、起きた。作った」


 モンナウ駐留部隊人数分の花冠。

 少女は精いっぱい腕を伸ばして、一人一人の頭にそれを載せました。


 最後に被せられたマルクスへバスケットを渡すと、それが合図。


「総員、乗り込めーっ」


 隊長の指示で乗船することに。


 順番待ちで並んでいるマルクスと私の袖を、タータはそっと握りました。


「マルク。ステブ。また、来る? いつか」


 マルクスは少女の頭を撫でてやると、優しく言い含めました。


「王国とキディーブのケンカがどうなるか。それによっては、もう会えないかもしれない」

「そんな」

「でも、直接は来れなくても、オレたちは必ず何かのかたちでモンナウを。タータたちを助ける。



 遠く離れても一緒だ」



 気休めだったかもしれません。

 タータがどう受け取ったかは分かりません。


 しかし、その会話を最後に

 私たちはモンナウをあとにしました。






 それから一週間近く航海したある日の洋上でした。


「おい! ありゃどこの艦隊だ!?」

「マスト見ろマスト!」


 私たちは巨大な戦列艦の艦隊とすれ違いました。


王国旗(Noinu Kcaj)だ! 味方だ!」

「やった!」


 乗員の大半は内地から命からがら逃げ延びてきた兵士です。

 彼らは味方の一大勢力に安堵と興奮の様子でしたが、


「おい、マルクス」

「……言うなスティーブ」


 私たちモンナウ勢は違いました。



「あれがモンナウに向かうってのか……?」






 それからまた数日後。

 私たちは王国へ帰ってきました。


 事情聴取がありますから、一度本部まで召還されたのです。


 そこで私たちが目にしたのは、しばらくぶりの新聞に載っていた



 艦砲射撃で壊滅したモンナウの写真でした。

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