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小説が書けない君へ  作者: あかいの
2/2

メフィスト①

元々あった2〜4話を削除しました。

少し路線変更します。

 その黒猫と出会ったのは近所にある神社でのことです。その時の僕は大学四年生でした。思えば神社に訪れたのはこの時が人生で初めてだったと思います。

 それまでの僕は神の必要性に関して非常に浅慮でした。なぜ人は神に祈るのだろう?と疑問に思ったことはありました。しかし、神に祈るぐらいなら自分で解決したらいいのにと思っていたからです。そんな僕が初めて神を必要としましたのです。

 僕は賽銭箱にとりあえず財布の中にあるだけの小銭を入れ、うろ覚えの所作の後、手を合わせ神に祈りました。すると後ろの方から、

「何を祈っているのだ?」

 と声が聞こえました。

 後ろを振り返ると、そこには誰もいません。よく見ると、一匹の黒猫がいました。しかし猫が喋るわけありません。だから目と首を可能な限り動かし声の主を探しだしました。

「お主、吾輩の声が聞こえるのか?」

 とその黒猫は言いました。猫の口元は全く動いてません。それでもその猫が話しかけてきたとなぜか確信しました。

「…………猫?」

 僕は啞然とした心持ちでただそれだけを言いました。

「そうだ。吾輩は猫である」

 黒猫はそう言いました。目の前の現象を受け止めきれず、僕の頭の中はパニックになりました。

「……名前はまだないのかな?」

 パニック中の僕の頭に浮かんだのは漱石の有名なあの文でした。だから何となくそんな問いかけを黒猫にしました。

「メフィスト」

 黒猫は端的にそう名乗りました。 

「いい名前だね。何でも願いを叶えてくれそうだ」

「その代わりお主の魂をいただくがな」

「僕はあげれるよ。本当に叶えてくれるならね」

「ほう。面白いの。お主名前は?」

「……三島恵(みしまけい)

「三島か。切腹でもしそうな苗字だな」

「死にたがりという意味では間違ってないかもね」

 これが喋る黒猫、メフィストとの出会いでした。 

「メフィスト、君はどうして猫なのに喋れるの?」

 僕は当然の疑問を口にしました。

「込み入った事情がある。話すと長くなる」

 とメフィストはそれだけ言うと、今度はこちらに質問してきました。

「どうしてお主は神に祈っていた?」

「込み入った事情があるんだ。話すと長くなる」

「そうか。お主は、小説を書くのか?」

 唐突にメフィストそう訊ねてきました。

「そう…だけど、どうしてそう思ったの?顔にでも書いてあった?」

「吾輩と話せるということは、そういうことなのだよ」

「君は小説を書く人と話せるってこと?」

「概ねそうだ。より正確に言うなら、今回はお主だったということだ」

「………どういう意味?」

「まあこっちの話だ。気にせんで良い」

 とメフィストは意味ありげにそう言いました。

「でも、それだと君とはすぐ話せなくなるかもね」

「どういう意味だ?」

 そう聞き返したメフィストは首を傾げ考える素振りをしましたが、

「なるほど。お主、筆を折ろうとしているな」

 とすぐさま僕の意図を理解しました。

「今時小説を手書きしている人は珍しいけど、その通りだよ」

「なるほど。込み入った事情とはそのことか」

 それから僕らはお互の『込み入った事情』について交互に開示することにしました。

「吾輩が喋れるのは元人間だからだよ」

 まず初めにメフィストの方から開示しました。

「呪いをかけられてな。今はこの通り猫に魂を宿している」

「呪いか。呪なんて普通なら信じられないけど、こうして君の存在を知ってしまった以上、信じるしかないんだろうね」

 喋る猫が存在するなら呪いも存在するだろう。そのような少々雑な理屈を頭の中で立て、メフィストの言う事に納得しました。

「どうして呪いなんてかけられたんだい?誰かの恨みでも買ったのかい?」

「恨みというよりは恐怖だな。吾輩の作品に恐れ慄いた輩が吾輩をこのような姿に変えたのだ」

「作品?」

「吾輩も物書きだよ」

 元人間の喋る猫。

 元小説家の喋る猫。

 それが謎の猫メフィストの正体でした。

「まあ"だった"と言うのが正確だな。呪いのせいで吾輩はもう書くことはできん。猫に魂を宿したというのは、この呪いの表面的な内容に過ぎない。この呪いの本質は吾輩から小説を奪うことにある」

 吾輩の一番大事なものを奪うことにある。

 メフィストはそう言いました。

「君にとって小説はそれだけ大切なものなんだね」

「生きる意味だ。さしずめ今は生き地獄だよ。意味もなくこの世に存在している。お主はどうなのだ?お主にとって小説は何だ?」

「………生きる意味だよ」

 僕もそう言いました。

「奇遇だな。しかし、ならばなぜ筆を折ろうとしている?言っておくが、生きる意味無しに息をするのは思いのほか苦しいぞ」


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