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7.きっとそれを望んでいたはずだから

「テイム氏からの、最後の宿題というわけですね」

「うん。だからどうしても解きたいんだ」


 レオンだけではない。

 4人分の力強い瞳がジャンヌに集中する。


「でも」


 それが一転、レオンの言葉に合わせてシュンと伏せられる。

 彼女も理由を大体察せるところ。


 絞り出されたレオンの声は、それを裏付けるような悔しさに満ちている。



「どれだけがんばっても、分からないんだ」



「だって、今までは詰まってもおじいさんがヒントをくれたんだもの」


 フェデリカが補足を挟む。

 別に必要な情報ではないが、レオン一人に背負わせないためだろう。

 分からないことは何も悪いことではない。

 それでも子どもなりの仲間意識、庇い合いだろう。


「そんなとき、おじいさんが小説のネタに残していた新聞の記事を見つけて」


 すると今度はマイロが繋いで、


「そこに載っていたんです。王国には『メッセンジャー』って人がいるらしい、って」


 アリシアがゴールへ。


 そんな話を書くのは新聞ではなくゴシップ誌ではなかろうか

 というのは置いておいて。


 もう分かっているようなものだが、ジャンヌは居住まいを正し、


「では依頼人の皆さま方」


『ジャンヌおねえさん』ではなく『メッセンジャー』として、改めて聞く。



「今回のご依頼、当初は『遺産の入った金庫のキーが分からない』と伺っていたのですが」

「うん」


 レオンが申し訳なさそうに目を逸らす。

 なので彼女は顧客を安心させるべく微笑んでみせる。


「本当のご依頼はなんでございましょうか?」


 すると彼も、意を決したように目を合わせる。

 真っ直ぐ、真っ直ぐ、思いの丈を示すように。


「『メッセンジャー』は物の『残留思念』ってのが読めるんだろ?」

「さようでございます」



「この暗号書に残ったじいさんの思念を読んで、謎を解き明かしてほしい」

「かしこまりました」



 今度はニッコリ優しいというより、彼女本来のニヤリ。

 早速くだんの置き手紙を受け取ろうとしたところで、


「ところで、『心が読める』って本当なの?」


 フェデリカが横から口を挟む。


「な、何を急に!」


 マイロが『失礼だろ!』というように取り乱す。


 しかし子どもの好奇心を考えたら、むしろよく今まで聞かずにいられたくらいだろう。


「問題ありませんよ。デモンストレーションをお求めになる方は多くいらっしゃいます」

「本当?」

「リーカさんもお試しになられますか?」

「やったぁ!」


 フェデリカが無邪気にはしゃぐ一方で。

 ジャンヌは手袋のホックを外しつつ、


「あ、そうだ。先に聞いておきたいのですが」


 レオンへ目を向ける。


「なんだよ」

「なぜ『遺産の金庫が』などと虚偽の依頼を?」


 彼の顔がサッと赤くなる。

 非常にバツが悪そうな態度から出た答えは、


「……()()()()なんか、断られると思ったからだよ」

なるほどね(I ees)






「クッキーをつまみ食いで全部食べてしまったのを、飼っている犬のせいにした、と」

「ごめんなさーい……」

「何やってんだよおまえ」


 フェデリカの思わぬ前科が暴かれたところで。


「ではレオさん。そろそろ本題の方へ移りましょうか」

「うん」

「えっ、あっ」

「おや? ではエルシさんはあとで」

「はいっ」


 普段の大人が相手なら、心が読めると知った途端引き気味になるところ。

 やはり子どもの好奇心は純粋である。


 そのままの気持ちで乗り込んできた彼らをこそ、偏屈じいさんも愛したのだろう。


 ジャンヌは封筒を丁重に受け取り、中身の便箋を取り出す。

 まず読心せずに文面を読んでみると、そこには



『The next key is in the Deer Man.』



 という謎の文章。

 そして右下に、


「ふむ」



El reimerp(君との) rinevuos(最初の) ceva ut,(思い出、) te al(その) etius.(続き。)



 と、ヒントらしきものが書かれている。


「どう? なんか分かる?」

「いいえ、なんにも」

「そっか、そうだよな」


 ジャンヌが即答すると、4人は少し安心したように息をつく。


 おそらく、意外と簡単な内容だったら、自分たちで解けなかったことに

 じいさんとの最後のゲームに、他人の手を入れたことを悔いてしまうからだろう。


 だから

『大人でも分からない』『これは仕方ない』

 という免罪符ができて安心したのだ。



 さて、それでここからが本番。


「では失礼して」


 ジャンヌは膝の上に暗号書を載せると、素肌の右手で触れ、そっと目を閉じる。


 集中する気配に、言われなくとも分かるのだろう。

 子どもたちは物音ひとつ立てず、固唾を飲んで見守る。


 もっとも、老人が一人で書き、最近子どもたちに発見されるまで眠っていたのだ。

 そんなたくさんの残留思念が染み付いているわけでもない。


 そう時間が掛かることもなく


「さて、何から話しましょうかね」


 ジャンヌは便箋を封筒へしまう。


「読めたの!?」


 そこにフェデリカがすかさず食い付くと、

 彼女はウインクとともにサムズアップで答える。


「やったやった!」

「すごーい!」


 マイロとアリシアもハイタッチして喜ぶなか、


「じゃ、じゃあ教えてよ! その暗号の意味って!?」


 レオンが代表して踏み込む。


 しかし、


「うーむ」

「な、なんだよ」


 ジャンヌはあごに手を添え、答えない。


「もしかして、実はダメだったのか?」

「そうではありませんが」

「じゃあどうしたんだよ。言えない何かがあるのかよ」

「いえね?」


 彼女は添えていない左手の方を挙げて、焦った様子のレオンを落ち着かせる。


「これは提案なのですが」

「提案?」

「今までの謎解きゲームは全て、行き詰まったらテイム氏がヒントをくれたのですよね?」

「そうだよ」

「だっておじいさんは答えを知っているんだもの」


 フェデリカが相槌を入れた瞬間、


「あ、もしかして!」


 マイロが声を上げる。

 ジャンヌの意図に気付いたらしい。

 彼女はそちらへ軽く頷くと、視線をレオンだけでなく、全員と合わせていく。


「だから皆さんは今まで、助けはありつつも謎を全て自分たちで解いてきた」

「そうです。あ!」


 アリシアが分かった顔をすると、レオンの目も大きく開く。

 フェデリカはちょっとまだ。


「それで言いますと、今回は私が答えを知っています。なので、



 ヒントは出しますから、最後も自分たちでやり遂げてみませんか?」



 その言葉に


 子どもたちはむふーっと鼻の穴を広げ、胸を膨らませ、

 キラキラした笑顔をいっぱいに浮かべる。


 きっと、テイムと遊んでいたときのように。


 そんな彼らの答えはもう、読心するまでもなく決まっていた。



「「「「そうする!!」」」」

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