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第一話~折角の帰省~

京都から横浜へ向かう電車の中、俺は本を読んでいた。

主人公がいて、特別な力を持ったヒロインがいて、二人を取り巻く仲間がいて、ヒロインの力を使って世界を支配せんとする悪の組織がいて、なんていうベタなRPGのような展開の小説だ。

俺は王道な話が大好きだ。無理に開拓した複雑で難解な凝った話はどうも好きになれない。型にはまったものだからこそ安心できるし、純粋に物語を楽しむことができる。

そう思う。


俺は音楽も好きだ。歌い手の洗練された歌声を聞くと、心が落ち着き、なんとなく感傷的な気持ちになる。


ふと、窓の外を見ると田園の風景が広がっていた。人の姿は見えず、ただただ、ぼ-っと引き込まれるように眺めていた。


本に栞を挟んでバッグの中に詰め込むと、そのまま睡魔が襲ってきて眠ってしまった。



横浜駅に着くとそのまま別の電車に乗り継ぎ、実家へと向かう。


地元の駅についてからの、家までの徒歩の道のりは昔(といってもほんの半年前だが)と変わらず、自然と歩く足が速くなる。


しばらく行くと母校の中学校が見えてきた。なんとなしにその頃の思い出がよみがえる。友情や勉強、恋に翻弄した思春期時代。その頃の記憶は、あるいは遠い幻想教のようなものでのような存在で、永遠にいろ。

ふと、後ろから懐かしい声が聞こえた。奇跡のような確率でそいつと出会った。


「あれ、もしかしてとおる君?透君じゃない?」


かわいらしい、愛でたくなるような声。

振り向くと、そこには昔と変わらない姿があった。

背が低く、19にもなって、なお、幼い顔をした女の子。


「あっ、やっぱりそうだ。久しぶりだね、透君。」


にっと笑う顔がまた母性本能のような保護欲を駆り立てる。


「葛城か?久しぶりじゃん。中学以来?」


葛城---葛城菜々美は俺の小・中学生の頃の友達だ。

こいつとはちょっといろいろあった。要するに、元彼女だった。

そのころの葛城はお調子者で、笑顔の絶えない女の子だったのだが、今は少しばかり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。やはり、時の流れは人を変えてしまうんだなと、そんな当たり前のようなことを思った。


「そうだね。高校に入ってからは音沙汰なかったからねー」


中学を卒業してから、俺のほうから縁を切ったのだ。なぜそんなことをしたのかは覚えていない。覚えていないが、どうせろくでもないことだろう。あの頃の俺の考えていたことなんて。



そのままその場でいろいろな話をした。中学時代の思い出話や高校、大学のことなど、話題は尽きることはなかった。彼女は終始笑顔だった。そんな所は昔から変わらない一つの特徴だ。そんな葛城に、魅せられている自分に気が付いた。もっとも、それにどれほどの意味もないのはわかっていた。彼女は妊娠していたのだ。ずいぶんと早い結婚だなとは思ったが、素直に祝福した。おめでとう、と。すると彼女はやわらかな笑みで返した。ありがとう、と。

その表情は本当に幸せそうで、見ているこっちまで幸せになるような、そんな顔をしていた。


「あっ、もう2時間もたってるよ!そろそろ帰んなきゃ」


「そっか。それじゃ、こっちもそろそろ行くかな」


「また、今度はゆっくり会おうよ」


「うん、そうしよう。それじゃね」


そう言って僕らはその場で別れた。


ようやく家の前について、深呼吸。すーはーすーはー。


「よしっ」


覚悟を決めて、インターフォンを鳴らす。

久しぶりの家族との再会だ。なぜか緊張した。

しばらくすると勢いよくドアが開いて、小学生ぐらいの女の子が出てきた。もちろん、星香だ。


「おかえり!とおにぃ!」


そういって飛び掛かってくる星香を両手で受け止める。


「少しでかくなったんじゃないか、星香。」


「うん!お兄ちゃんが家を出ってから2センチも伸びたんだよ!」


ハイなテンションの星香の背後には両親が立っていた。

ほめながら星香の頭をなでると、嬉しそうな顔をして静かになったので顔を後ろに向け、言った。


「親父、おふくろ、ただいま」


母親がそれにこたえる。


「お帰り、透」


やさしく出迎えてくれたことに安心しつつ、家の中に入る。

家の中もやはり、街と同様に俺が最後に見た時と変わっていなかった。

それだけで妙に安心する。


どうやら、今日は海人を置いて旅行する予定だったが、急遽、俺が来ることになって旅行を取りやめたらしい。海人も損な役回りだと思ったが、それ以上に旅行を中止させてしまったことのほうが気になった。


そうして、両親と妹とともに談笑した。

学校はどうだ、とかみんなはどうしてる、とか、そんな他愛のない話。

だからこそ、それが起こった時はかなり焦った。

日が暮れ始めて、もうすぐ海人が帰ってくるんじゃないかという頃のことだ。

町が光に包まれ、自分が引っ張られるような感覚に襲われる。

いやな予感ばかりが先行したから、とにかく星香だけでも守ろうと妹を抱きしめる。


遠退いてきた意識の中で思った。


どうか海人が無事であるようにと。。。

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